お昼休みのお弁当
昼休み。映見君が宣言してから人が引くように周りから誰もいなくなったなぁ。あの人自身は気にしてなさそうだけど。
でも酷い気がする。『そんなこと』ぐらいで。所詮顔かなぁ。って虚しくなるもん。
……。
それにても今まで毎日女子に囲まれてた分なんか少し可哀想かなぁ。なんか騒ぎ作った私のせいかもって思えてくるし。
寂しそうだし。
「まりちゃん。映見君呼んでも良い?」
隣でお弁当を広げているまりちゃんーー『一宮 茉莉』っていうんだけどーーに問いかけると『仕方ないなぁ。可愛そうだもんね』と笑う。さっきは全力でスルーされたけど優しい! さすが!
まりちゃん大好き。
……食い意地ははってるけどね。
「その代わり卵焼きちょうだい」
すでに食べてるじゃないか。もう。
席を離れ私は映見君のお弁当箱をのぞき込んだ。
……。
……。
キャラ弁。なんか白いご飯の上海苔で細かく絵が書かれて……。それを嬉しそうに見ているイケメンの図がまたシュールというか。なんというか。
しかも、この絵。見たことある気がする……某海賊アニメのヒロインだよ。
それにしても、おかずばどこに?
「あ。五木さん」
ようやく私の存在に気付いたらしく彼は顔を上げ柔らかくニコリと微笑んだ。こうして見てれば王子なんだけどな。
「ええと、一緒に食べないかなって思って」
まりちゃんに視線を向けると彼女はブンブン手を降っているけど、私のエビフライが口の中にあるような?
まずい。早く戻らないと。
「ありがとう。吉岡くんはいいの?」
大事そうにお弁当を抱える映見君。そう言えば一口も減ってなかったなぁ。
でも、なんで縁の話が?
私は小首を傾げながら机を移動させる。
「え? だって縁とは朝会うだけだし」
「付き合えばって言ってるんだけどね。見た目かなりいいから。中身は乙女なんだっけ?」
うわぁ。それをバラしたら縁に殺されるんだけどなぁ。別に乙女というわけではなく、趣味が乙女っぽいというだけなんだよね。本人は気にしてるみたいなんだけど止められない。そんな感じ。
思わずまりちゃんに言っちゃってーー面白いからーー黙っていてって言ったのに。
「まりちゃん」
私が抗議するとおどけてみせる。
「吉岡の事なんて誰も気にしないって」
うん。さらっと、酷い。酷いよ? まりちゃん。イケメンだけど女子から存在感消し過ぎの縁が悪いかもだけどさ。
ま、幸い映見君は縁の趣味には興味無いようだった。椅子に座ると再びお弁当を開いている。
「ふぅん」
「ねぇネェ、そのお弁当、映見君が作ったの? 凄いねぇ」
「うん。朝これしかできないからおかず作れなくて。いつもはみんなが恵んでくれるんだけど」
あーー。うん。毎日取り巻きがキャッキャッしてたもんなぁ。これ食べてとかあれ食べてとか。この弁当見てなかったんだろうな。もしくは現実見たくなくてスルーしてたか。
「朝から凄いねぇ。私なんていつもぎりぎりで。ママに怒られて起きるんだけど」
だから朝ごはんなんてカロリーメイト的なものが友達だし。悲しそうに付け加えると……私のエビフライがもう一本って……。
「あっ、ちょっとぉ!!!! 私のメイン〜」
「トマトあげるから」
「それ、まりちゃんの嫌いなやつじゃん。あ、これ貰うから!!!」
ミニハンバーグゲット! まりちゃんは大げさに声を上げているけど別に怒ってるわけではなくてカラカラと面白そうに笑ってる。その横で映見君も笑っていた。
「まるで小学ーー」
生だと最後まで言うことなくまりちゃんによってご飯が口に押し込められる。
どっちかと言うとまりちゃんも私と同類ーー身長が低いーーなんだけど、小さな女性と見られるだけまだいいんだけどな。かなり気にしているためかその辺は過敏なんだけど。
「まりちゃん。まりちゃん。落ち着こうか? 映見君目を白黒させてるし」
死ぬからね?
「だってぇ」
そう言いたいのはこっちなんだけどなぁ。むせる映見君の背中を撫でながら子供にそうするように『めっ』とすると肩をすくめてみせた。それは『私悪くないもん』そう言っているようにみえる。
まぁ、見えるだけであとからきちんと謝るのはわかりきってるけど。
「大丈夫?」
「うん、ごめん。むせちゃってーーでも。思ったとおりでよかった」
「なにが?」
「ディアちゃんみたいに五木さんはとても優しいってことだよ」
……。
……。
私はアニメなんて詳しくないんだけどね。ほんと。けれどもその名前だけは知ってる。知ってるんだから。
『祈りの巫女ディア』大地に落とされヒーローとともに世界を取り戻すために戦う乙女。まぁ、乙女というより幼女……なんだけど。ヒロインが幼女ってどういうこと?
このアニメさえ、アニメさえなければ私は変な人に追っかけ回されることもなく平和ーーまぁ容姿は変わらないけどーーだったのに。
血の気が引くのを感じて私は後退る。その肩をまりちゃんが抱いてくれた。
当然だけどまりちゃんも私の事情は知ってる。今までとは違う厳しい顔で映見君を見つめている。
「へんた、い?」
「さ? よくわからないけどーーでも、五木さんは五木さんだし。三次元が二次元に叶うはずないよね。ただ少し似てるな。そう思っただけで……僕は」
……比重が二次元に傾いてる時点でどうなんだろう? 笑顔のイケメンはそれに気づいているんだろうか。ていうか……彼女ってまさか。
頭が痛くなってきた。
「彼女さんって」
「ディアちゃんは俺の嫁だよ?」
あ、うん。
ですよね。
普通に言った。なんの疑問も躊躇もなく。笑顔で一人称まで変えてきたよ。も、いっそ清々しい。が、変態だと思う。何度も言うけどそのディアちゃんは幼女ーー設定はなぜか成人ーーだし。二次元だし。
でも、害はない、かな? 私に。
「じゃあ、なんで私に付き合ってなんて? 買い物でしょう? プレゼントか何かを」
母親、とかかなぁ? にしても何を買うつもりなんだろう?
「え? 付き合ってとか言われたの?」
これはまりちゃん。なぜ驚く? まりちゃんまで咽てるので私は彼女の背中を撫でた。
「買い物にだよ、そんな意味じゃないし」
「……へぇ」
生温かい目で見るのやめようか? 泣いちゃうから。うん。その横で映見君は小首を傾げた。
「ま、でも嫁に買ってもなにか問題が?」
……。
……。
うわぁ。
引くことを笑顔で……ぶれないね。この人。まぁ、いいか。ともかく害はなさそうだし。縁真ん中に立てれば何とかなるはずだよ。縁には悪いけど。きっと友達でも出来きれば私なんて放置になるだろうし。
転校生だしね。
ため息一つ。
私は心の中で白旗を上げていた。




