表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/47

仲間集め 5

翌日はまた、魔法の訓練だった。

ユフィルと一緒に総合訓練場へ行くと、魔法士団長と共に、何故かヴェルがいた。


「おはようございます、勇者様、ユフィル君」

「おはようございます勇者様、ユフィル君。本日の訓練には、私も指導役として参加させて戴きますので、よろしくお願い致します」

「……おはようございます。そうなんですね、よろしくお願い致します」

「おはようございます。よろしくお願いします」

「では、早速始めましょう。本日は、風の魔法を修得して戴きます」


挨拶を交わした私達は、魔法士団長の訓練開始の言葉を皮切りに、すぐに訓練に移った。

ユフィルの側には魔法士団長がつき、私の側にはヴェルがついた。

……逆がいいんだけど。

どうしてこうなったのか知りたい、切実に。


「勇者様。まずは風を起こしてみましょう。吹き抜ける風をイメージして、後ろから前へと、手を振りぬいて下さい。そこから風が吹くようにイメージするんです。振り抜く際、"風よ吹け"といった言葉を言うのを忘れずに。言霊があったほうが、魔法が発動しやすいですから」

「は、はい、わかりました」


指導役が誰であろうと、訓練はちゃんとやらなくちゃ。

ユフィルも毎日頑張ってるんだし。

風が吹くようにイメージ、イメージ……。

私は頭の中でその光景を思い浮かべると、手を後ろから前へと振り抜いた。


「風よ吹け!」


言われた通りに言葉を紡ぐ。

けれど、何も起こらなかった。

……ま、まぁ、私がそんなにすぐに魔法を使えるようにならないのは、一昨日の火の魔法を覚えた時に既に明らかになってるし。

けど何度も続ければできるようになるのも、やっぱり一昨日で明らかになってるんだし!

ささやかな蝋燭程度の火だったけど、できた事に代わりはないんだし!


「ネバーキブアップ! もう一度! 風よ、吹け!」


そう言って、私は再び手を振り抜いた。

何も起こらない。


「もう一度! 風よ吹け!」


何も起こらない。


「なんの! 風よ吹け!」


何も起こらない。


「負けないもん! 風よ吹け!」


何も起こらない………………。

そのあとも、私は何度も何度も繰り返し同じ言葉を口にしながら、手を振り抜き続けた。

その様子を、背後でヴェルが苦笑しながらも温かみのある目で見守っている事など、気づきもせずに。


★  ☆  ★  ☆  ★


お昼近くなって、私は漸く風を吹かせる事に成功した。

『できたぁ!』と声を上げ喜ぶ私に、ヴェルが『おめでとうございます』と言って微笑みながら頭を撫でてきて、即座に上がった心拍数に危機感を感じた私は『じゃ、じゃあ私、仲間選考の為に交流してきます!』と言って総合訓練場から逃げ出した。

背後から『一人は私にして下さいね』というヴェルの声が聞こえたけれど、これは幻聴だ、そうに違いない、うん。


「さて、それじゃ今日は、獣士団本部に行こうかな」


そう呟いて、私は獣士団本部に足を向けた。

けれど。


「ああ、勇者様! こちらにおいででしたか!」

「ん?」


直後、廊下の向こうから声をかけられ、足を止めて、そちらを見る。

そこには、私の世話――部屋の掃除やお茶の用意など――をしてくれるメイドさんがいた。


「あれ、メイドさん。どうしました?」


部屋にいる時以外で会うなんて珍しい。

そう思って、私は首を傾げた。


「陛下がお呼びなのです。どうか私と一緒に謁見の間へ。ご案内致します」

「え、ユーゼリクス王が?」


何だろう?

四日目に、ユーゼリクス王の呼び出しイベントなんて、なかったはずだけど……。

あ、も、もしかして、私が呼び出されるような何かをしちゃったとか?

…………いや、特に、何もしてないよね?

ユフィルを買った事は、もう追及され済みだし。

それ以降は訓練と……ヴェルとの交流しか、してないし。

夕食以降は毎日ユフィルにこの世界の文字を教わってるから、変な事はしてないはずだし。

……うん、やっぱり呼び出されるような事した覚えなんてない。

だとすると……何の用だろう?

私は首を傾げながら、メイドさんのあとについて、謁見の間へと向かった。


★  ☆  ★  ☆  ★


「あれ、ユフィル?」


謁見の間に入ると、正面に立つユフィルの姿が目に入った。


「どうしてここに? 訓練、終わったの?」


ユフィルの側へと近づきながら、私は疑問を口にした。


「訓練は中止致しました。陛下からの緊急召集命令が下りましたので」

「え?」


ふいに横から聞こえた声に視線を向けると、魔法士団長が立っていた。

その両隣には騎士団長と獣士団長、更にその後ろには各団の副団長達がいる。

せ、勢揃いしてる……一体何事?


