凱旋パレードの裏で
大通りは、たくさんの人々で埋め尽くされていた。
建ち並ぶ建物の窓という窓からも住人らしき人達が顔を出し、通りに向かって紙吹雪を撒いている。
その紙吹雪の舞う中、大通りの中心を、馬車に乗った勇者が、人々に手を振りながら進んでいく。
周囲を大勢の騎士に守られ、背後に共に旅した仲間達を従えて。
魔王を倒した勇者を讃えるそのパレードを、私は大通りに面した宿の部屋から見つめていた。
「はぁ、凄い。これが凱旋パレードかぁ」
「彼女の、最後の花道だな」
「えっ」
パレードの様子にぽつりと一人をこぼすと、他に誰もいないはずの部屋の中から声がした。
振り返れば、見目麗しい男性が立っていた。
その後ろには、不機嫌そうな黒髪の青年がいる。
「ヨーゼ閣下! マオゼフュートさんも! ごめんなさい、いらしてたんですね」
「……ノックはしたぞ。何故気づかない」
「こら、マオ。すまないアカネさん、マオの言う通りノックはしたんだが、返事がなかったから勝手に入らせて貰った。外のこの歓声では、聞こえていない可能性が高かったからな」
「はい、聞こえてませんでした。あの、ごめんなさい、マオゼフュートさん。……えっと、時間、なんですよね?」
「ああ。迎えに来た。宿を引き払って、城へ行こう」
「はい、わかりました」
ヨーゼ閣下に了承の返事を返して立ち上がり、既に纏めてあった荷物が入った鞄を手にする。
そして最後にもう一度、大通りを行く馬車を見た。
これから起こる事を何も知らない彼女は、満面の笑みを浮かべてしきりに手を振っていた。
「……あの女の事を、お前が気にする必要などないぞアカネ」
「え……マオゼフュートさん?」
視線を彼女から部屋の中へと戻すと同時、ふいにかけられた声に隣を見ると、いつの間にかマオゼフュートさんがそこに立っていた。
「あの尻軽には似合いの結末だ。気にするな」
「マオの言う通りだよ、アカネさん。兄上だって鬼じゃない。彼女が自分の行動や言動を自分で気づいて改めさえすれば、他の道もあったんだ。これは、自業自得だよ」
「…………はい」
「わかったなら行くぞ。それと、俺の事はマオと呼べと何度言ったらわかる」
「あ……はい。ごめんなさい、マオさん」
歩き出したヨーゼ閣下とマオゼフュートさんに続いて、私も部屋を後にする。
……彼女を、気にかけているわけじゃない。
旅の間の彼女の行動や言動には私も憤りを覚えている。
だから……。
このあと、一人国を出される彼女に憐れみを感じてるなんて事は、きっとない。
★ ☆ ★ ☆ ★
魔王は、厳密に言えば倒されていない。
戦闘で瀕死の状態になった魔王を、彼女が嬉々として拘束し、連れ帰ったのだ。
ゲームでは、彼も攻略対象だからだろうけど。
生かす事に反対意見もあったけど、ゲームでの魔王を知ってる彼女と、そして私が頭を下げて頼んだ結果、渋々ながらも聞き入れられた。
そして表向き倒された事になった魔王は、現在その能力のほとんどを封じられ、ユーゼリクス王とヨーゼ閣下、そして騎士団の監視下に置かれている。
普段は騎士団の一員として過ごす彼を、ヨーゼ閣下は時々、自分の供をさせて連れ出す。
どうやら二人は気が合うらしい。
魔王は……マオゼフュートさんは、それを頑として認めず、いつも不機嫌そうにしているけれど。
どうやら私の事も少なからず気に入ってくれているようで、ヨーゼ閣下と同じ呼び方をするように強制してくる。
本人曰く、それは私達をこの国での僕にする為にしている行為、らしい。
馴れ馴れしい態度を許したふりをして懐柔するんだとか言ってる。
懐柔するつもりらしい本人達の前で。
全く、素直じゃないんだから。




