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真実の追求 2

翌日から、ヴェルとアレクは騎士団長達やこの街の騎士さん達と一緒に、誘拐事件の調査に乗り出した。

ジオル君の村にも行き、ジオル君の両親や一緒に王都に行った人達から話を聞いたらしい。

私も一緒に調査すると言ったけど、騎士さん達には『容疑者は大人しくしていて下さい』と言われ、ヴェル達には『私達にお任せ下さい』と言われてしまった。

無実の容疑者が味方になってくれた人達と共に自分の容疑を晴らす為調査に乗り出す、というカッコいいストーリーはドラマや小説の中だけの出来事らしい。

何故だ。

ここはゲームの世界なんだからやらせてくれてもいいじゃないか。

フィクションという点ではそんなに違いは……いや、そういえばここは現実だった。

ゲームの世界なのに現実、フィクションなのにフィクションじゃない。

……難しい。


「アカネ様、すみません、治癒をお願いします」

「え!? あっ、ユフィル……う、うん、わかった。わ、大丈夫ユフィル? 痛そう」


声をかけられ、いつの間にか目の前にいたユフィルに私は一瞬驚いたが、すぐに気を取り直すと、差し出された腕に手をかざし、治癒魔法をかける。

横一線に斬られ、赤く滲んだそれはとても痛そうで、私は顔を歪めた。

ヴェル達が調査に出てる間やる事のない私は、騎士団長と一緒にここまで来たメイドさんに治癒魔法を習う事にした。

そう、なんとメイドさんには、治癒魔法の心得があったのだ。

けれど使える魔法はそれだけらしく、もちろん戦う事などできないメイドさんは魔物が出る中一人で王都に帰る事もできず、誘拐事件が解決して騎士団長が帰る時に一緒に帰る事になり、それまではまた私の世話をすると言ってくれた。

なので現在私はメイドさんの指示のもと、この街の騎士さん達相手に真剣で訓練するユフィルを練習台に、日々治癒魔法の訓練中である。

私としては、これはかなり嬉しい。

またひとつ、ヴェル達の役に立つ事が増えるのだから。

……まぁ、まだかすり傷ひとつ、満足に治せないんだけどね……。

要訓練である。


★  ☆  ★  ☆  ★


「只今戻りました、アカネ様」

「ヴェル! お帰りなさい!」

「あら、もうそんな時刻なのですね。今日は、ここまでですね」

「はい」


夕方になり、訓練場にヴェルが顔を出した。

それを合図に、今日の訓練は終了となる。

私は笑顔でヴェルに駆け寄った。


「ヴェル、アレクと騎士団長さんは?」

「支部長に今日の報告に行っています。それが済めば、こちらへ来ますよ」

「そう……今日はどうだった? 何か、わかったの?」

「そうですね。もうじき解決しますよ。あと少しの辛抱です、アカネ様」

「え、解決!? な、何がわかったの!?」

「まぁ、色々と。それより、アカネ様のほうはどうですか? 治癒魔法、上達されましたか?」

「うっ……。ま、まぁ、昨日よりは……?」

「おやおや。どうやら、成果は芳しくなさそうですね」


言葉を濁し、視線を逸らした私を見て、ヴェルは仕方なさそうに薄く笑う。

うぅ、どうせそうですよ。


「頑張っては、いるんだけどなぁ……」


そう呟いて、私は溜め息を吐いた。

そう、頑張ってはいるんだ。

なのに上達しないのは……やっぱり、才能がないんだろうか?

努力でカバー、できないのかなぁ?


「仮にも、勇者なのにね……」


戦闘は駄目、治癒魔法などのサポートも駄目。

できるのは料理と食材探しだけ、なんて勇者、どこにいるというのか。

……うん、ここにいるけどね、フン!


「大丈夫ですよ、アカネ様。諦めず訓練を続けて下さい。それはいつかきっと、何かに繋がりますから」

「……うん……物凄く曖昧な励ましを、どうもありがとう、ヴェル」


力なく呟く私を見て、ヴェルは励ましの言葉を口にする。

でも、"いつかきっと何かに繋がる"って……何に繋がるって言うんだろう。

もっと他の励まし方はできないの、ヴェル?

例えば、"諦めなければ絶対に上達する"とか……いや、今の状態を見る限り望みは薄いかもだけどさ……。

そう思うと、また溜め息が零れた。

すると、ヴェルの手が私の頭に乗せられた。


「大丈夫です、アカネ様。私もアレクセイもユフィル君も、貴女の努力はちゃんとわかっていますから。王都の陛下にも、定期報告を飛ばす際、アカネ様の努力はきちんと伝えてあります。ですから、あまり、気に病まれませんように」


そう言って、ヴェルは私の頭をゆっくりと撫でる。

ヴェルがこんなふうに私の頭を撫でるのは、これで何度目だろう?

……気に病むよ。

だって、最近、私はこれを嬉しいと感じるようになってしまった。

ずっとまずいと思ってたし、なんとか避けたかったけど、私の心は、やっぱりヴェルに捕らわれちゃったんだ。

……上達したい、魔法も、棍も。

ゲームの中盤以降に登場してくる、ライバル役の女の子が、現れる前に。

そして……そして私が魔王を倒したい。

ヴェルと、ハッピーエンドを迎えたい。

ずっとずっと、一緒にいたい。

今の様子では、それが叶うなんてとても思えないけど、それでも、それでも、いつか。

諦めず訓練を続けるから。

だからお願い。

ヴェルが言った"何かに繋がる"の"何か"は、どうか、ヴェルでありますように。

私は頭を撫でるヴェルの手を感じながら、目を閉じ、そう祈った。

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