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無能な勇者

何とも言えない空気が流れ、しばらくの沈黙の後、いち早く気を取り直したらしいユーゼリクス王が、私をまっすぐに見て口を開いた。


「勇者様。お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「…………加地朱音(かじあかね)です」

「カジ・アカネ様、ですか」

「あ。……いえ、えっと、この世界だと、アカネ・カジになります」

「アカネ・カジ様……少し変わっていると感じるのは、やはり異世界の方だからでしょうか。けれど、きっと素敵な意味を持つお名前なのでしょうね」


私が名前を名乗ると、ユーゼリクス王は微笑みを浮かべてそんな事を言う。

うわ……美形の微笑みは、迫力半端ないんですがっ。

さすが攻略対象者。

うっかりときめくからやめてほしい。


「あ、あのっ。わ、私、本当に勇者として魔王討伐に行かなきゃいけないでしょうか? 能力値低いし、スキルもこんななのに」


赤くなりそうな顔を誤魔化すべく、話題を探し、私はステータス画面をちらりと見ながら、そう尋ねた。


「………………勇者様は、間違いなく貴女様ですから。……大丈夫です。旅をするうちに、きっと勇者としての才能が開花されますよ。ええ、きっと。それまでは、仲間に頼られるとよろしいかと。是非、頼りになる即戦力の仲間をパーティーにお加え下さいませ」


……うん、あの、"きっと"とか"是非"とか"即戦力の"とかの部分を強調して、まるで言い聞かせるように言うの、やめてもらっていいですか……。


「それでは、私はこれで失礼致します。団長達、あとは頼むぞ」

「はっ」

「え!? ちょっ、ユーゼリクス王様……!?」


ユーゼリクス王は話し終えると、まるで逃げるようにそそくさと立ち去って行った。

ま、待ってよ、嘘でしょ……私に拒否権無しなわけ!?

魔王討伐なんか行きたくないんだけど!!

私死にたくないんだけど~~!!


「……勇者様」


ユーゼリクス王が去ったほうを見つめ呆然としていると、ふいに横から声がかかり、私は視線を向けた。

私の視線を受け、騎士団長が口を開いた。


「陛下が仰いました通り、勇者様には、即戦力となる仲間が必要と存じます。……獣士団の者は強靭な肉体を持ち、戦闘にも長けています。勇者様のお仲間には、獣士団の者がよろしいかと存じます」

「な!? ま、待て! ……勇者様!」


騎士団長の言葉を聞いて、獣士団長は慌てたように声を上げる。


「勇者様は剣も使えぬか弱きおなご。魔王討伐の為には魔法の才を伸ばすのが上策かと存じます。故に、勇者様のお仲間には、魔法師団の者がよろしいかと存じます!」

「な、何を!? ……ゆ、勇者様!」


獣士団長の言葉を聞くと、今度は魔法師団長が慌てて声を上げた。


「騎士団の者の中には、魔法騎士がおります! その者達ならば魔法も剣もお教えする事ができましょう。故に、勇者様のお仲間には、騎士団の者がふさわしいかと!」

「は!? 待て! ……勇者様!」


魔法師団長の言葉に、再び騎士団長が声を上げる。


「勇者様のお仲間には、やはり獣士団の者が!」

「いや、魔法師団の者がよろしいかと!」

「いえ、やはり騎士団の者がふさわしいでしょう!」


……お、押し付け合ってる……私を。

こいつら……私が無能だとはっきりするまでは、"是非自分の団の者を!"って言ってたくせに……!!

団長達の態度に、私の胸にふつふつと怒りが沸き上がった。


「ちょっと……随分じゃないですか? 私は異世界に来たいなんて言った覚えはないし、勇者になりたいなんて言った覚えもないのに……!!」


私の意志なんて丸無視で、勝手に異世界召喚なんてしたのはそっちなのに!

なのにまるで厄介者を押し付けるようなその態度と言動は酷すぎると思う!

まぁ、確かに私は勇者なんて名ばかりの無能な厄介者でしょうけどね!

自分はもちろん、自分の団の大事な部下を無能な勇者につけて無駄死になんかさせたくないでしょうけどね!

という事は私は無駄死に確定だけどね!!

泣くよ!!

そんな事を思いながら私が睨みつけると、団長達は気まずそうな、申し訳なさそうな表情になり押し黙った。

そして。


「……申し訳ございません……勇者様。確かに、我々はこちらの都合のみで、勇者様をこちらにお連れしたというのに」

「決して勇者様の望まれこちらに来られたわけではないというのに、それを忘れこのような態度を取るなど……我々が間違っておりました」

「勇者様。お仲間に関しては、勇者様のお好きな者をお選びご指名下さい。もし我々の誰かをお選びになられるなら、喜んで従いましょう」

「え?」


あれ、今、何て言った?

今の台詞にどこか引っ掛かりを感じた私は首を傾げたが、団長達はそんな私に気づく事なく深々と頭を下げた。

角度はきっかり90度である。

あ、つむじが見える。

……それにしても私、さっき何が引っ掛かったんだろう?

う~~~ん?

……駄目だ、わかんないや。

……で、この人達はいつまでこの状態でいるんだろう?

彼らは今だ頭を上げていない。

………………。

……あれ、もしかして?


「あ、あの、もういいですから、頭を上げて下さい」


私がそう言うと、団長達はやっと頭を上げた。


「ありがとうございます。お仲間については、どうぞ、ゆっくりお考え下さいませ。では、勇者様にとご用意したお部屋までお送り致します。どうぞこちらへ」

「あ、はい、どうも……」


そうして、私は客室のひとつに案内されたのだった。

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