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ドールガール  作者: stenn
4/18

休日の過ごし方


 かれこれ十時間ほどテレビの前に座ってます。朝起きて、昼が過ぎ、夜になりーー。まるで引きこもりさながら休みの日をテレビの前で過ごしましたとも。




 ああーーカーテン今日開けてないなァ。



 考えながら隣においてあったポテチをぱくつく。



 うん。美味しい。子供の頃から変わらない味って素敵だよね。



 テレビ画面に映るのはアニメ。なんか映見君に押し付けられたのよ。いまイチオシのアニメらしいんだけど……。



 これ、面白いのかなぁ?



 でもせっかく貸してくれたんだから、感想言わないと。



 うーん。




 あくびを噛み殺しながらオレンジジュースを手にとって口に運ぶ。なんかダメ人間になった気分だわ。



「珍しいじゃん。レンがアニメ見るなんてさ」



「う……ん。借してくれて……」



 ん?



 ……。



 あれ? ここって、私の部屋だったよね?



 思わず見回してみるけど間違いない。別に寝てるわけでもないし。うん。



 ……。



 ええと。




 なぜ、声が?




 気のせいだったらいいな。と無駄な希望を描きつつ隣に目を向けるとこじんまりと体をたたんで私の隣に座っている縁。彼は私のポテチを当然のように口へと運びながらテレビ画面を見つめていた。



「縁」



「ん。……面白いのか? これ」



「あまりーーじゃなくて、なんでここにいるの? ここ、私の部屋だよね?」



 子供の頃はよく遊びに来てたんだけど、ここ数年はパタリとくることは無くなっていた。まぁ、幼馴染とは言え女の子の部屋だし入りにくいということもあったんだろうけど。



 因みにリビングには吉岡家よく出没してます。お母さんとおばさんが仲良くて。



「なんでって……部屋から出ないレンが不気味すぎるから様子を見てこいって言われたんだけど? ーーきっとよく成長するな、横に」



 小馬鹿にしたようにイイヒと笑う縁。私は嫌な予感に背筋が寒くなる思いがした。だ、大丈夫! 一日ぐらい大丈夫だもん!



 そう、信じたい。



「ま、太っても子豚みたいになるだけじゃん? コロコロうまそうに」



 言いたい放題。ぐやしい。反射的に近くにあったクッションを投げつけたが見事にキャッチ。というか余裕。驚いた様子も見せずニヤニヤしてるだけだよ。




 悔しい。精一杯私は縁を睨んでいた。




「うるさいよ。縁のバカ、私、これ見なきゃなんだし早くでてってよ」




「ちぇ、わあったよ。あ、でもほら」




 立ち上がると、縁は私にレース編みで作られたシュシュを渡した。ピンクと白が入り混じった薄い色に赤いイチゴのモチーフが揺れている。




 かわ……。



 いいーーそう言う前に再び私の掌から縁のもとに。




「?」



 貰うことが当然と思ってるわけじゃないけれど、縁は子供の頃からいつもこうして小物をくれる。



 そう、自身が付けることの出来ない『作品』。当然縁のお手製なんだけど。



 くれないの? 



 もはやパブロフの犬かも知れない。貰えないことが結構悲しかったりする。



 ーーだってかわいいし。縁は私の好みをよくわかってるんだよね。



 見上げると、縁は微かに頬を赤らめた気がした。なぜかやけくそと言わんばかりに口を開く縁。



「う、ぐ……そうじゃない、けど。そ私の関係ーーその前に、そ、そのアニメ誰から借りたんだよ?」



「映見君だよ? 縁も見る? ……又貸しだけど言っておくし」



「……」



 何故顔をしかめるんだろう? 嫌そうに。ため息一つ。シュシュを私に押し付けた。



 くれるの?



 コレくれるの?



「……やっぱ変態じゃねぇか。また、お前目当てじゃねぇ? て、レン。聞いてるのかよ? オイ」



「うん〜聞いてる」



 鏡はどこに置いたっけ? 髪結んで見たんだけど。まぁ、いいか。縁に聞けば。



 私は縁に向き直すとニコリと笑いかけた。



「似合ってる?」



「……」



 ……。



 ……。



 なぜ微妙な顔をするんだろうなぁ。似合ってないのかなぁ。子供っぽいとか。それって完全な子供って言うことかなぁ。口元がピクピクしてるし。



 ……悲しい。



「ち、ちびっ子かよ? 俺が付けてやるからーー」



 軽く苦笑した後で『こうしたらもっとーー』そう呟きながら縁は私の髪を解いて三つ編みにしていく。



 スラリと伸びた長い指。見上げるとすっと整った横顔が見える。茶色い双眸。



 ……やっぱり勿体無いなぁ。



 残念。



 私以外の女子と仲良く話せない性格治した方がいいと思うけど。



「ねぇ、好きな娘って……誰?」



 なんとなく、私は口に出していた。別に好奇心で聞いているわけじゃない。ただ力になりたいな。そう思ったんだけど……肝心の縁は私の髪を持ったまま固まってる。



 石か、何か?



 あ、錆びついたロボットのように直線的に私を見たよ。固まったままの表情。そんなに聞かれたくなかったんだろうなぁ。なんだか寂しい。



 信用されてないみたいで。



「あ、ごめん…、力になれたら、と思ったんだけど」



「俺は……レンーーあの……」



 縁が何かーー意を決したように言い掛けた刹那ーー私のスマホが軽い音を立てて遮った。ん、某SNSの通知だ。ごめん。言葉を残してテーブルの上にあったそれを覗き込むと、映見君が『どう?』と可愛いスタンプ付きでメッセージを送ってきていた。



 丁度いいや。私は文字を画面に打ちながら顔を上げる。



「あ、縁も見るって送っておくーー」



 すでに、いないし。



 借りないのかなぁ? 結局何が言いたかったんだろ? 考えながらスマホを放り投げると、お母さんが血相変えて飛び込んできた。



 慌てて私の掌を強く握ってくる。覗き込まれる目が些か怖かったりするんだけど。何かしたっけ?



「大丈夫よ!! お母さんもお父さんもいるから!!! 味方だからなんでもいいなさい?」



 ぅえ? なに、突然?



「だから、引き篭もるなんて悲しいこと言わないで!!!!」



 は?



 あ、お父さんがお母さんの背中からひょっこり姿を。目頭が熱くなっているのか軽く目尻を抑えている。



 ええと?



「病院一緒に」



 いやいやいやいや!!!!



 あ、向こうで縁がニタリと笑ってる!



 勝ち誇ったように。



 ちよ! 何でこんなことするのっ! 縁のバカ!!!



 覚えていろ!!!!





 私は結局、この後両親を説得するのに三時間ほどかかってしまった。

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