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運命の日

「……あの、ヨーゼ閣下? さっきの」

「それについては答えないと言っただろう、アカネさん」

「……どうしても気になるんですが」

「あとでシルヴェルクに聞いてくれ」


だから、その発言が気になる最大の原因なんですけど!?

私は落ち着かない気持ちを抱え、仄かに顔を赤くして、ヨーゼ閣下を恨みがましい目で睨んだ。

『城へ行く前に寄る所がある』とヨーゼ閣下に言われ連れて行かれた、屋敷とも言える程立派で大きな家々が建ち並ぶ住宅地。

お城から近い場所にあるそこは、きっと貴族が住む高級住宅地なんだと思う。

その一角に、他の家と比べると小さな、けれど大きい白い家があった。

まるで、新しく建てられたばかりに見える程綺麗なその家の前でヨーゼ閣下は立ち止まり、私を振り返ると一言、『場所はどこでも構わないから、中に入ってその鞄を置いて来てくれ。はい、鍵。なくさないようにな?』と言った。

どうして見知らぬ家の中に自分の荷物を置いて来なければならないのか、激しく疑問に思った私はヨーゼ閣下にその事を尋ねた。

すると、『俺からは何も答えられないんだ。あとでシルヴェルクに聞いてくれ』との返事が返ってきた。

以降、何度聞いても同じ台詞が返ってくる。

あの家はどうやら、ヴェルに関わりのある家らしい事。

新築のように綺麗な事。

私の荷物を置いた事。

渡されたまま、私の服のポケットに入っている、家の鍵の事。

それらの事から考えるに、あの家はまさか、まさか…………。

想像するだけでどんどん顔が熱くなってくる。

この考えが当たってたら、どうしよう。

…………嬉しい。

両手で頬を押さえ、にやつきそうな口元を引き結ぶ。

そのまま暫く歩いていると、ふいにマオさんが振り返った。


「おい、アカネ。そのみっともなく弛んだ顔を元に戻せ」

「こら、マオ。君は言い方というものを考えろと言っているだろう? ……アカネさん、幸せな状況に喜んでいるところ申し訳ないけど、すぐに気持ちを切り換えてくれ。……ここから先は、気を引き締めて臨んで欲しい」

