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それは突然に

「それじゃあヴェル、おやすみなさい」


部屋の前に着くと、ちらりとヴェルを一瞥してそう口にし、私は扉を開けて中へ入った。

すると軽く背を押され、そのまま数歩進まされる。

バタンと扉が閉まる音が聞こえ、振り向くと、扉の前にはヴェルがいた。


「ヴェル……? あの、どう」

「アカネ様。……申し訳ありませんでした」

「え?」


どうしたの、と聞こうとした言葉はヴェルの謝罪に遮られ、けれどそれが何についてのものか、咄嗟に理解できずに首を傾げる。


「……私は、騎士です。彼女を勇者として扱うと決められた陛下の意向には、従わざるを得ません。勿論、その意向が明らかに誤ったものならばこの命をとしてでもお諌めしますが、この件に関しては……」 

「あ……うん。……わかってる。公爵様により厳しい罰を与える為なんだもんね。ちゃんと、わかってるよ。……私は、大丈夫。……大丈夫、だから」


どこか辛そうに話すヴェルに、私は意識して笑みを浮かべ、そう言った。

けれど、それを聞いたヴェルの顔はますます辛そうに歪んでしまう。


「ヴェル? ……あの、私は本当に大丈」

「あの青年の言う通り、貴女が寂しそうになさっている事には、気づいていました」

「……え」


大丈夫だと、更に告げようとすると、再びヴェルの言葉に遮られた。

その内容に、私は僅かに目を見開いてヴェルを凝視する。


「……ですが、彼女を無下に扱えない以上、彼女を放って貴女の元へ行くことは、できませんでした。もしそれをすれば、私達を自分の所有物のように語った彼女が、貴女に何をするかわかりません。傲った女性が、見下す者にする仕打ちの酷さは、えげつないものです。私にできるのは、貴女に悪意が向かないよう、彼女の側で彼女を満足させる事だけです。……情けない事ですが」

「……へ?」


そして、続いた言葉に、目を丸くした。

"彼女が、貴女に、何をするかわからない"?

"貴女に悪意が向かないよう、彼女の側で"?

それって、つまり。

あの人といるのは、私の為でもあった……って、事……?

そんな……そんな事……っ。


「……わからないよ。それならそうと、言っておいてよ……! わ、私が、どんな思いで見てたと……! 一言言ってさえいてくれたら、そんな思いしなくてすんだのに!」

「……そうですね。申し訳ありません、アカネ様。考えが足りていませんでした。……結果、余計な虫がわいてしまいました」

「へ? む、虫?」


何の事?

意味がわからずヴェルを見ると、その表情はいつの間にか、真剣なものになっていた。

まるで、何かを決意したかのように見える。


「"仕事"をしているうちに、横から奪われるなどという事態は絶対に避けたい。そんな事、冗談ではありません。……ですから」


ヴェルは私を見つめ、話ながらゆっくりと歩いて、私のすぐ目の前に立った。

そして一度言葉を切ると、その場に肩膝をついて膝まづく。

そして、右手を胸にあてーーーー。


「アカネ・カジ様。私、シルヴェルク・ルーンハースは、貴女をお慕いしております。この命と我が剣にかけて、生涯、貴女を愛し守り抜くと誓います。どうか、私と結婚して戴けませんか」


私をまっすぐに見つめて、そう言った。


「…………っ!!」


私は息を呑み、目を限界まで見開いて、固まった。

だって、これは。

ゲームでは、魔王を倒した後、国に帰って、開かれた祝宴の最中、ちょっとだけと抜け出した中庭で、追いかけてきたヴェルに告げられる、告白の言葉で。

その後すぐにエンディングで。

だから、間違ってもこんなに早い段階で告げられる言葉ではなくて。


「……ああもう、何が何だか……。……ゲームと展開違いすぎ……」

「……アカネ様?」


思わず呟いた言葉に、ヴェルが首を傾げる。

けれどその視線は私に向けられたままで、膝まづいた体勢も変わらない。

……返事を、待ってるんだよね。


「……本当に、私でいいの? ヴェルは凄く素敵な人だし、こんな私なんかよりもっといい人を、きっと捕まえられるよ?」

「貴女よりいい人、ですか? 私にとってはそんな女性、おりませんよ」


小さく問えば、ヴェルは薄く笑ってはっきりとそう返してきた。

その言葉に、覚悟を決める。


「そう、わかった。……なら、喜んで。私も、ヴェルが好きだよ」

「!」


そう伝えると、ヴェルは弾かれたように立ち上がり、私を強く抱きしめた。


「ありがとうございます、アカネ様。必ず、幸せにします。……もっとも、旅が終わるまでは、私はまだ、彼女を優先しなければなりませんが……。体は彼女の側にいても、心は貴女の側におります。ですからどうか、旅が終わるまでは、今しばらく、ご辛抱下さい」

「……うん。……大丈夫だよ。今度は、本当に。ヴェルの気持ちを、教えて貰えたから」


そう言って、ヴェルの背に腕を回す。

……約束だよ、ヴェル。

彼女の側にいるのは、旅が、終わるまで。

その言葉を信じるから、だからどうか、心変わり、しないでね。

何しろ、相手はヒロイン。

しかもゲームの内容を知ってる。

ゲームだとまだ序盤だし、これから起こるイベントはまだまだたくさんある。

ここはゲームとは違うとはいえ、旅の中で、それを体験していけば、どうなるかは、正直わからない。

だけどそれでも、信じているから。

お願いだよ、ヴェル。

ずっと私を、好きでいて。

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