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張り切った、その結果

あれ……何だろう、凄く熱い……。

それに、背中が痛い……。

浮上する意識と共に感じてきたその感覚を堪え、私は目を開けた。


「……?」


目に入った見知らぬ天井に首を傾げ、視線を部屋へと移す。

その部屋はやっぱり知らないものだったけれど、すぐ隣に、ただひとつ、よく知っている人がいた。


「ヴェル……?」


その名を呼ぶと、私の手を握って俯いていたその人は弾かれたように勢いよく顔を上げた。


「アカネ様……! 気がつかれましたか! 良かった……!!」

「……ヴェル、ここどこ? 私、何でか背中痛いし、熱いんだけど……どうしたんだっけ……?」

「……あ……覚えて、ないんですね。先日、魔物との戦闘で、前に出て来られて……魔物の移動速度に追いつけずに、後ろから……」

「あ……っ! ……思い、出した……ご、ごめん、ヴェル。迷惑、かけちゃって……」

「いえ……。ここは、隣国の王城です。あれから二日経っています。アカネ様の怪我が治るまで、滞在の許可を戴いています。ですから今は安静にしていて下さい。そうだ、食べやすいものを作って貰って来ますから、食事をして下さい。一度、失礼します」

「うん……ありがとう、ヴェル。でも、食欲、あんまりないかも……」

「いけません。なくても、食べて下さい。……すぐに、戻りますから」


そう言うと、ヴェルは足早に部屋から出ていってしまった。

しんと静まり返った部屋で、私は目を閉じた。


「あ~あ、失敗しちゃった……。こんな怪我して、心配かけて……何やってるんだろう、私……」


あれだけ訓練したんだから、魔物ともなんとか渡り合えると思ってたのに。

こんな事になって、ヴェルも皆も、失望したかなぁ……。

情けないなぁ、私……本当に、情けない。

頬を冷たい雫が伝うのを感じて、手で顔を覆った。

嗚咽を堪え、できるだけ声を出さずに泣く。

……駄目。

ヴェルは、すぐに戻るって言ってたのに。

こんな所を見られたら、また気を使わせちゃう。

そう思うのに、涙はなかなか止まらず、しばらくそのまま泣き続けた。

どれくらい経ったのか、ふいに腕を掴まれ、顔から手が離される。

目を開ければ、痛ましげに顔を歪めたヴェルと、心配そうに私を見つめるユフィルとアレク、そして、何故か申し訳なさそうな顔をしている、ユーゼリクス王がいた。


「え……ど、どうして、ユーゼリクス王が? ここ、隣国じゃ……」

「……貴女が大怪我を負ったと報告がきたので、慌てて駆けつけたんです。ついさっき到着したのですが、貴女が目覚めたと聞いたもので、様子を見に参りました」


ユーゼリクス王はヴェルの隣に立ちそう言うと、私の肩口を見た。


「勇者様、傷は痛みますか? まだ、熱があると伺いましたが……」

「あ……はい。その……ごめんなさい、ユーゼリクス王。こんな怪我なんて、しちゃって……失望、しましたよね? ……ヴェル達も……本当に、ごめ」

「失望? ……ええ、そうですね。失望しましたよ」

「っ!」

「貴女を守れなかった、自分自身に」

「…………え?」


自虐的に放った言葉に肯定を返されて息を呑んだ次の瞬間に聞こえた言葉に、目を瞬いて隣に立つヴェルを見る。

その顔は、更に歪んでいた。


「お守りできず、申し訳ありませんでした。アカネ様」

「ヴェル……!? そん、な! ヴェルが謝る事なんて……! 痛っ!!」


深々と頭を下げて謝るヴェルに、私は慌てて起き上がろうとした。

しかし、途端に背中に走った激痛に、それは叶わずに倒れ込んだ。


「アカネ様……!! 無茶をなさらないで下さい!」


私の悲痛な声にすぐに反応し、顔を上げたヴェルが手を伸ばして、私を元通りに寝かせてくれる。

そしてヴェルが布団を肩までしっかりかけると、ユーゼリクス王は優しく微笑んで、口を開いた。


「勇者様。私達は誰一人として失望など致しておりません。それどころか、貴女の仲間の三人が三人共、貴女を守れなかった事をとても悔いています」

「え!? ど、どうしてそんな……わ、私が無茶しただけで、自業自得なのに、皆が悔やむ必要なんて……!!」

「……必要ならあります。アカネ様、俺達は、貴女の護衛でもあるんですよ。なのに守れず、怪我を負わせるなど……」

「……絶対に、あってはならない事です」

「……俺は、貴女の奴隷です。……俺が、盾にならなきゃいけなかったのに……」

「……な……っ」


私が声を上げると、三人はそう言って俯いてしまう。

どうして……この怪我は、無茶した私が悪いのに。

三人に責任はないのに。


「勇者様。貴女は私達の都合で、勝手に召喚された身です。にも関わらず、魔王を倒すべく前向きに努力して下さっている事、本当に感謝しております。……だからこそ、今回のような大怪我を負われるのは……酷く、辛いのです。ですから、勇者様。勝手だとは思いますが、今後無茶は決してなさらないと、お約束下さいませんか。貴女を思う、三人の為にも」

「…………。……わ、わかりました……もう絶対、無茶はしません……」


ユーゼリクス王までが辛そうな顔をしてそう言うのを見て、私にはもう、それ以外に言える言葉はなかった。 


「……ありがとうございます。……聞いての通りだ、三人共。もう勇者様が無茶をなさる事はない。ならば、しっかりお守りできるだろう? 今回の失態は、二度と犯さない事で償え。良いな」

「「 ……はっ! 」」

「……はい」

「よし。では、ヴェル。その料理、勇者様の食事だろう? 冷めてしまうぞ」

「あ……! 忘れていました。アカネ様、口を開けて下さい」

「え? …………えっ!?」


その後、どんなに遠慮しても聞く耳を持たなかったヴェルの手によって、ユフィル達やユーゼリクス王が見守る中、私はヴェルにスプーンを口に運んで貰いながら、薬膳リゾットを食べたのだった。

うぅ、なんだか熱が上がった気がするよ……。

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