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護送中?

き、緊張する。

これは、緊張する。

現在私は、カポカポと歩く馬に揺られながら、その馬上で石のように体を固くしていた。

私は、馬になど乗れない。

だから馬に乗るには、誰かに同乗させて貰う必要があるわけで。

その役目を、ヴェルがしていて。

……つまり、何が言いたいかというと。

私は今ヴェルの前に乗り、手綱を持つヴェルの腕に挟まれ、背中にヴェルの体温を感じるという、非常に心臓に悪い状態にあるのだという事で……。

出発してからずっと、私はなるべくヴェルから体を離して、意識せずに済むように必死に体を固定している。

……いや、こんな事をしている時点で既に、意識している事になるんだけれども。

ああ、顔が熱い……。

やっぱり、こんな苦行より、檻のほうが良かったなぁ……。

私はちらりと、斜め後ろにある檻を見た。

その中は今、空っぽである。

今朝出発する時、昨日私を捕縛した騎士さんは、また私を檻に入れようとした。

私も、容疑が晴れてないのなら仕方ないかなと思って、従おうとした。

昨日と違い、ヴェルやユフィルが側にいる事で、私にはもう恐怖心はなかったから。

けれど、ヴェルが断固として、それを許さなかった。

無実である私が檻に入る必要はないと言い張って、自分と同乗させると言って退かなかったのだ。

そんなヴェルに騎士さん達が折れ、今に至る。

因みに、私と同じく馬に乗れないユフィルは、騎士さんの一人と同乗させて貰っている。

その人は穏やかで優しそうな人で、気が合うのか、さっきからずっとユフィルと談笑している。

とても楽しそうだ。

……ねぇユフィル~、ちょっとこっちと代わらない?

こんなに心臓に悪いヴェルとの同乗よりも、楽しく談笑できる騎士さんとの同乗がいいなぁ、私。


「……アカネ様、何をお考えですか?」

「えっ!?」

「何やら、ユフィルを羨ましそうに見ていますが……まさか、場所を代わりたいなどとはお考えではありませんよね?」

「え、ま、まさかぁ……! 羨ましそうになんて、見てませんよっ!?」

「おや、そうですか? ならば、よろしいのですが」

「そ、そうですよ~……」


な、何で、わかったんだろう……。

ヴェル、鋭い。

私はユフィル達に向けていた視線を、正面に戻した。

すると。


「ねいちゃ~!」


そう言って、先頭にいる馬に乗るジオル君が、笑いながら手を振ってきた。

私は苦笑して手を振り返す。

ジオル君と同乗しているのは、私とそう変わらない歳の、女性の騎士さん。

なんとジオル君は、その女性の騎士さんの事も"ねいちゃ"と呼んでいる。

女性の騎士さんは凄い美人で、私とは似ても似つかない。

どうやらジオル君にとっては、私と同じ年頃の女性は皆、"ねいちゃ"になるらしい。

"お姉さんに似ているなら"と思って、ジオル君を送り届ける事を決めたのに……そうと知っていれば、こんな事には……。

……いや、いいんだ。

ジオル君は、悪くない。


★  ☆  ★  ☆  ★


陽が真上に昇ると、お昼ご飯をとる為、休憩になった。

お昼ご飯……そう、つまり、私の出番である!


「それじゃ、すぐに作るね! ちょっとだけ待ってて!」

「は? ……ちょっと、待ちなさい。誰が貴女に作らせると言いました?」

「えっ?」


私は張り切って調理に取りかかろうとしたが、何故か騎士さんに止められた。


「"えっ?"ではないでしょう。今の貴女の立場はあくまで護送されている容疑者。その容疑者に食事を作らせ、おかしなものを混ぜられてはたまりません、引っ込んでいて下さい」

「え、そんな! これは私ができる唯一の事なのに! ……ヴェ、ヴェル……! ねぇ、作っていいでしょう!?」


私はヴェルに助けを求めた。

けれど、ヴェルは申し訳なさそうな微笑みを浮かべると、首を横に振った。


「すみません、アカネ様。料理は、容疑が晴れるまで我慢して下さい」

「え……!?」


な、何で……?

檻に入る事を反対するより、これに反対して欲しかったよ、ヴェル……。


「……どうしても、駄目?」


私はもう一度尋ねたが、やっぱりヴェルは首を横に振った。


「……そう。わかった……」


私は渋々諦めると、木陰に移動し、膝を抱えて座った。

するとすぐにヴェルがやって来て隣に座る。


「すみません、アカネ様。移動は、檻に入らずとも、私の前に乗るなら逃亡は防げるのでそれを口実に騎士達を説き伏せられます。けれど、料理は……」

「……いいよ、わかってる。今の私は、誘拐の容疑者だもんね。…………ごめん、ヴェル。ただでさえ役立たずなのに、こんな事になって……迷惑だよね、私。"勇者"が容疑者なんて、笑えないよね」


私はヴェルを見ずに、顔を伏せながら嘲るようにそう言った。

すると、ヴェルの手が伸びてきて、私の頭をゆっくりと撫でる。


「えっ、ヴェ、ヴェル……!?」


驚いて顔を上げると、ヴェルの穏やかな微笑みが目に入る。

弧を描いているその唇がゆっくりと動き出す。


「……アカネ様、私がいつ、迷惑だなどと言いました? 記憶にございませんが……ああ、もしや、昨日話に出た偽物の私ですか? 偽物の言う事など、気にする必要はありませんよ」

「え……い、いや、だって」

「アカネ様。気にする必要はありません」

「………………。……ごめん。ありがとう、ヴェル」


頭を撫でながら紡がれる言葉に、私は動揺しながらも反論しようとしたが、それは同じ言葉に遮られた。

私は何だか泣きたくなって、謝罪とお礼を一度に口にすると、膝を抱えて、顔を伏せた。


その後、少しして、ユフィルに食事ができたと呼ばれた。

食事は、ジオル君を同乗させていた女性の騎士さんが作ったようだ。

とても美味しかったけれど、ヴェルとユフィルは、『アカネ様の料理のほうが美味しいです』と言ってくれた。

ふ、ふんだ。

そんな、まだ少し落ち込んだままの私を慰める為にお世辞言ったって、嬉しくなんか……ちょっとしか、ないんだからねっ!

諸事情で次の更新は明後日になります。

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