浜辺の散歩
隣国へ到着し、船から降りる。
二日ぶりに揺れない地面に足をつけると、私はヴェル達を振り返った。
「やっと隣国に着いたね。王子様が心配だし、早くお城に行って詳しい事を聞かなきゃね!」
「はい。ですが、今日はここで宿をとります」
「もう夕方ですからね。船旅の疲れもありますし、一度しっかり体を休めたほうがいいでしょう」
「宿泊するんですね、わかりました」
「え……。と、泊まるんだ……」
このまま街を出て王都へ歩を進めるつもり満々だった私は、ヴェル達の宿泊宣言につい不満を滲ませた声を出してしまった。
その声は小さなものだったが、しっかり聞こえてしまったらしいヴェルとアレクが揃って眉を下げ、苦笑を浮かべて私を見た。
「アカネ様、逸る気持ちはわかりますが、無理は禁物です。旅には危険が付き物ですから、休める時にはしっかり休んで、体調は常に万全にしておかなくてはなりません」
「その通りです。王都へ行き情報を集めたら、いよいよ王子殿下救出へ行く事になりますし、魔物との戦闘になりますから、体調管理は重要です」
「わ、わかってるよ。ほ、ほら、宿に行こ!」
ヴェルとアレクに諭すように話され、なんだかいたたまれなくなった私はそう言って、さっさと歩き出した。
三人もすぐに歩き出し、後ろからついてくる。
そのまま船着き場を出ると、視界に浜辺が映る。
瞬間、私は大事な事を思い出した。
結局しなかった浜辺の散歩……今ここでやっちゃってもいいんじゃない!?
どうせこのあとは宿に行って休むだけだし!
街どころか国単位で場所が違う事はもうどこかその辺に放り投げて気にしない事にして、とにかくイベントを消化しよう!
そう決めると、私は即座に後ろを振り返った。
「ねぇ、ヴェル! ちょっとだけ、浜辺を散歩しない? 宿に行く前に、少し体を動かしたいし、つき合って貰えないかな?」
「浜辺を散歩ですか。いいですね、夕日が落ちるのを眺めながら散歩するのは、いい気分転換になるでしょうし。行きましょうか」
「あ……! ありがとう! じゃあ、行こう!」
「はい。アレクセイ、ユフィル君、そういうわけだ、先に行って宿を取っておいてくれ」
「はい」
「かしこまりました」
「あ、ごめんね、ユフィル、アレク。ちょっと、行ってくるね!」
こうして私達は一旦アレクやユフィルと別れ、浜辺へと向かった。
海面に沈んでいく夕日を見ながら、ヴェルと並んで歩く。
ふいにヴェルが自然な動作で私の手を握ってきて、それにはちょっと驚いたけれど、何も言わず、そのままにした。
「……夕日、綺麗だね。ヴェル」
「ええ、そうですね。……。……あの、アカネ様」
「ん?」
「………………いえ。……船旅は、楽しかったですか?」
「あ、うん! 海の上で見る満天の星空とか、すっごく綺麗だったし! 今朝はね、頑張って早起きして、昇る朝日を見たんだよ! ……そのあと、部屋に戻って二度寝しちゃったんだけど」
「ああ、それで今朝は、なかなか起きられなかったのですね。いつもは寝ぼけながらも起きられるのに、不思議に思っていましたが……なるほど、そういう事でしたか」
「う……! ご、ごめん、ヴェル」
「いえ。初めての船旅が楽しいものになったなら、何よりです」
私は今朝の失態を思い出して恥ずかしさに俯いたが、ヴェルは笑って許してくれた。
そのあとしばらく、二人で他愛もない話をしながら浜辺を歩いて、やがて空が赤から深い青にその色を変える頃、私達は宿へ向かって歩き出した。
★ ☆ ★ ☆ ★
「どうして!? これ、どういう事よ!?」
「ん……?」
帰り道、大通りへ差し掛かると、前方から取り乱したような女性の叫び声が聞こえてきた。
そちらに視線を向けると、女性が一人、男性ともう一人の女性に詰め寄っていた。
通りで騒ぐその三人は、当然のように通行人の視線を集めている。
「……どうしたのかな? こんな所で大声出すなんて」
「さて……何でしょうね。まあ、あまりに騒ぐようなら、この街の騎士か自警団が間に入るでしょう。気にせず宿へ向かいましょう、アカネ様」
「うん……」
ヴェルに促され歩を進めるも、私は何故か気になって視線はそちらに向けたままだった。
どうしてこんな騒ぎが気になるんだろう?
私、出羽亀するの、そんなに好きだったっけ?
内心首を傾げつつ、騒ぐ三人を遠巻きに見ながら進んで行く。
すると、女性がまた声を上げた。
「貴方、私の事が好きって言ってくれたじゃない!! なのに、何で私じゃない人と親しそうに歩いているのよ!? その女何なの!?」
「!!」
「? ……アカネ様?」
その言葉が耳に入った瞬間、私は足を止めた。
そんな私に気づいて、ヴェルは不思議そうに顔を覗き込んでくる。
「あ……ごめん。行こうヴェル」
「はい……?」
私は横目にその三人を見ながら、宿へと戻って行った。




