表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/47

考え中

与えられた部屋に入ると、私はソファに体を沈めた。

すかさず目の前のテーブルにお茶を出してくれたメイドさんには、『考え事をしたいから』と言って退出してもらった。

けれどとりあえず、出されたものは飲まなくては。

私はカップを手に取り、口元に運びながら部屋の中を見渡した。

白い壁に、白い床の広い部屋。

ふかふかの緑のじゅうたんが敷いてあって、中央に白いテーブルと、それを挟むように置かれた二つの淡い黄色のソファ。

奥には扉があって、その向こうには天涯付きの大きなベッドとクローゼットが置かれているはずだ。

女傑!恋戦記で、勇者となった主人公がしばらく滞在した部屋。

つまり、私がしばらく滞在する部屋だ。


「……女傑!恋戦記の世界かぁ……。私が勇者だなんて……ああ、どうしよう……。仲間集めて旅立たないと駄目、なんだよねぇ」


仲間。

つまり攻略対象者のイケメン達だ。


「ええと確か、初回プレイで仲間にできるのは……あれ? ……あっ!?」


そう口にして、私は目を見開いた。


「わかった、さっき引っ掛かったもの! 団長達が"自分を選んだなら従う"って言ったからだ! 最初、団長達は仲間にできないはずなのに! なのに、仲間にできるの……? いや、従うって言ってたんだから、できるんだよね? う~~~ん……?」


どうしてだろう?

私は首を傾げると、改めて、女傑!恋戦記の内容を思い返してみた。


女傑!恋戦記。

異世界から召喚された主人公は勇者となり、三人の仲間と共に魔王討伐の旅に出る。

仲間にできる、つまり攻略できるキャラはプレイを重ねる事で解放され、増えていく。

最初は、騎士団、魔法師団、獣士団の若手のホープ三人と、王都の自警団の青年。

二周目は、各団の副団長達と、王都にいる冒険者の青年が新たに加わる。

三周目は、各団の団長達と、王都にいる奴隷の少年が加わる。

四周目は、ユーゼリクス王と魔王が加わる。

魔王は、当然仲間にはならないが、条件を満たすとルートに入れる隠しキャラだ。

エンディングは大きく分けて二種類。

魔王を倒すとハッピーエンド(魔王ルート除く)。

逆に魔王を倒せないとバッドエンド。

このハッピーエンドとバッドエンドも、細かく分けると更に二種類ずつある。

まずハッピーエンド。

仲間にした攻略対象者のハートを射止め、旅の中で起こるイベントを全て成功させると、そのキャラとの恋愛エンド。

イベントを失敗した場合は、友情エンド。

次にバッドエンド。

仲間にした攻略対象者の親密度が一定値以上なら、それが一番高いキャラとの友情エンド。

一定値以下ならぼっちエンド。

ハッピーエンドとバッドエンドの友情エンドの違いは、"キャラの近くで生活しいつまでも仲良くする"がハッピーエンド、"遠く離れ滅多に会えない"又は"手紙のみの交流になる"がバッドエンドである。

周回プレイには、レベルと所持金が引き継がれる。


「とまあ、こんな感じの設定なんだけど……何で団長達仲間にできるんだろう? 既に周回プレイしてる……わけはないし。それなら引き継がれてるはずのレベルがまだ1だし。だとすると……全てがゲーム通りではない、って事……?」


考えてみれば、確かに、既にもうゲームと違う点はある。

私が女傑じゃない事とか。

ユーゼリクス王や団長達にそれを確認されるイベントなんかなかったし。

部屋に入ってメイドさんがお茶を淹れてくれるなんてシーンもなかったし、ていうか、部屋にメイドさん登場しないし。


「となると、似て非なる世界って可能性が強いのか……う~~~ん」


……まあ、これについては考えても仕方ないかな。

どうせ答えなんか出ないだろうし。

女傑!恋戦記の世界に限りなく近いのは確かなんだし、それがわかってるだけで良しとしよう。

え~と、あ、そうそう、それとこのゲームには、途中から主人公のライバルとなる少女が現れるんだよね。

彼女より先に魔王を倒さないとハッピーエンドには……って。

あれ、ちょっと待って?

このゲームって確か、魔王倒しても倒さなくても、主人公、元の世界には帰ってない……っていうか、帰れないっていうあり得ない設定じゃなかった!?

普通帰るエンドもあるはずなのに、何それって思った覚えがある!


「か、確認しなきゃ……ユーゼリクス王に、今すぐに!」


私はソファから立ち上がると、ユーゼリクス王の部屋へ向かって一目散に駆け出した。

場所は、わかる。

ゲームで何度も通った場所だ。


★  ☆  ★  ☆  ★


一時間後。

私は部屋に戻り、ソファにうつ伏せに寝転がって、項垂れていた。

ユーゼリクス王の部屋へ行き、勢いよく詰め寄って確認したところ、椅子に座って書類に目を通し片づけていたユーゼリクス王は立ち上がり、申し訳なさそうな顔をしたあと、私に向かって深々と頭を下げたのだ。


『申し訳ございません勇者様。界渡りの魔法は一方通行なのです。勇者様をこちらに呼ぶことはできても、帰すことは……。ですが! 魔王を倒し凱旋した暁にはその後の勇者様の生活は我が国が責任をもって不自由のなきように致します。ですからどうか、どうか魔王を! お願いでございます勇者様!』


ユーゼリクス王の台詞が脳裏に蘇り、私はもう何度目かわからない溜め息を吐いた。


「帰れない……」


ポツリとそう呟き、目を閉じる。

涙が頬をつたい落ちた。


★  ☆  ★  ☆  ★


そうしてしばらく泣いたあと、私は顔を上げ、起き上がってソファに座り直した。

……いつまでも泣いてくよくよしてても仕方ない!

帰れないなら、この世界で生き抜く事を考えなきゃ!

さしあたっての問題は、魔王討伐の旅だね!

私の能力値とスキルから言って、ライバルの少女を出し抜いて魔王退治なんてどうやっても無理だし、となると、ハッピーエンドを迎えるのは不可能だし、なんとかバッドエンドの友情エンドのほうを…………あ。

バッドエンドだと、友情エンドでもお城どころか王都にも残れず、新天地目指して旅立つんだった……一人で。

ユーゼリクス王も、"魔王を倒す"事を前提に話してたし……間違いない。

魔王倒さなきゃ、私、異世界を一人で旅する事になる……!!

ど、どどど、どうしよう!?

ゲームしてたからそれなりにこの世界の事はわかるけど、実際に生活していくとなると……一人でなんて、不安だよ……!!

でも私の能力で魔王討伐は……うぅ……っ。

な、何か、一人にならずに済む手だては…………考えろ、考えろ私!!

ええと、ええと………………あっ!!

あるじゃない!!

特定のキャラだけは、バッドエンドの友情エンドでもついて来てくれるんだった!!

冒険者の青年と、奴隷の少年!!

どっちかを仲間にすればいいんだ!!

ああ、けどどっちにしよう?

この二人だと、私がより好きなキャラは奴隷の少年のほうだけど、彼を仲間にするには、彼を買わなきゃならないし、その為には所持金が…………ん?

……いや……なんとか、なるかも。

そう考えた私の視線の先には、手で掴んでいた為一緒にこの世界に来た、キャリーケースがあった。

この物語はバッドエンドを目指すのを前提に書いているので、"主人公の初期能力値低くても団長達三人仲間にして、旅の中で戦闘なり訓練なりして成長させれば魔王退治できるんじゃ?"というツッコミはご遠慮下さいm(__)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