兄弟の絆
今回はユーゼリクス視点です!
執務を終え、夕食を済まし、自室に戻った私はソファに座ると、用意されたグラスに酒を注ぎ、それを一口口に含み、喉に流し込んだ。
そしてグラスを手に立ち上がると、窓辺へとゆっくり歩いて行く。
窓から外を見れば、遠くに街の明かりが見える。
その明かりの分だけ、民が暮らす家や、営む店がある。
あの明かりは、私が守らねばならないものだ。
王として、その義務がある。
そのまま暫く外を眺めていると、やがて部屋の扉からノックの音が聞こえてきた。
続いて、メイドの声が響く。
「陛下、公爵閣下がおみえになりました」
来たか。
時計を見ると、針は午後8時を指している。
相変わらず、時間には正確だな。
「通せ」
短くそう返すと、『どうぞ』という声のすぐあとに扉が開かれ、男が一人、部屋に入って来た。
男の名は、ヨーゼルン・トゥルシエル。
私の弟だ。
「失礼致します、兄上」
「時間通りだな、ヨーゼ。座れ。お前も飲むか?」
「はい、いただきます」
窓から離れてソファに戻り、ヨーゼルンに向かいに座るように促すと、酒の入った瓶を見せて問う。
ヨーゼルンが頷くのを確認すると、もうひとつのグラスに酒を注いだ。
ヨーゼルンがグラスを手に取り、口に運び喉を鳴らすのを待って、口を開く。
「それで、話とは何だ? ヨーゼ?」
そう尋ねると、ヨーゼルンは僅かに眉を寄せるとグラスをテーブルに置き、私をまっすぐに見つめてくる。
「……叔父上の事です。勇者様を召喚したと噂に聞きました。兄上、叔父上が新たに異世界から勇者様を喚ぶこと、お認めになったのですか?」
「まさか。既に私が勇者様をお喚びしているのに、何故そんな事を許さねばならん?」
やはりその話か。
予想通りの内容に苦笑しながら、私はヨーゼルンの問いに返事を返す。
すると途端にヨーゼルンの表情に怒りの色が浮かぶ。
「では、やはり無許可で……! 兄上、勇者召喚の儀は、王の承認の元行われるものと定められております! いかに王家血筋の公爵家とはいえ、それを無視する事は重罪です!」
「そうだな。叔父上は本当に、困った方だ」
声を荒げるヨーゼルンに、私は肩を竦めてそう返す。
「兄上! そんな言葉で済ませられる事態ではありません! 叔父上の行為はもはや行きすぎております! 放ってはおけません!」
それを見たヨーゼルンはテーブルを叩き、更に声を荒げた。
瓶とグラスがガチャリと揺れる。
やれやれ、すっかり熱くなっているな。
まあ、私とて、もはや黙ってはいられないのだから、それも仕方ない。
「テーブルを叩くな、ヨーゼ。……放置はしない。お前の言う通り、叔父上はやり過ぎた。……騎士団長が戻り次第、騎士団、魔法士団、獣士団の役付きに招集をかける。叔父上の……かの公爵を探れと命じるつもりだ。傲慢なあの方の事だ、さぞ面白い話が出るだろうな」
「……そうですね。……それを聞いて、安心しました。兄上、私もお手伝い致します。どうぞ、ご命令を、陛下」
私の言葉を聞いたヨーゼルンは口調を改めると立ち上がり、ソファの横に膝をつき、頭を下げた。
私はその姿に頼もしさを感じながら、ヨーゼルンが望む言葉をかけるべく、口を開いた。




