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ドールガール  作者: stenn
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温かな手


 絶対、嫌だもん!!! 嫌だったら、嫌だ。




 イベントとは何か。それをレクチャーされた後私は全速力で手芸屋から逃げ帰って来ました。




 男二人を残して。




 なんでトラウマキャラクターのコスプレを私が? 信じられない。まぁ、でも言ってなかったのもあるけど……。



 でもっ、縁なんてそんなこと知ってるはずなのに、嬉しそうに生地選んでさ! 多分あの顔は作りたいだけなんだろうけど、私は着ないんだから!




 立ち寄ったファストフード店。ポテトとバニラシェイクを飲みながらスマホに目を向けると結構メッセージが入っていたけど無視して私はそれを鞄の中に押し込んだ。




 ……。




 ああ……いつの間にかポテトがないや。Lサイズ頼んだのに。




 ささくれた気持ちで、ため息一つ。時計に目を落とすと電車の発車時刻が近づいて来ていた。学校から此処までーーつまり私達の帰り道とは別方向に私たちは来ていた。わざとだろうけど閑静な住宅街の中に学校はあって、少し出ないと買い物なんてできないんだよね。まぁ、寄り道をするな。ということなんだろうけど。




 私はゴミを捨てトレーを片付ける。そのまま出ようと思ったんだ。ただ、私の通り道を遮るように一人の男性が立ちはだかった。




「五木ーー『五木 恋』ちゃんだよねぇ。あの有名なーー」




 浮かべている薄ら笑い。良い雰囲気も感じられなくて私は軽く身構えてしまう。



 年の頃は……分からない。なんだか声からすると若そうだけど。だって前髪が伸び切り目元がよく見えないから。服装はオシャレでもなんでもなく、特に特記するものも無い、カーゴパンツとシャツだった。




 当然だけれど、知り合いでも何でもない。名前を知っているーーというのは不気味以外の何者でもなかった。




 どこで知ったか、なんて『有名な』と付け加えられた時点で察する事ができるよね。



 ……。



 もう笑うしかないよ。




 うん。あのサイト潰れればいいのにね。




「……退いてください」




 脇をすり抜けようと試みるけれど嫌な似たついた笑みで私の通り道を遮ってくる。




 私は男の顔を非難するように見上げた。




「退いてください」




「その顔、可愛いねぇ。やっぱり。……こんなところで会えるとは思わなかった。ふふぅ。写メ撮っていいよね? あ、あっちに公園があったしそこで撮ろうよ?」



 ……。




 ぐ、聞いてないし。行かないし!




 とにかく、負けないんだから。背中に嫌な汗が滲むのを感じながらかばんからスマホを取り出した。




「大声を出しますよ? ケーサツ呼びますよ?」




「……酷いなぁ。リアルディアたんは。そんなこと言わないけどそれもいい!」




 ……。




 ……。



 喜んでらっしゃる。はは……は。そこのお客さん。奇異な目で見るのはやめて助けて? 避けないでよ。スルーしないで?




 目を合わせよう?




 困ってます。



 外から見ると子供が怪しい大人に絡まれている図にしか見えないのに何で?




 世間は冷たいんですが。寒風が……。




「さ、行こうか?」




 だ、か、ら。嫌だって。




「行かないですってば!!!」




「えー? なんで?」



 何でじゃない!




「知らない人に付いて行ったら駄目だと教えてるので」




 私が何かを言う前に声を出したのは縁だった。ニコリ微笑む少年はかなり怒ってる。その手にはちゃっかり買い物袋が下げられているけど。




「誰? 彼氏?」




 違うけど、いたらなぜか、不服らしい。ワントーン声が落ち、私を軽蔑する目で見つめている。




 なんで?




「そうそう。彼氏。だから、変態は消えろよ? テメェの居場所は二次元だろ? こっち見んな」




 そして、こっちは少しご機嫌になったし。ただ、言ってる言葉はすごくひどいと思うんだけど?




 ただ、擁護すると経験上厄介なので黙るしかなかった。




 そうしているうちに男は『俺のディアちゃんが汚れた!』なんて言って泣きながら出ていったんだけど。




 ……。



 ええと。




 ……。




 まぁ、いいかな。




「ザマァ」




 どこかの悪役よろしくクククと喉を鳴らしている縁。こうしていると某『越後屋』にしか見えない……。金色の羽織とか似合いそう。まだ若いところが難点だね。




 ……今は放映していない黄門様が懐かしいわ。私結構なマニア……じゃなくて。




 私は少し昂ぶった気持ちを落ち着かせるようにため息を吐き出した。




 笑いかけるとすっと目線を逸らされる。どうやら少しまだご機嫌斜め。




「縁……ありがと。ごめんね?」




「ったく、腹減ったならそう言えっての。スマホ。無視したら心配すんだろ? ーー案の定だし」




 不服そうに言いながらカツカツとカウンターに歩く。何か買うらしい。




「そうじゃ無いけど……あ、映見君は?」




「置いてきた、なにやら文具店に寄って行くって言ってたし興味ねぇから」



 だよね。私が苦笑を浮かべているうちに手っ取り早く会計を済ませ縁は手提げ袋を私に押し当てた。




 中には小花柄とか、北欧デザインの生地とか糸とかいろいろ入っている。フワフワと春らしいシフォンまで。




 可愛いし手触りもいい。




「んで? どんな服がいい? コスプレは嫌なんだろ? 来たついでだし、作ってやるよ」




「え?」




 スタスタと店を出て歩く縁に私は小走りで付いていく。照れているのか何なのかいつもよりペースが早いんですけど。




 でも……なんか嬉しいな。私に気付いてくれてたんだ。なんだか胸が温かくなるよ。




「まぁ、手作りなんて貧乏臭くて嫌だってんなら別にいいけどさ」




 ストローを歯で潰しながら振り向く縁。やっぱり照れているためか怒っているのか何なのか面白い表情。




 子供の頃から変わらないなぁ。ほんと。




「ありがとーー嬉しいな」




 そう言うと縁の顔は面白いほど赤く染まった。


布地はお高いです。いくら使ったのか……(-_-;)

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