仲間集め 3
翌日、ユフィルは早速朝から魔法の訓練を受けるべく、魔法士団長に呼び出された。
私もユフィルと一緒に訓練しようと決めたので、それについて行った。
総合訓練場に着くと、魔法士団長は私を見て、顔をしかめた。
「……何故、勇者様もご一緒に? よもや、まだ私や副団長が彼をぞんざいに扱うと、お疑いなのですか?」
「え? あっ、いえ、違います、そうじゃありません! 私もユフィルと一緒に訓練しようと思って来たんです! ……その、昨日は、すみませんでした。失言でした。反省してます。本当に、ごめんなさい」
そう言って、私はぺこりと頭を下げた。
「…………いえ。こちらこそ、申し訳ありませんでした。団の者の力を軽んじられたとはいえ、陛下の御前で平常心を欠くなど、醜態を晒してしまいました。私もまだまだのようです。……さて、訓練をなさるというなら歓迎致します。早速始めると致しましょう」
「あっ、はい、よろしくお願いします! 頑張ろうねユフィル!」
「はい」
こうして、私とユフィルは訓練を開始した。
今日は最初という事で、簡単な火の魔法を教わる事になった。
ユフィルはやはり才能があるようで、教えられた魔法をすぐに使えるようになった。
これには魔法士団長も驚いて、『本当に才能があったとは……』と呟いていた。
そして、私はと言えば。
お昼近くになって、漸く蝋燭に灯された程度の大きさの火を出せるようになったところで、訓練の終了を告げられた。
★ ☆ ★ ☆ ★
昼食を挟み、ユフィルは午後も引き続き訓練をすると魔法士団長から告げられていたので、なら私もと思ったのだけれど、『勇者様は残りの仲間を誰になさるかをお考え下さい。その選考の為に午後は各団の団長や副団長と交流なさいますように』と言われて、訓練を断られてしまった。
確かに、残りの仲間を決める事も大切だと思うけど……その台詞を言った時の、魔法士団長のあのひきつった顔は……いや、考えちゃ駄目だ、やめよう、うん。
仕方なく、私は仲間を決めるべく、行動する事にした。
けど、誰にしよう?
陛下からは、各団の団長と副団長の中から残りの仲間を決めるように言われたしなぁ。
各団の、団長と…………副団長。
その言葉が引き金になって、私の脳裏に騎士団副団長の姿が浮かんだ。
……旅の目的はどうあれ、ヴェルと旅したら、きっと楽しいよね……。
……って、ダメダメ、ダメだって!
ハッピーエンドは無理なんだよ!?
ヴェルの友情エンドバッド編は手紙のみだよ!?
ユフィルにするって決めたじゃない!
ふらつくな、しっかりしろ自分!!
私はブンブンと首を振り、頭の中からヴェルの姿を追い払った。
しかし。
「おや? これは、勇者様。こんにちは。本日は、どこへ行かれるのですか?」
「え……!?」
廊下の曲がり角からヴェルが現れ、微笑みを湛えながら、そう私に声をかけてきたのだった。
……な、何故、このタイミングでヴェルが現れるんだろう……せっかく、脳内からその姿を追い出したのに……。
私はがっくりと項垂れた。
「勇者様? どうなさいました? どこかお体の調子でも……?」
そんな私の様子に、ヴェルは心配そうにそう尋ねてきた。
あ、いけない、余計な心配させちゃってる!
「いえ、どこも悪くはありません! えっと、ちょっと考え事してまして!」
「考え事、ですか?」
「はい! えっと、魔法士団長に、残りの仲間を決める為に各団の団長や副団長と交流をって言われて、総合訓練場を追い出されまして。それで、誰の所に行こうかと考えてたんです!」
「ああ、なるほど。仲間を決める事は、重要ですからね。しかし……魔法士団長様に、"総合訓練場を追い出された"というのは、どういう……?」
「あ、はい。私、ユフィルと一緒に訓練を受ける事にしたんです。早速午前中の訓練から受けてたんですけど……私の才能のなさに呆れたのか、午後もユフィルと一緒に訓練しようとしたら、ひきつった顔の魔法士団長に、ああ言われてしまって。それで大人しく、誰かの所に行こうとしていたんです」
「………………なるほど。まあ、訓練の結果はともかく、努力をしようという姿勢は素晴らしいと思います。さすがは勇者様ですね。……明日の剣術の訓練も、ユフィル君と一緒に受けるおつもりですか?」
「あ、はい。もちろんです」
「……そうですか。………………。」
「? ヴェ……シ、シルヴェルクさん?」
ヴェルの質問に私が頷くと、ヴェルはじっと私を見つめて黙り込んでしまった。
ヴェ、ヴェルにじっと見られるとかされると、非常に落ち着かないんだけど……!!
せっかくの決心が揺らぐからやめてほしいんだけど!!
「……勇者様。仲間を決める為に団長や副団長と交流なさりに行くというなら、本日は私にお付き合い下さいませんか?」
「え……ええっ!?」
「ああ、申し遅れましたが、私は騎士団副団長の……おや? そういえば、何故私の名前をご存じなのですか?」
「え……あっ!? え、えっと、そう! 昨日、騎士団長さんに聞いたんです!!」
「団長に? ……そうでしたか。……では、もう必要ないかもしれませんが。私は騎士団副団長のシルヴェルク・ルーンハースと申します。お見知り置き下さいませ、勇者様」
「あ、は、はい! あっ、私は、アカネ・カジです! こちらこそ、よろしくお願いします!!」
「はい。さぁ、では自己紹介も済んだところで、参りましょうか、勇者様」
「えっ!? ……あ……えっと……は、はい……」
既に"団長や副団長と交流を"と言ってしまった為、副団長であるヴェルの誘いを断る事もできず、私は諦めて、歩き出したヴェルについて行った。
★ ☆ ★ ☆ ★
ヴェルに連れて来られたのは、王都の四階建ての店だった。
ここには、一階に武器、二階に防具、三階にアクセサリー、四階に薬類などが置かれている。
そして私達は今、武器がある一階にいる。
「あ、あの、シルヴェルクさん? もしかして、今ここで私の装備を買うんですか?」
「いえ、そうではありません。装備は陛下がご用意なさると言っていましたから。けれどとりあえず、勇者様が使いやすい武器を見ようと思いまして。この店ならば、取り扱っている武器の種類は豊富ですから」
ああ、なるほど。
確かにここは、扱っている種類は豊富だった。
ただ、勇者の旅の出発点という為か、お決まりのように置かれている物の質は低いんだけど。
「さあ勇者様。まずは片手剣からお手に取って数回素振りをしてみて下さい。それを見た私の見解と、勇者様ご自身の感触を話し合って、勇者様の使う武器を決めましょう」
「あ、はい。じゃあ、この剣から」
私は近くにあった片手剣を手に取り、振ってみた。
それから私達は、武器の置かれた棚を移動し、次々と武器を手に取っては振って、私に適した武器を探した。
その結果、私には片手棍が良さそうだという結論が出されたのだった。