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仲間集め 1

部屋を出て、キャリーケースを引っ張りながら、意気揚々と街へ歩きだす。

まずは質屋へ行ってキャリーケースの中身を全部売り払い、資金を得て奴隷市場へ行く。

そして、彼を買う。

問題はこの中身がどれだけの金額になるかだけど……なんとか交渉して、目的額まで引き上げなきゃなぁ。


「勇者様? どちらへ行かれるのですか?」

「え? ……ッ!」


城門までもうすぐ、という所で背後から声をかけられ振り返ると、そこには騎士団長と、もう一人、男性が立っていた。

その男性を見て、私は息を飲んだ。

金茶の髪に、碧の瞳。

この"女傑!恋戦記"で私が一番好きなキャラ、騎士団副団長、シルヴェルク・ルーンハースが、そこにいた。

ヴェ、ヴェルだ……!!

ああ、かっこいい……!!


「……勇者様? いかがなさいました?」


ハッ!

い、いけないいけない。

ヴェルの不意打ち的な初遭遇につい我を忘れて見入っちゃってたや。

駄目駄目、魔王を倒せない私にはヴェル攻略は無理なんだから。

ヴェルとの友情エンドバッドエンド編は年に1、2回届くかどうかの手紙のみの交流だよ?

そんなの嫌だ、寂しすぎる。


「……街へ行くんです。資金を手にするために、これの中身を売りに行こうと思って」

「資金? ああ、旅の為にですか。それは素晴らしいお心がけです。ですが、旅の資金は陛下がある程度ご用意下さいます。勇者様が私物をお売りになってまで工面する必要はございません」

「でも、資金はたくさんあったほうが安心でしょう? それに、これの中身はいらなくなった物ですから。それに元々、これを売りに行く所でこの世界に召喚されたから、いいんです」


奴隷市場へ行く事は、黙っていたほうがいいだろう。

奴隷市場の商人達は、所謂"裏の世界"の人間だ。

仮にも勇者である私がそんな場所へ行くなんて、明るい"表の世界"代表格の騎士団長達が素直に容認できるとは思えない。

内緒で行って内緒で買って、事後報告でなしくずし的に容認させる。

買ってしまえばこちらのものだ。


「そうですか。わかりました。ではお供致します」

「……えっ?」

「勇者様はこちらへいらしたばかり。街には不案内でしょう。街の治安は悪くはありませんが、危険な場所がないわけでもありませんし、勇者様に万一の事があってはいけませんから」


騎士団長の思いがけない言葉に、私がぽかんと見上げると、彼は続けてそう言ってきた。

……いやあの、ついて来られると困るんですけど。

でもこれ、どう言って断ったらいいかな?

"街の事ならわかるから大丈夫"だと何でわかるんだって事になるだろうし……。


「売りに行くなら、目指すは質屋ですね。さあ、参りましょう」

「え!? あっ!? あの、一人で大丈夫です……!!」

「遠慮なさる事はございません。勇者様の護衛は、職務の一貫ですから」


そう言って、騎士団長は歩き出してしまった。

え、遠慮してるわけじゃないんだけど……!

ああもう、どうしよう?

うまく断る方法が思いつかない……!


「行ってらっしゃいませ」


困惑しながらも私が歩き出すと、背後から声がかかり、ふと振り返ると、ヴェルが右手を胸に当て頭を下げていた。

……あ、ヴェルは一緒に来ないんだね……。

どうせなら、ヴェルと一緒に街を歩きたかったよ……。

そんな事を思いながら、私は騎士団長と共に街へ出たのだった。


★  ☆  ★  ☆  ★


キャリーケースの中身は、かなり高値で売れた。

これならたぶん、彼を買えるだろう。

……残る問題は……。

私は背後にいる騎士団長をちらりと見た。

この人に、先に帰って貰わなければならない。


「……あのぅ……私、ちょっと個人的に買いたいものがあるので、付き合って貰うのも悪いですし、団長さんは先に帰っていて下さい」

「いえ、そのような遠慮は無用です。何処へでもお付き合い致します、勇者様」


私が遠慮がちに告げると、案の定騎士団長は即座にそう返してくる。

……やっぱり帰ってはくれないかぁ。

こうなったら、騎士団長を撒くしか……!!

ああ、でも、私の鈍足じゃそんな事無理だし……どうしたらいいんだろう。


「勇者様? どちらへ参りますか?」

「あ……はい、えっと、ですね……」


こ、困ったな、本当に、どうしよう?

面倒だけど、一旦帰って、一人になってから出直す?

困りきった私がそんなふうに考えを巡らせた、その時。


「や、やめて下さい! 離して下さい!」


近くから、怯えの混じった女性の声が聞こえてきた。


「だ、団長さん、あれ……!」


声のしたほうを見ると、綺麗な女性がチャラチャラした服装の男性達に囲まれ、腕を掴まれているのが目に入り、私はそっちを指差して騎士団長を見た。

騎士団長はそちらを見ると、眉をしかめ、溜め息を吐く。


「……やれやれ、嫌がる相手を強引に誘うとは……。勇者様、申し訳ありませんがこちらで少々お待ち下さい。すぐに片づけて参ります」


そう言うと、騎士団長は足早に女性の元へ歩いて行った。


「……。…………あっ!? こ、これ、チャンスだ!! 今のうちに行っちゃおう!! ……ごめんなさい、団長さん」


しばらく騎士団長の背中を見ていた私は自分が一人になった事に気づき、小声でぽつりと騎士団長に謝ると、奴隷市場へ向けて駆け出したのだった。


★  ☆  ★  ☆  ★


「あ、あったぁ……! 白い檻があるお店!」


うぅ、怖かった……!!

