昼食タイム
村に着くと、早速酒場でお昼ご飯を食べた。
ヴェルとアレクセイさんの話では、この村には酒場と宿屋とよろず屋が一軒ずつあって、民家は十数軒、あとは田畑が広がっているらしい。
遠くに牛と鶏の姿も見えた。
「勇者様、今日はこの村に宿を取りましょう」
「えっ?」
お昼ご飯を食べながら、窓の外、遠くに見える牛と鶏の姿を目で追っていると、ふいにヴェルからそう告げられた。
この村に宿を、って……。
「今日は、もう進まないんですか? まだ陽は高いのに?」
「はい。仰る通り、陽は高いですが、この先はどの街も村も、夜までには到底辿り着けない距離にありますので。さすがに、旅立ったその日に、お疲れの勇者様を野宿させるわけには参りませんから」
にこ、と微笑んでヴェルはそう言った。
う、野宿かぁ……確かにそれはちょっと嫌だなぁ。
だけど……。
「でも、旅をする以上、野宿を避けられない時は多々あるでしょう? なら同じ事ですし、少しでも進んだほうがいいんじゃありませんか?」
私がそう提案すると、ヴェルは笑みを深めた。
「なるほど。つまり、勇者様は野宿なさるお覚悟があるのですね。ご立派です」
「い、いや、覚悟っていうか……だって、仕方ないでしょう? こういった旅に野宿は、つきものでしょうし」
「ええ、そうですね。どうやらご理解下さっているようですから、この先は何の問題もなく野宿ができます。安心しました。……けれど、今日はこの村に宿を取ります」
「えっ?」
それ、どうしても変えないの!?
何で!?
再度告げられたヴェルの言葉に、私はヴェルを凝視した。
「どうして、というお顔ですね? 勇者様は、野宿がしたいのですか?」
「えっ。……あ、いや……」
したいのか、と言われれば、したくない。
したくないけど……でも、だからってこんなにすぐ進むのを止めて、宿を取るっていうのも……う~~~ん……?
私はヴェルから視線を外し、考え込んだ。
すると、それを見たヴェルは今度はクスクスと声を上げて笑いだす。
「な、何が可笑しいんですか?」
どうして笑われているのかわからず、私はじと、とヴェルを睨む。
「ああ、失礼しました。勇者様は、本当に素直な方だと思いまして」
「素直? ……って……もしかしてそれ、考えがわかりやすいって言ってます?」
「ふ。さあ、どうでしょうか」
眉を寄せた私の視線を、ヴェルは変わらず笑顔で受け止める。
む、これは、そういう意味だと思って間違いなさそう。
何しろヴェルは、何事も笑顔でさらっと流すタイプの人だ。
「……まあ、いいですけど。本当の事ですし」
「おや、自覚がおありでしたか」
「……はい、まあ。……で、話を戻しますけど、この村に泊まるのは決定なんですね?」
「ああ、はい。そうです」
「はあ、わかりました。……まだ陽は高いのに」
私は窓の外を見て、溜め息を吐いた。
すると、それまで黙っていたアレクセイさんが口を開いた。
「確かに陽は高いですが、それでもこの村に泊まるのには理由があります。勇者様に初日から無理をさせ過ぎない事と、もうひとつ……勇者様とユフィル君に、実戦を経験して戴く為です」
「実戦?」
「はい。魔物との実戦です。この周辺の魔物なら、弱いものしかおりませんから」
「魔物との実戦……あ、あれ? そういえば、街道を歩いてる間、一匹も出てきませんでしたけど……街道には魔物、出ないんですか?」
ゲームでは、街や村の外なら、魔物が出てきたはずだけど……これも、ゲームとは違うのかな?
そう思って首を傾げると、アレクセイさんは首を振った。
「いいえ。街や村には魔除けがあるので現れませんが、そこから一歩出て歩けば、高確率で魔物に遭遇します」
「あ、やっぱりそうなんですね。……あれ、でも、じゃあどうして……?」
どうして今日は遭遇しなかったんだろう?
たまたま会わなかった……は、長々と歩いて来た事を考えればおかしいし。
「近づく魔物は、勇者様の視界に入る前に、シルヴェルク様が風魔法で退治して下さっていたのです」
「えっ!?」
「とりあえず、勇者様には歩く事のみに集中して戴きたかったので。魔物と戦闘しながらでは、それに体力を取られて、勇者様がどれだけ歩けるのかをちゃんと判断できませんでしたからね」
アレクセイさんからさらりと告げられた事実にヴェルを見れば、ヴェルもまたあっさりとそんな事を言う。
ぜ、全然、気づかなかった……。
……延々と歩く事を経験させたあとは、弱い魔物で実戦を経験させる、かぁ。
試されてるんだか甘やかされているんだか、どっちだろうこれ。
ああ、でも、今夜はちゃんと宿のベッドで眠れる事を考えれば、やっぱり甘やかされてるのかもしれないなぁ。
「……わかりました。魔物退治ですね。頑張ります」
「はい。では、食べ終わったら早速参りましょう」
「私達がしかとサポート致しますので、ご安心を。ユフィル君、君も、いいな?」
「はい、頑張ります」
「あ、そうだね。一緒に頑張ろうね、ユフィル!」
「はい」
こうして私とユフィルは、ご飯を食べ終わるとヴェルとアレクセイさんに連れられ村の外へ出て、初の実戦をする事になったのだった。




