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王子救出の日

翌日、陽が昇る前に宿を出た私達は、お昼前には第三王子殿下が囚われている場所に突入し、無事に第三王子殿下を救出できた。

そこにいた魔物のボスは予想以上に強い上、配下の魔物を呼び寄せられて苦戦を強いられた。

けれど、私とユフィル、そして自警団の少年が配下の魔物を、ヴェルとアレクと冒険者の青年、そして彼女がボスを相手にする、というふうに、それぞれが協力して、勝利をおさめる事ができた。

ボスを相手に戦っていたメンバーは、彼女を何度か庇っていたせいもあって、少なからず怪我を負ってしまったけれど。

第三王子殿下は、第二王子殿下の容姿から予想がついていたけれど、美少年だった。

そんな第三王子殿下に、彼女は戦闘が終わるとすぐに近づき、熱心に話しかける姿に、私は怒りを覚えた。

だって、彼女を庇って怪我をしたヴェル達に一言もなく第三王子殿下の元へ行ったんだから。

そんな彼女を睨みながら治癒魔法をかけていた私に、ヴェルは『気にする事はないです』と言って、こっそり第三王子殿下の顔を見るように促した。

どうしてだろうと疑問に思いながらも見てみると、笑顔で彼女にお礼と感謝の言葉を告げている第三王子殿下の目が、笑っていない事に気づく。

治療を受けるヴェルの隣で、『あの王子様、檻の中で戦闘見てたからねぇ。いくら囚われの身だったからって、自分の為に傷ついた仲間に一切構わず熱く語りかけ続けられれば、普通軽蔑するでしょ。自分の行動の罰を、既に受けてるよ、あの女。それに気づいてないけど』と、冒険者の青年が可笑しそうに笑った。


★  ☆  ★  ☆  ★


その夜は、王子殿下の体調を考慮して、昨夜泊まった宿にまた泊まる事になった。

昨日と同じ部屋で、一人寛いでいると、コン、コンと扉をノックする音が聞こえた。

もしかして……と、来訪者に淡い期待を抱いて、扉を開ける。


「ヴェル?」

「えっ?」


思い描いた人物の名を呼ぶと、戸惑った声が聞こえる。

そこにいたのは、冒険者の青年だった。


「あ……っ、ご、ごめんなさい!」

「……いや、いいよ。ごめんね、あの騎士様じゃなくて」

「う……っ、い、いえ……。そ、それより、何かご用ですかっ?」

「ん? ……ああ……う~ん……」


私が慌てて謝ると、青年は苦笑して首を横に振り、からかうように言った。

その言葉に顔が熱くなるのを感じながら、私は早口で用件を尋ねる。

すると青年は頬に手を当て、何かを考え込むように視線を逸らした。


「? あの……?」

「ああ、ごめん。実はさ、月光浴のお誘いを、再チャレンジしようと思って来たんだけど……あの騎士様の名前呼びながら扉開けるようじゃ、望みはなさそうだね?」

「えっ……と……」


首を傾げて不思議そうに見上げる私に、青年は眉を下げてそんな事を言う。

ど、どうしよう?

ヴェルの告白を受けた以上、他の男性からのお誘いは断るべきなんだろうけど……私は、この青年が嫌いじゃない。

ゲームでの青年は、とてもいい人だし。


「……あの。友人とか、旅の仲間としてならお受けします。それと、他にも誰かが、一緒でいいなら」


迷った挙げ句、私はそう返事を返した。

すると青年は満足そうに笑う。


「うん、勿論いいよ。昨夜の、"奥さんに"とか言った言葉は、冗談だし。ただ、あの騎士様焦らせる為に言っただけだから、あれは気にしないで?」

「あ、やっぱり冗談だったんですね。あれ、びっくりしました」

「はは、ごめん。さて、他って、誰誘う?」

「あ、はい。じゃあ、ヴェルを」

「あ、それは駄目。途中二人で甘い空気作られたら俺の精神削られるし」

「えっ!? ……ええっと……じゃ、じゃあ、ユフィル、なら、いいですか……?」

「うん。じゃあ、誘いに行こうか」

「は、はいっ」


そんなやり取りの後、私達は部屋を出て、ユフィルの部屋に向かった。


「……まぁ、あれで騎士様が動かなかったなら、本気で奪ってたろうけどね。……いいよなぁ、可愛くて料理上手な奥さん。羨ましい」


私の数歩後ろをゆっくり歩く青年が、最後に小さく小さくそう呟いた声が、私の耳に届く事は、なかった。

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