真実の追求 3
ヴェルとの未来を掴む為に、やるべき事は三つ。
一つ目は、自分を鍛える事。
何しろ魔王を倒さなければならないのだ。
それはもう、徹底的に鍛えなければならない。
二つ目は、ヴェルの好感度を上げる事。
これはそもそもの大前提だろう。
三つ目は、イベントをこなす事。
この世界がゲームの世界である以上、きっと起こるだろうヴェルのイベントを成功させなければならない。
まぁ、これについてはゲームの知識が活かせるから、大丈夫なはず。
さしあたって、今やるべき事は一と二だ。
そう考えた私は、早速行動に移った。
まず、支部長さんの元に行き、ある程度の行動の自由を願い出た。
すると支部長さんはあっさりと頷いた。
支部を出なければ何をしてもいいとお許しを貰えたのだ。
まぁ、取り調べでのヴェルや騎士団長達の証言のおかげで、私の容疑はほぼ晴れているから、当然と言えば当然かな。
そんなわけで、お許しを貰った私は、朝起きるとまず、誘拐の調査で昼間は帰って来ないヴェルの為に、支部の厨房を借りて、お弁当を作る。
『お昼ご飯に食べて』と言ってこれを渡すのだ。
料理は私の得意分野だ、活用しない手はないだろう。
小さな事からコツコツと。
日々の努力はいつか実を結ぶはず。
ただ、ヴェルと行動を共にしているアレクと騎士団長にも渡すから、毎朝三人分のお弁当を作らねばならず、さすがにちょっと大変だけど。
ヴェル達を見送ったあとは、午前中いっぱい、支部内の仕事を手伝う。
掃除と洗濯だ。
この仕事を行う事によって、私は給金代わりに厨房の材料を使わせて貰っているというわけだ。
お弁当も毎日作れば材料費も馬鹿にならないだろう。
何も気にせずタダで使わせて貰うわけにはいかない。
午後は訓練。
訓練相手にあぶれた騎士さんを掴まえては指導をお願いし、掴まらなかった時はユフィル相手に治癒魔法の訓練をする。
仕事も訓練もハードで、終わる頃にはもう疲労困憊だ。
けれど、だからといってこれで休むわけにはいかない。
一日の中で一番大事な行為が夜に待っている。
そう、夜はヴェルとの交流だ。
お茶をしながら話をする。
話題は調査の進展具合や、私の訓練の事ばかりで色気なんてまるでないけど……こうして交流を持つ事自体に意味があるんだと信じたい。
そうして日々を過ごして、五日目。
ついに事態は動いた。
誘拐犯がついに捕まったのだ。
とは言っても、厳密に言えば、この一件は誘拐ではなかった。
王都でたくさんの子供を連れたジオル君の両親達一行と偶然同じ宿だった犯人は、"おのぼりさん"状態だった一行に目をつけ、一行が王都を発つ日、人の多い大通りで密かにジオル君に声をかけ立ち止まらせ、わざと両親からはぐれさせた。
ジオル君がいない事に気づかず乗り合い馬車に乗って行った一行を確認した犯人はジオル君を置き去りにして、馬で一行の後を追う。
そしてジオル君がいない事に気づいたら誘拐をでっち上げ身代金を要求した、というのが真相だった。
私達が街に到着した時には既に身代金は支払われまんまと盗られていた後だったらしいが、捕まえたと報せのあった犯人の一人、つまり私から仲間の場所を聞き出せば身代金は取り返せ、万事解決するとこの支部の騎士さん達は楽観視していてその後の犯人捜査はしていなかったらしい。
その楽天的な思考と怠慢を実は怒っていたらしい騎士団長とヴェルにより、事件が解決した今、支部の騎士さん達は全員、訓練場にてしごかれている。
アレクによると、報告を受けて、同じく怒っていたユーゼリクス王からも減給の沙汰があったらしい。
訓練場から響いてくる悲鳴を聞いていると、なんだか可哀想になってくるが、怠慢だった事は、確かだしなぁ。
諦めてしごかれて下さい。
何はともあれ、これで事件は解決だ。
明日はここを発って、旅が再開される。
まずは港町に行って、隣国へ渡る。
だいぶ遅くなっちゃったけど、拐われたっていう王子様、助けなきゃね!
ユーゼリクス王の手紙によると、救出されたって話は、まだ届いていないらしいし。
隣国の王様や騎士さん達は何をやってるんだろう?
王子様、無事だといいけど……。




