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報告と談義

本日2回目の更新です!

「……以上が、先ほど交わされた話の全てです。意味のわからない言葉もありますが……一言一句、違えずにご報告致しました」


夜の闇の中、机の両脇にある燭台に灯る蝋燭の灯りだけをつけ、私は臣下の話に耳を傾けていた。

その話の内容に自然と眉が寄る。

視線だけで周囲を見回せば、この場に集った全員が似たような表情をしている。


「……馬鹿げていますね」


にわかに訪れた沈黙を、最初に破ったのは騎士団副団長、シルヴェルクだった。


「まるで私達が彼女の所有物であるような言い方ではありませんか。思い違いも甚だしいですね」

「俺の主は、アカネ様ただ一人です」

「……私とて、アカネ様から離れ、彼女のものになどなるつもりはございません」


シルヴェルクの言葉を皮切りに、勇者様と旅路を共にしてきた他の二人も己の心をはっきりと口にする。

その様を見て、私は僅かに口角を上げた。


「アレクセイ、それで、そのあと勇者様はどうされた?」

「は……泣いて、おられたようです。泣き疲れて眠りに落ちるまで、ずっと……」

「ふむ……そうか」

「……かの公爵に無許可で召喚された非公式な存在が、陛下が召喚なさった正式な勇者様を侮辱し傷つけるとはな」

「ああ。たとえ、どんなに能力に差があり優れていたとしても……あり得ない行為だ」


アレクセイの返答に私が声を落とし、短く溜め息を吐くと、私の護衛として共に来た騎士団長と魔法士団長が険しい声色で憎々しげに声を発した。

私は目を瞑り、暫し思考に沈む。

やがて目を開けると、口を開いた。


「……あの少女、それほどまでに勇者になりたいのなら、その役を与えてみようか」

「陛下!?」

「何を申されます!?」

「……アカネ様は、どうするんですか?」


案の定、三人からは驚愕と抗議の声が上がった。

私は視線を上げ、その三人を順に見据える。


「覚えているか? 勇者様は、始めその役目に乗り気ではなかった。違うと、人違いだと、仕切りに言っていた」

「それは……! しかし今では受け入れ、努力しておられます! その旨は定期報告にてしかとお伝えしたはずです!」


私の言葉に、シルヴェルクが僅かに声を荒げ反論してくる。

……この男がこうも感情を表に出し声を荒げるとは、珍しい。

いつもは微笑みを浮かべ、その裏に感情を隠していたはずだが。

勇者様が、変えたのだろうか。


「無論、承知している。しかし……いくら勇者様が無茶をしないとお約束下さったとはいえ、この先また今回のような事が起こらないとは限らん。魔王の居城に近づくにつれ、魔物の強さも変わっていこう。……私は、こちらの都合だけで故郷の世界から切り離し、望まぬ役目を押し付けた少女を、死なせたくはない。その役を望む、能力の高い者がいるのなら、与えてみるのもいいだろう」

「……陛下……」

「しかし、それは……」

「…………」


部屋に再び沈黙が落ちる。

勇者様の心情を思えば、簡単に賛成はできないのだろう。

特に三人は、努力なさる勇者様の姿を、これまでずっと側で見てきたのだから。


「……それとな。叔父上……いや、例の公爵だが。少し調べただけで、こんなものが出てきた」


再び口を開いて沈黙を破ると、私は魔法を使い、いくつかの書類を机の上に出現させる。


「……拝見します」


シルヴェルクとアレクセイはそれを手に取り、記された内容に目を走らせる。


「ユフィル、君も見るといい」

「え。……けれど……」

「構わない。さあ」

「……は、はい」


立場をわきまえ、書類に手を出さないユフィルに許可を出し書類を差し出すと、戸惑いながらもそれを受け取り、読み始めた。

三人の顔が、読み進めるに従って嫌悪に歪む。


「……なかなかだろう? "少し調べた"だけでこれだ。私もまさかここまでとは思わなかった。恐れ入ったよ。……正直あっさり死刑では物足りないが、法律上死刑以外の罰はない。だが……たとえ無許可でも、"魔王を倒した勇者"を召喚した功績を上乗せすれば、生きたまま罰を与え続けられる。死による一瞬の苦しみより、公爵がより苦しむ罰を、与えられる」

「! ……では、あの少女を勇者に据えるのは、その為でもあると……?」

「公爵が陛下を出し抜く為に利用した少女を、逆にこちらが利用するという事ですか……」

「……勇者様には酷だが、理解して欲しい。無論、勇者様には私から話す。許して戴けるまで頭を下げ、償いもきちんとするつもりだ。だが……道中のご心痛に関しては、お前達に和らげて貰うより他にない。……どうか、頼む。この通りだ」

「へ、陛下……!!」


私が頭を下げると、動揺した声がいくつも上がる。

主人たる私への忠誠や、自国の王の頼み、そして勇者様への親愛から、それぞれがかなり悩んでいたが、やがて覚悟を決めたように、全員が頷いた。

……残るは、勇者様への説明か。

どう話しても傷つけるだろうが、それでもできるだけ浅い傷となるよう、言葉を選んで話さねばな。

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