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初の実戦

実戦を経験する為、私達は村の外へとやって来た。

振り向けば村門が視界に入る位置に佇み、魔物が現れるのをじっと待つ。

それにしても、魔物との戦闘かぁ。

平原にいる魔物なら、獣系か、虫系か、鳥系か、だよねぇ。

あ、スライムって事もあるかな。

ゲーム画面越しじゃなく、実際に見るとどんな感じなんだろう?

獣系って可愛いのがいるけど、実物もやっぱり可愛いかな?

可愛いといいなぁ。

あ、でも、たとえ可愛くても、現れたら退治しなきゃいけないんだよね。

う~ん、可愛い子を退治するのは、躊躇うかも……。

魔物を仲間にできる能力とかスキルとかあったら、そういう子達は絶対仲間にして愛でるのになぁ。

動物系のもふもふな子とか仲間にできたら最高だよねぇ~……。

……できないけど。

あ~あ……ただ退治するだけなのなら、躊躇う必要のない可愛いくない子か、近づくのも嫌なくらいキモくもない、ちょうどいい感じの魔物がいいなぁ。

……あ……いやいや、待て私。

ちょうどいい感じの魔物ってどんなだ。


「ふ……っ」

「ん?」


隣から微かに声が聞こえて、私は隣に立つヴェルを見上げた。

ヴェルは何故か肩を奮わせて笑っている。


「……シルヴェルクさん?」


何で笑ってるんだろう?

私は小さく首を傾げた。


「し、失礼しました。……勇者様がまた、何やらお考えの様子でしたので、つい」

「はい?」


私が何か考えてる事と、ヴェルが笑った事に何の関係があるんだろう?

意味がわからない。


「ふ。……勇者様は、表情が豊かでいらっしゃって、本当に可愛らしい方だと思います。どうかいつまでも、そのままでいて下さいませ」

「表情? ……あっ!?」


も、もしかして、百面相してたって事!?

それが面白くて笑ったの!?

だとしたら、ヴェルの今の台詞って……!


「……シルヴェルクさんは、私が、考えてる事をすぐ顔に出す幼稚な女の子だって、言いたいんですか?」

「まさか。そんな事はありませんよ。私は本当に、勇者様は可愛いらしい方だと思っております」


私がじと目で睨みながらそう言うと、ヴェルは肩を竦め、いつもの笑顔でそう返した。

ふ、ふんだ……そんな事言ったって、騙されないんだから。

笑顔を張り付けたヴェルの言葉は、本心からのものとは、限らないんだし。

だから……だから。

熱くなるな、私の顔!


「お、お世辞がお上手ですね! そ、それにしても魔物、現れませんねっ! 遅いですよね、まだでしょうかっ!」


赤くなっているであろう顔を隠す為、私はそう言って魔物を探すふりをしながらヴェルに背を向けた。

けれどそんな私に、背後から笑いを含んだヴェルの声がかけられる。


「遅い、ですか? ……勇者様? まだ村の外へ出てきて、さほど経っていないと思われますが?」

「えっ……あ……そ、そういえば、そうですね……」


しまった、誤魔化す為の台詞を間違えた……。

そう思ってちらりと視線だけでヴェルを振り返れば、ヴェルは口を抑えて肩を奮わせていた。

うぅ……更に笑われてる……。

私はがっくりと肩を落とした。


★  ☆  ★  ☆  ★


魔物の出現をただ待つこと、数十分。

うん、私、飽きてきました。

魔物は一向に現れません。

このただ待つだけという行為は、時間の無駄使いじゃないかな?

そう思った私は、せめて素振りをする事にした。

素振りと言っても、訓練の時のようにただ棍を振るわけじゃあない。

棍をくるくる回しながら手から手へ持ち換えたり、上へ投げて落ちてくる棍を受け止めてその勢いのまま振り抜いたりする。

うん、これを素振りとは言わないかもだね!

でもそれを見たアレクセイさんが、『棍を扱う事に慣れるには良いかもしれません』と言ってくれたので問題なし!

