約束
前半と後半のノリが……。
ねぇーー君。これ落とした?
私と彼はそうやって出会ったんだ。まるでドラマみたいだね。そうやって仲良くなってーー惹かれて行って。同じ思いだど信じていたのに……。
なのに……。
夕焼けが包む帰り道。すれ違う彼の横にはよく見知った隣のクラスの少女が居た。
ーー付き合ってるらしいよ?
そう言ったのはまりちゃんだった。
私が居るはずだった処。隣で笑う少年と目が合うと心臓が締め付けられるようだった。
振られたのにまだ終わってないんだなーーと思う。
「元気?」
何とも言えない空気に彼は顔を引きつらせている。それを壊すようにむりやり私は彼に笑いかけた。
握りしめた拳に汗が滲む。
「ん。克馬君こそーー二人は付き合ってるんだよね?」
「……う、ああ、うん。そう」
なに? その歯切れの悪さは。明らかに彼女の視線が冷たいよ? 私の事を気遣ってくれてるのかなぁ?
「ーーそれより、なんかそっちは景気いいみたいじゃん?」
気を取り直したように顔を上げた。それに同調するように彼女か笑う。
「イケメン二人に囲まれて羨ましいって、みんな言ってるよ?」
……。
……みんな? 羨ましい?
そんな風には見えないんだけどなぁ。誰も絡んで来なくなったし。うーん。
あ、皮肉か。皮肉なんだね?
「ま、どう見ても保護者と子供の構図なんだけど……ふふふ。子供好き(ロリコン)には受けるんだよねぇ。五木さんは」
嫌な感じだなぁ。初めて話したけどこの人。
まるで映見君と縁が変態みたいじゃない。二人共変な人なのは認めるけどさ。乙女とアニヲタだし。
……。
なんだろう。なんか、ムカついてきた。その雰囲気を悟ったのか、もう行こうぜ? と克馬君は彼女の腕を取っている。
「ってか、そこしか需要無くない?」
なんか、キモい。そう付け加えてコロコロと笑う。
確かに。確かにそうだね。別にいい。これから大きくなればいいだけだし。
ゆらりと私は威圧するように彼女を見つめる。彼女はたじろいだように見返した。
「……な、なによ?」
「なにも。けど、楽しい? そんなこと言って楽しいの?」
「な……もう行こうぜ」
「私の外見は確かに子供でそっち方面にしか受けないかもしれない。けれど、縁も映見君もそんな趣味があるから私に近づいたんではないよ? 縁は幼なじみだし、映見君は友達だしーーだからね。認識変えてほしい」
多分、映見君は友達だよね。
おそらく趣味に付き合ってくれる人がいなくてアニメのキャラに似てる私に親近感を覚えたんだと思う。
彼女はヒキっった笑いを浮かべる。まるで自分が優位にたっているかのように。
かと言って私が勝ち誇っていわけでもないけどね。
「そんなわけーー」
何か言おうとしたところで私の背中に影が落ちた。見上げると縁と映見君が並んで立っていた。
仲良かったっけ? この二人。
縁は私の背に立ち、克馬君を見据え、映見君はフラフラと彼女の横に立った。
近。軽く笑いかけてるし。
彼女は驚いた様子だったが見惚れるように頬を軽く染めた。
……。
「へぇ、レンに絡んで楽しいの? よぉ、克馬。大した女だな」
眼光鋭く見る縁。喧嘩に強くないくせに、なんだか威圧だけは出来るんだよね。縁は。
克馬君は怯んだように喉を鳴らした。
「ぐ……い、いこうぜ、英里! 英里」
英里。何回目かで彼女は我に返ったように『うん』といって引きずられていく。
その姿を見ながら、別れるな。とは思ったけど口には出さなかった。
「ったく。何なんだよ……」
ガシガシと頭を掻きながら独りごちる縁。映見君は私に柔らかく微笑む。
「ありがとね。五木さん」
「なにが? あ、そんな事より帰ったんじゃ? 縁は部活でしょう? ……まさか一緒に帰るの?」
言うと顔をしかめてみせた。不快そうだね。
因みに縁の部活はバスケ部。朝練あるらしいけどサボるのが日課。レギュラー取れないしそんな厳しくないしいいとの事。
「なんでだよ? レンを見かけて付いてきたらなんかからまれてるし。こいつとはその時会った」
「……図書館に行こうと思って。少し調べたい事が……あ、吉岡君、五木さんに聞いたんだけど君もアニメ見てくれたんだってね?」
「え? ーーあ、うん」
あの後貸したんだ。見たかどうかは知らないけど。映見君の目が輝いて縁を見ている。
感想求むーーと。
当然縁は顔を引きつらせ、目を泳がしてる。ジワリと額に汗が滲んでるのは気のせいではないかもしれない。
「ええと、あ。うん。面白かったぞ。ええと、特にヒーローが悪者と戦うところとか」
ええと。それって、ほとんどのアニメに当てはまるような? 見てなくない? 縁。
「そうだよねぇ!!! あのディラルはカッコいいよね!! でも、僕は悪役のブァリアン卿だよ!! あの強さ! 引き際の良さ!! でも、それよりもヒロインの女の子が!!!」
食いついたっ!! 縁、大きく顔を引きつられせるけど絶対気付いてないよ映見君。
……。
うん。
私は黙っていよう。目を合わせないようにーーって、それは許されなかった。
「っか、レンもそう思うよなぁ!?」
なにが?
グルンと首が180度動く勢いなんですけど!! っか、縁。逃げないでぇ!!!
私は必死に縁の袖を掴んだ。
「あ、そうだよね!! そう思うよねっ!?」
「え、あ。うん……ええと」
言えない。覚えてないなんて言えない……。
感想書いたけど、面白くなかったなんて、言えないーー。
「それじゃあ、今度イベントに行こう! みんなで。丁度二週間後の日曜にあるんだ。小さいけど」
……。
……なんの? イベ? お祭りかな? え? やっぱり何の?
いい笑顔で映見君は縁に目を向けた。
「あ、吉岡君手芸得意だったよね?」
あ。睨まないで。怖いから。ほんと。ごめんって。でも、私が言ったんじゃぁーー。
「レン?」
ゴメンナサイ。
縁は低いため息をつくと、腹をくくったのか映見君を見つめた。
「で、だから?」
「うん。手芸屋さんに行こう!」
なんで?
気が付けば失恋のことなど忘れている私がいた。