「えっ。……あ!」


マオさんをたしなめた後、私に真剣な視線を向けたヨーゼ閣下の声に顔を上げれば、いつの間にか私達お城まで来ていたらしい事に気づく。

目の前には、トゥルシエル王家の紋章が施された扉。

この向こうにはきっと、皆が揃っているのだろう。


「はい、わかりました。ヨーゼ閣下。マオさんも、声をかけてくれてありがとう」


この中で起きる事を思い出し、すっかり弛んでいた気持ちを引き締めると、私はそう返事を返した。


「よし。……それじゃあ、行こうか」

「はい」

「ふん。ようやくあの尻軽に復讐ができるな」


ヨーゼ閣下を先頭に、私達は扉を開け、中へと入って行った。


★  ☆  ★  ☆  ★


謁見の間には、どこか重苦しい空気が流れていた。

そこにいるのは既に見知った顔の人達だけで、ユーゼリクス王とヨーゼ閣下の叔父だという公爵様の姿はない。

どうやらもう、断罪された後のようだ。

その場にいる誰もが厳しい表情をしている中で、ただ一人、彼女だけがにこにこと無邪気な笑みを浮かべていた。

でもその笑みは、ヨーゼ閣下やマオさんと共に、玉座の後ろから現れた私を見るなり、不愉快そうな表情に変わったけれど。


「……さて、ユウキ・ムトウ。勇者としての魔王討伐、ご苦労だった。真実は少し違うが、それでも、礼を言うよ。本当にありがとう」

「いえ、お礼なんていいですよ! もったいないです!」


ユーゼリクス王が声をかけると、彼女は再びその顔に笑みを浮かべてそう言った。

そして最後にちらりと一瞬、私に勝ち誇ったような視線を向ける。

……本当に、彼女を気にかける必要なんてないのかもしれない。

彼女を見ていると、そんな思いが沸き上がってくる。


「……それで、君の、これからの事なんだが」

「はいっ」

「この国にいるのは、君の為にならないと思うんだ」

「はいっ! …………えっ?」


ユーゼリクス王の言葉に明るく返事をしていた彼女の声が、不思議そうなものに変わる。

彼女の予想では"城に留まって欲しい"と言われるはずだったのだろうから、当然そうなるよね。


「あっ、あの、今なんて? ……この国にいるのは為にならない、って……どうして?」

「わからないかい? つい今しがた、公爵が罪に問われるのを見ただろう? 君はあの公爵が召喚した子だ。そうだね?」

「そ、そうですけど! あの人は私には何の関係もありません!」

「……そうだね、そう信じているよ。君は魔王の脅威から世界を救った勇者なのだから」

「だ、だったら!」

「けれど。君は、帰国してから今日まで、我が国の騎士団、魔法士団、獣士団の各団長と副団長達に愛を囁き誘惑しただろう? 旅を共にした仲間達には、旅の間に誘惑があったと聞いているよ。……そればかりか、私にまでその対象を広げたろう? しかも、隣国に滞在していた時は、第二王子と第三王子も誘惑していたらしいね」


えっ、第三王子殿下だけじゃなく、第二王子殿下にも手を出そうとしてたの!?

美形には手当たり次第って事かぁ……びっくり。


「いずれも、国を支える重要な人物達だ。……臣下の中に、それを問題視する声が多数あってね。誰も本気に取らなかったから良かったものの、もし君に溺れたていたら……嫉妬や独占欲から、国を支える重要な柱が互いを嫌悪し潰し合うような事態になりかねなかった。……一部では、公爵がそれを狙って君をけしかけ、全員で潰し合った後に自分の目をかけた人物を空いたその座に据えようとしていたんじゃないかなんて声も出ているんだ」

「……えっ……?」

「私の臣下達が君を見る目は、厳しいものになっている。故に、この国にいるのは、君にとって良くないだろうと言ったんだよ。……どうだろう、君が救ったこの世界を、ゆっくり見て回ってみないか? 旅の間は先を急ぎ、ゆっくり観光できていないだろう? 世界は美しいよ。今度はゆっくりそれを堪能するといい」


ユーゼリクス王が言葉を重ねるごとに、彼女の顔が強ばり、色をなくしていく。

たぶん、理解し始めているんだろうな。

ユーゼリクス王がやんわりと告げてるその内容が、ゲームでいうところの、一人ぼっちで旅立つ、バッドエンドであるということに。

私も、途中で勇者の役目を奪われたから、ゲームならその時点でとっくにバッドエンドになってるんだけど。

でも、この後の未来は、ゲームとは違ってきっと、いや絶対、幸せなものだ。

でも、彼女は。


「そんな、どうしてこんな……っ。……っあ、ユ、ユフィル! ねぇユフィル、私についてきてくれるでしょう!? 一緒に旅してくれるわよね!?」

「え? 何でですか?」

「え、な、何でって、だって、私は貴方の主人でしょう?」

「は? ……何を言ってるんですか? 俺の主は、アカネ様です」

「えっ……!? ……じ、じゃあ、セイシャン! セイシャンは、一緒にいてくれるわよね!?」

「ええ? 嫌だよ。君の護衛契約は、魔王討伐の旅から帰国するまで。あの公爵様からもその分しか契約料貰ってないし。君じゃ、新たな契約料払えないでしょ? 俺高いし。……まぁもし払えても、君のお守りはもうごめんだけどね」

「!?」


ユフィルにも、冒険者の青年、セイシャンにも断られ、いよいよ彼女は顔を青くさせて絶句した。

ヘナヘナと、その場に座り込む。

……これで、終わった。

もう、同情も憐れみもしない。

この結果は、彼女の自業自得だ。

…………でも、少しだけ。

いつかどこかで……彼女が根をおろした新天地で、誰かと小さくても幸せな家庭を築く事ができたらと、思う。

同郷の、よしみでね!


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