そうして私が遊んで……こほん、素振りをしていると、ふいにヴェルとアレクセイさんが揃って同じ方向を見つめた。


「勇者様、ユフィル君。来ましたよ。お待ちかねの魔物です」

「戦闘準備を。シルヴェルク様、どちらをサポートされますか?」

「もちろん、勇者様を。ユフィル君は任せたよアレクセイ」

「は、かしこまりました」


そう短く役割りの確認を終えると、ヴェルは私の隣に、アレクセイさんはユフィルの隣に立った。

え、ぎゃ、逆がいいなぁ、私……。

そう思うものの、私はヴェルが隣にいる事に大きな安心感と少しの嬉しさを感じた。

……これは、非常に良くない。


「勇者様、考え事はもう後になさったほうがいいかと。集中して下さいませ。来ます」

「あっ……はい!」


いけない、すぐ戦闘になるんだった!

ヴェルの言う通り、集中しなきゃ!

私は棍を握り直し、構えると、まっすぐ前を見据えた。

すると前から、何かがずりずりと這ってくるのが目に入ってきた。

あれは……。


「キャタピー?」

「おや、ご存じでしたか? 勇者様の世界にも、キャタピーのような魔物がいるのですか?」

「えっ! い、いえ、私の世界に魔物なんていません。ただ、その、物語に、あんな形の魔物がキャタピーって名前で出てくるんです」

「物語に? ……そう、ですか。……まあ、いいでしょう。今はあれを倒すのが先です。行きましょう、勇者様」

「は、はい!」


キャタピーに向かって歩き出したヴェルの後に続いて、私も歩き出す。

ユフィルとアレクセイさんもそれに続く。

キャタピーは、二匹いた。


「勇者様、右のキャタピーを倒しましょう。ユフィル君は左をお願いするよ」

「はい!」

「わかりました」


私達は頷くと、左右に別れ、キャタピーに向かって行く。

キャタピーなら動きもそんなに早くないし、私でもなんとか倒せるはず!

いよいよ実戦……よぉし、やるぞ~!

私は気合いを入れ、棍を握り直した。

が、次の瞬間。

キャタピーの頭を、ヴェルの剣の鞘が押さえつけた。

地面にめり込むように押さえつけられたキャタピーは、口を開いて糸を出す事も、噛みつく事もできずに、ただ足をじたばたと動かしている。


「…………え?」


その光景に私が目を瞬くと、ヴェルが笑顔で振り返る。


「さあ、どうぞ勇者様。これで攻撃はされませんから、思う存分、攻撃なさって下さい」

「……え……あ、はい……?」


ヴェルに促され、私はキャタピーの体に棍を振りおろす。

そのまま一度、二度、三度と振りおろすと、じたばたと動いていた足は次第にその動きを止めていく。

それを確認したヴェルは、キャタピーの頭から鞘を退けた。


「さあ勇者様、もうひといきです。どうぞ、とどめを」

「は、はい」


私は高く棍を掲げ、勢いをつけて振りおろし、キャタピーの体に棍をぶつけた。

するとキャタピーは動かなくなり、やがて光の粒となって消えた。


「た……倒し、た?」

「はい。お見事でした、勇者様」

「あ……ありがとうございます、シルヴェルクさん」


……でも、"お見事でした"って……言われても。

正直、何が?って、言いたいんですが。

これ、実戦訓練……なんだよね?

ええと……どの辺が?

腑に落ちないものを感じながら、私はふと、ユフィルのほうを見た。

そして納得した。

これは、ユフィルの実戦訓練なのだ、と。

ユフィルは少し離れた場所に立つアレクセイさんから指示を貰い、キャタピーの噛みつき攻撃を避けながら、キャタピーに剣を振りおろしていた。


そんな戦闘を何度か繰り返し、陽が傾き始めた頃、私達は村へと戻ったのだった。

……ユフィルはともかく、この"実戦訓練"が、私の戦闘技術の向上に役立ったのかどうかは……正直、首を傾げるしかない。

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