遭遇
「殿下、もう少し進むと街がございます。本日はその街で宿を取ります」
「ああ、わかった」
「あと少しかぁ……」
出発して以来ずっと王子様と一緒の馬車に乗せて貰っていて、進む間中緊張から身を固くしていた私は、今日もとりあえずあと少しでそんな状態から解放されると知り、ホッと息を吐いた。
王子様はそんな私を見て、何故か申し訳なさそうに眉を下げる。
「申し訳ない、勇者殿。本来ならばとうに王都へ着いているというのに、私の体を気遣い進むせいで、王都へはまだ遠い。魔王を倒すという大事を背負った貴女には、このような遅れ、さぞ不本意だろう。本当に、申し訳ない」
「えっ!? い、いえ、そんな! 大怪我を負ってた人の体調を考慮しながら進むのは当然です! 気にしないで下さい!」
「……ありがとう。そう言ってくれると、嬉しいよ。貴女は優しいな。さすがは、勇者殿だ」
「い、いえ、そんな……」
そうなのだ。
歩けるようになったとはいうものの、完治したわけではない王子様と騎士団長に無理は良くない、という理由で、陽が中天を過ぎると近くの村か街に宿を取りながらいく王都への旅路は、遅々として進まない。
……王子様、その事気にしてたんだ。
この国の騎士様達が言い出した事だけど、私達は皆賛成した事なんだし、気にしなくていいのに……。
……いや、もしかしたら、遅々として進まない事に不本意なのは、王子様自身なのかもしれないな。
弟の王子様の事が心配で、早く助けてあげたくて気が急いているのかも。
「……あの、王子様。大丈夫です。弟君は、きっと無事でいますよ。だから焦らず、万全の準備を整えてから、助けに向かいましょう?」
「……勇者殿……! ……ああ、そうだね。焦っても仕方がないな。すまない、ありがとう」
「いえ……」
月並みな、気休めにしかならない慰めの言葉しか言えない私に、王子様はそれでも微笑んでくれた。
そうして馬車は進み、街に着いた私達が宿を取った時。
突然に、彼女は現れた。
「あのぅ、すみません。その鎧、トゥルシエル騎士団のものですよね? もしかして……副騎士団長の、シルヴェルク・ルーンハース様ではありませんか?」
「え?」
「……そうだが、貴女は?」
借り受けた部屋へと向かおうと歩き出したところにかけられた声に、私達は揃って振り向いた。
視線の先には、綺麗な長い黒髪をポニーテールにした、意思の強そうな瞳の凛とした少女が立っていた。
……え?
この、外見って……。
記憶の中のある少女と重なるその姿に、私は目を大きく見開く。
いや……でも、そんな、まさか。
ち、違うよね?
似てるだけ、だよね?
そうだよね……?
目の前の少女が、そうである、と認めたくなくて、信じたくなくて、私は胸の内で必死に否定の言葉を紡ぎ、少女をまじまじと見つめ、記憶の中の少女と違う点を探す。
けれど。
「初めまして。 私、武藤優姫といいます! 勇者として、この世界に召喚されました!」
明るく笑顔でそう挨拶した少女の、その名前は……この世界、"女傑!恋戦記"の……本来のヒロイン、つまり、本当の勇者の、名前だった……。
あと少しで終わる……かも?




