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迎え

翌日、王都へ向かって旅立つべく街門へ行くと、そこには数頭の馬と、やたら美形の騎士達がいた。

何かあったのかな、と思いつつ、それを横目に通り過ぎようとすると、こっちを見た騎士と目が合い、その騎士が近づいて来た。

え、何でこっち来るの?

まさか見てただけで不審者扱いされて詰問された挙げ句牢に入れられたりしないよね?

以前誘拐班に間違われた時に受けた扱いがトラウマにでもなっているのか、嫌な考えが頭をよぎった私は、思わずヴェルの背中に隠れた。

騎士はそんな私の数歩手前で立ち止まると、口を開いた。


「こんにちは、旅のお方。突然申し訳ありませんが、もしや貴女はトゥルシエルからいらした勇者様ではございませんか? お連れの方の纏う鎧は、トゥルシエル騎士団のものとお見受けしますが」

「え? ……えっと……」

「おや……? 違いましたか?」


返答に窮した私を見て、騎士は首を傾げる。

う、困った……どう答えたらいいんだろう。

この騎士様がした判断は当たっている。

"トゥルシエルから来た勇者"とは、間違いなく私の事だろう。

けど、あらゆる面から見て、私は自分から『そうです、私が勇者です!』などと言う事はできない、というかしたくない。

そんな烏滸がましい真似、どの面を下げてできようか。

しかし『違います』とも言えないし……う~~ん、どうしよう。


「……えっと……トゥルシエルのお城から旅立った一般人なら、私で合ってるんですが……」

「…………は?」


私がどうにか返答を返すと、騎士は目を点にして固まった。

……うん……まあ、そういう反応になるよね……勇者様を見つけたはずなのに、一般人だとか言われたら……ねぇ。

とはいえ、他にどう言ったらいいのかわからないしなぁ……。

困って騎士から視線を外すと、目の前にいるヴェルから、ふ、と薄く笑う声が聞こえた。


「失礼。貴殿のお尋ねの方なら、この方で合っておりますよ。我が勇者様は大変謙虚で慎ましい方なので、ご自分が堂々と勇者だと名乗られないのです」

「へ? ちょ、ヴェル?」


け、謙虚で慎ましいって、誰が??


「あ、ああ、なるほど。それはそれは……見た目通り、勇者様は可愛らしい方なのですね」

「え?」


み、見た目通り、可愛らしい……?

誰が?

聞き慣れない言葉に驚いて、私はヴェルと騎士を交互に凝視した。


「……では、改めて」


騎士は一言そう言うと、ヴェルの背後に隠れたままの私の斜め前まで進み出て膝まづき、私の手を取った。


「え、あの!?」

「勇者様、ようこそ我が国へ。我が陛下の命により、貴女様をお迎えに上がりました。王都、王城まで、我らが安全に貴女様をお連れ致します」


戸惑う私の目を見て、微笑みながらそう言うと、騎士は私の手の甲に口づけた。


「ふぇっ!?」


突然の事に驚いて、私は慌てて手を引き抜き、ヴェルの背中の右側から左側へと移動する。

そしてヴェルの服の裾を掴んで、背中越しに騎士を見た。

そんな私の様子を見て、ヴェルと騎士は揃って困ったように私を見た。


「……ええと……」

「申し訳ない、突然で驚かれたようです。……アカネ様、今のは貴族の、女性に対する挨拶です。そのように逃げては、失礼ですよ」

「あ、挨拶……? え、でも、トゥルシエルでは誰もこんな事しなかったよ……?」

「ええ、そうですね。私も、きちんと挨拶すべきでした。すみません」

「え、いや、別に謝る事はないよ。こんな挨拶されても、びっくりするだけだし…………あ」


そうだ、挨拶されたんだった。

ちゃんと返さなきゃ失礼だよね。

って、ヴェルにも今そう言われたんだった、いけないいけない。

私はヴェルの右側へ戻り、頭を下げた。


「ごめんなさい。知らなかったから、驚いてしまって。お迎え、ありがとうございます。道中、よろしくお願いします」

「あ、いえ……どうぞ、お気になさらず。では参りましょう。どうぞ、あちらの馬車へお乗り下さい。騎士殿は、あちらの馬へ。手配してありますので」

「ええ、わかりました」

「お借りします」


あ、ヴェル達は一緒に馬車には乗らないんだ。

まあ、ここは隣国だし、その国の騎士達に馬にって言われたら……仕方ないかな。


「じゃあ、ユフィル。ユフィルは馬には乗れないし、私と一緒に馬車に乗ろうか」

「はい」

「おや、そうなのですか。ならばそれがよろしいですね。ではどうぞ馬車へ」


ヴェルとアレク、そして騎士達がひらりと馬に跨がるのを横目に、私とユフィルは馬車へと乗り込んだ。

そして扉が閉められると、『出発!』というかけ声の後に、馬車がゆっくりと動き出したのだった。

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