奴隷市場に着いた私は、ゲーム内で攻略対象の少年が売られていたお店を探した。

けれど奴隷市場を進むにつれて、私の胸には恐怖が広がっていった。

奴隷商人達やすれ違う人達から、値踏みするような視線や、舐めるような視線を向けられたのだ。

ゲームで主人公がここを訪れた時は、そんな目で見られたなんて、どこにも出てこなかったのに。

……これはゲームじゃなく、現実なんだ。

今更ながらに、私ははっきりそう自覚した。

その現実で、これから私は人をお金で買おうとしてる。

その事実にも恐怖を覚えたが、いずれこの世界で一人になる事も怖い。

だから結局、私は彼を買う事を止めず、こうして店へ辿り着いたのだった。


「……あの、奴隷を買いたいんですが」


値踏みするような視線を向ける奴隷商人に、私は意を決して声をかけた。

すると奴隷商人はすぐに表情を変え、わざとらしいほどの営業スマイルを向けてきた。


「これはどうも、いらっしゃいませ! どのような奴隷をお求めで? ペット用ですか? 鑑賞用ですか? それとも……慰みもの用ですか?」

「っ…………奴隷、見させて貰います」


奴隷商人の言葉に過剰に反応してしまいそうなのを必死に抑えて、私は白い檻へと近づいた。

中にいる奴隷達をぐるりと見渡す。

……あ……いた!!


「あの子! あの子をください!!」


目的の少年を見つけ、私は喜びを声に乗せ、一人の少年を指差した。

柔らかそうな銀色の髪に、綺麗な金色の瞳。

その風貌は間違いなく攻略対象の少年、ユフィルだった。


★  ☆  ★  ☆  ★


代金を支払うと、奴隷商人はユフィルを檻から出し、その首に透明な輪っかを着けた。

そして私に向き直り、透明な腕輪を差し出す。


「それでは、これを腕にお付け下さい。この腕輪は奴隷の首輪と対になっていて、奴隷は対の腕輪を着けた人物には逆らえません。主人には従順になるよう調教はしてありますが、万一という事もありますので」

「…………。……これ、着けたら外せないんですか?」


私は無言で受け取ると、じっとそれを見ながらそう尋ねた。

奴隷商人は相変わらず営業スマイルを浮かべたまま再び口を開く。


「いいえ、そんな事はございませんよ。ですが一度身につけて戴かなければなりません。それは身につける事で付与された魔法が発動する仕組みになっております。腕輪はもちろん奴隷の首輪も、主人のみが着脱可能になります。これは、奴隷の略奪を防止する効果があります」

「…………なるほど」


つまり、一度は着けなきゃ駄目なんだね。

そう納得した私は、腕輪を着けた。


「これで、腕輪と首輪に、私が主人って認識されたんですか?」

「はい、左様にございます」

「……そうですか。良かった」


そう言うと私は腕輪を外し、次いでユフィルの首輪に手をかけ、これも外すと、地面に捨てた。


「…………は?」


その様子を見た奴隷商人は、営業スマイルを忘れ、目を丸くした。


「さぁ、それじゃ行こうか。これからよろしくね」


私はユフィルににっこりと微笑んで、その手を取り、歩き出そうとした。

その時。


「……お探し申しておりました、ゆ……アカネ様。……このような所で、何をなさっておいでですか?」


地を這うような低い声が、背後から聞こえてきた。


「……あ……っ、ど、どうも……」


恐る恐る振り返ると、そこには案の定、冷えた空気を纏った騎士団長がいた。


「……アカネ様、その少年は? よもや、奴隷をお買いになった……わけではございませんな?」

「うっ……か……買いましたけど……? それが、何か……?」


騎士団長の迫力に気圧されながらも、私はそう答えた。


「……………………。…………店主。今ならまだクーリングオフは可能だな? 返金を求む」

「えっっ!!」

「……へえ、可能ですが……お買いになったのは、こちらのお嬢様ですから、ご本人の意志がなければ、お受けしかねます」

「…………アカネ様。ご返品を」


奴隷商人の言葉を聞いて、更に声を低くした騎士団長にそう迫られる。


「え、う、あ……っ。…………い……嫌ですっ!! 返品なんてしません!!」


私はそう叫んで、ユフィルに抱きついた。


「……アカネ様」

「嫌ですっ! 返品しません! 連れて行きます!!」


そう言いながら、抱きしめる腕に力を込めた。


「……馬鹿な事を言わないで戴きたい。さあ、離れて下さい」

「イ~~ヤ~~!! この子は私に必要なんです!! 絶対に連れて行くんです~~!!」


ユフィルから引き離そうと私の体を引っ張る騎士団長に負けじと、私は必死でユフィルにしがみついた。

私と騎士団長の攻防は、その後しばらく続いたけれど、いつまでたっても一向に退かない私の様子に騎士団長が折れ、私は無事、ユフィルを連れて帰れたのだった。

やはりあったほうがいいかと考え直し、設定にR15を付け加えました。

念のための保険ですが。

これで思う存分イチャラブさせられるはず。

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