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迷子と誤解 2

お待たせしました、書き上げました!

男性は馬を降りると、泣き叫ぶ子供を抑え込んだまま名を名乗り、説明を始めた。

どうやらこの子は、王都で家族に気づかれず、置いて帰られたようだと、宿泊していた宿の店主から騎士団に訴えがあったらしい。

その家族は同じ村の人達と一緒に王都見物に来ていて、とにかく子供達がたくさんいた為、いない事に気づかれなかったのだろうという事だった。

それで、この男性がその村まで子供を送り届ける事になったのだが、子供に怖がられてどうにもならなかったらしい。


「何を言っても、何をやっても、この調子で……参りました」


男性は心底疲れきった様子でそう告げた。


「た、大変だったみたいですね……ご苦労様です。君も、置いてかれるなんて、災難だったね?」


私は苦笑して男性に一言労いの言葉をかけると、子供の前にしゃがみこんで目線を合わせ、頭を撫でた。


「ふぇっ……あ……ねいちゃ? ……ねいちゃぁぁぁ!!!」

「へっ!?」


すると、その子供は叫びながらなんと私に抱きついてきた。


「ねいちゃぁぁ!!! 怖かったぁぁぁ!!!」

「え、え!? あの……ど、どうしたの!? "ねいちゃ"って何!?」

「恐らく、"お姉ちゃん"、でしょう。アカネ様がこの子のお姉さんに似ているのかもしれません」

「えっ」


そ、そうか、"お姉ちゃん"か!


「ねい、ちゃ~~…………」


……ん?

な、何か、急に重くなったよ……?

私は突然ずしりと重みを増したその子の体をそっとずらし顔を覗き込むと、その子は小さな寝息を立てていた。


「嘘、寝ちゃった……」

「ああ、"お姉さん"に会って、安心したのでしょう。泣き疲れてもいたでしょうしね」

「そうですね、ずっと泣き通しでしたから……。勇者様、その子をこちらへ。眠っていて静かなうちに、少しでも進んでおきます。起きたら、また泣くでしょうから」


そう言って、男性は子供を受け取ろうと手を伸ばしてきた。


「あ……。……あの、この子の村って、どこの、なんて村なんですか?」


私は少し迷った後、男性にそう尋ねた。


★  ☆  ★  ☆  ★


あれから二回野宿をして、陽が斜めに傾きかけた頃、私達は街へ辿り着いた。

あの後私達は進路を少し変更した。

現在は男性に連れられていた子供の村へ向かっている。

理由はもちろん、子供を送り届ける為だ。

あのまま男性を怖がって泣きながら連れて行かれるよりは、姉に見えるらしい私が連れて行ったほうがいいと思ったのだ。

男性にはとんでもないと恐縮されて断られたけれど、三人は頷き、男性はヴェルとアレクが説得してくれた。

ヴェル達に説得されては頷くしかなかったようだが、男性は最後まで申し訳なさそうに頭を下げながら王都に帰って行った。


「はぁ……今夜はふかふかのベッドで眠れるね~。野宿続きで、疲れてない? ジオル君?」


私はベッドにごろんと横になりながら、隣にいる子供に声をかけた。

この子はジオルという名前で、四歳らしい。


「ボク、だいじょぶ。ねいちゃは、疲れた?」

「そうだねぇ。ちょっと疲れたかなぁ」


何しろこの三日間、歩き通しだったし。

ジオル君はヴェルとアレクが交代で背負ってたけど。

私が返事を返すと、ジオル君は困ったように視線をさまよわせた。


「ジオル君? どうしたの?」

「……ねいちゃ、ボク、お外行きたい。あのお菓子、また食べたい。ダメ?」

「あのお菓子?」

「行くとき食べた、あのお店のお菓子。また食べたい」

「行くとき? ……王都に行くとき? この街に寄ったの?」


それで、その時に食べたお菓子をまた食べたい、って事か。


「う~ん……よし、わかった! それじゃあそのお菓子、買いに行こうか!」

「い~の? わぁい、ありがとうねいちゃ!!」


私が了承すると、ジオル君はパアッと顔を輝かせた。

か、可愛い。

あの三人は今手分けして買い出しに出てるから留守で、私は宿から出ずに部屋で休んでるように言われたけど、ちょっとくらいなら外出してもいいよね?

この三日、ジオル君は我儘ひとつ言わずにいい子にしてたんだし、お菓子くらいは買ってあげないと。


「ジオル君、そのお菓子があったお店、どこかわかる?」

「うん! 丸い石の中にお水が出てた所の、赤いお店だよ!」

「……丸い石の中に、お水?」

「うん! お空に向かってお水がばーって! 凄かったねぇ、ねいちゃ!」

「お空に向かって……? ……あ!」


噴水の事かな!?

噴水がある場所の、赤いお店か……それだけわかれば、あとは街の人に聞けばわかるかな?


「わかった。じゃあ行こうか、ジオル君」

「うん!」


私はジオル君の手を取って、宿を出た。


★  ☆  ★  ☆  ★


「……はあ」


周りを石に囲まれた薄暗い場所で私は床に座り込み、溜め息を吐いた。

視線の先には、黒い鉄格子。

私は今、この街の騎士団支部の牢屋にいる。


「どうしてこんな事に……」


街に出て、噴水広場にあったお店でジオル君ご所望のお菓子を買ったまでは良かった。

そのまま広場のベンチに座り、二人でお菓子を食べていたら……突然騎士に囲まれ、剣を向けられ縄をかけられた。

騎士曰く、私は誘拐犯なのだそうだ。

ジオル君を、拐ったらしい。

うん、意味がわからない。

速攻で誤解だと訴えたけれど、聞く耳をもたれなかった。

迷った末に騎士団副団長であるヴェルの名前を出し、一緒に旅をしていると言ったら『副団長は王都で陛下の護衛をしている! お前のような小娘と旅などなさるか!』と一蹴された。

どうやら"勇者と旅に出た"という事実はまだ知られていないらしい。


「私……どうなるんだろう」


私がいない事に気づけば、三人は探してくれるとは思う。

ただ、買い出しに出てる三人がいつ気づくのかが問題だ。

騎士達によれば、私はこれからジオル君の村の近くの街に護送されるらしい。

『息子が誘拐された』と訴えがあったというその街の騎士団支部で本格的に取り調べられるそうだ。

この牢屋には、護送の準備をする間入れられているだけらしい。


「準備が整う前に気づいてくれるかなぁ、皆」


ぽつりとそう呟いた次の瞬間、カツン、カツン、と誰かが歩いてくる足音が聞こえてきた。

その足音は私のいる牢の前で止まる。

ノロノロと顔を上げると、そこには私を捕縛した騎士達がいた。


「護送の準備が整った。出ろ」


騎士達はそう言って鉄格子の扉を開けた。

ああ、時間切れかぁ。

泣きたい。

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