「あの、ユーゼリクス王……? 私、何かしてしまいましたでしょうか……?」


身に覚えはないんですが。

私はユーゼリクス王に視線を移し、恐る恐る尋ねた。


「いいえ、本日お呼びしたのは、勇者様の行動に関する議論の為ではございません。勇者様が日々訓練に精を出し、仲間選考の為の交流もきちんと行われている事は報告がきています。勇者としての務めを果たそうと努力して下さっている事、大変嬉しく思っております」


ユーゼリクス王は険しかった表情を少しだけ緩めそう言った。

しかしそれは一瞬で、再び険しい表情に戻ると、ユーゼリクス王は固い声で話しだした。


「勇者様。実は今朝早く、隣国に派遣している者からひとつの報せが届いたのです。隣国の第三王子が、魔物に拐われたと。何でも拐っていった魔物の女は、"自分の婿にする"と言っていたそうですが……。……隣国は、海を挟んでいるとはいえ距離はそう遠くはありません。被害が我が国に及ばない保証はない。もう、一刻の猶予もありません。隣国の第三王子の身も心配です。勇者様、申し訳ございませんが、すぐに旅の仕度を整えて、明日の朝には旅立って戴きたい」

「………………は?」


え、今、ユーゼリクス王、何て言った?

明日の、朝?

え、何で?

だって、旅立ち前、仲間の選定や訓練なんかを行う準備期間は、二週間あったはずだよ?

まだ四日目だよ?

それに、隣国の王子誘拐とか何それ。

そんなエピソード、ゲームになかったはずだけど……。

まあ、それはとにかく、一番の問題は。


「待って下さいユーゼリクス王。そんな急に言われても困ります! 私はまだ、仲間すら決めてないんですよ? なのに明日の朝には旅立つなんて、無理です」

「……いいえ、旅立って戴きます。仲間については、僭越ながら、勇者様がこちらに来る前に皆と話し合い、私共で決めさせて戴きました」

「えっ?」


"私共で"って……え、え?

何で?

私の意志は?

仲間って、私が選んで決めるんじゃなかったの?


「……ええと、ちなみに……誰になったんです……?」


なんとなく嫌な予感がしながら、私は恐る恐る尋ねた。


「はい、まず、一人目。勇者様の仰る通り急な事ですし、まだ訓練も不十分という点から、旅の道中も勇者様にご指導できる者が良いだろうと、獣士団団員の、アレクセイ・ヴェストリアを。私は先日、団長か副団長をと申しましたが、アレクセイは獣士団の中でも指折りの実力者です。勇者様のお供として問題はございませんので、ご安心下さい」

「アレクセイさん……?」


あの、彼は、攻略対象者じゃないんですが。

なのに何故、勇者の仲間になるんですか?

勇者の仲間には、攻略対象者がなるはずでは?

その辺の事に関する詳しい説明をしてもらっていいですか?


「次に、残る一人。これには騎士団副団長、シルヴェルク・ルーンハースを。彼は自ら勇者様のお供にと名乗り出ました。勇者様にも、既に願い出ていると聞きました。シルヴェルクは魔法騎士で、実力も折り紙つきです。加えて勇者様のお供にという気持ちがあるのなら、そうすべきと考えました」


……うん……最悪ですね。

私はヴェルだけは避けたかったんですが。


「……あ、あの、ユーゼリクス王? それって、決定ですか? 考え直すわけには、いきませんか?」

「……申し訳ございませんが、先ほども申しました通り、明日の朝には旅立って戴きたいのです。仲間になる者の仕度の時間もございます。ですので、変更はできません。考え直す時間はないのです。どうかご了承下さいませ、勇者様」

「………………はい」


決定なんですか……そうですか。

私は絶望にも似た思いで、がっくりと肩を落とした。


「勇者様、そのようにご心配なさらずとも、シルヴェルクもアレクセイも実力のある強者(つわもの)です。必ず勇者様のお役に立ちます。そうだな、シルヴェルク?」

「はい、もちろんでございます。ご安心下さいませ、勇者様」


ユーゼリクス王の問いにヴェルはそう答え、私に向かって微笑んだ。

それが目の端に映ると、私の意志に反して、胸の心拍数が上がる。

……うん、とてもじゃないけど安心できません。


「勇者様、お聞きの通りです。ご心配には及びません。さぁ、では、後程お部屋のほうに勇者様の装備と旅の為の衣服や薬などをお届けします。荷造りを済ませたら、そのあとはごゆっくりお過ごし下さいませ、勇者様」


ユーゼリクス王がそう言うと、その場は解散になった。

各団の団長と副団長が次々と謁見の間を出ていく。

そんな中、ヴェルが私に近づいてきた。


「勇者様、御身は必ずお守り致します。どうぞ、よろしくお願い致します。それでは、また明日」


ヴェルはそう言って一礼すると、騎士団長に続いて謁見の間を出ていった。


「…………。……ユフィル。どうか私を守ってね?」


主に、ヴェルから!!

私がじっとユフィルを見つめてそう言うと、ユフィルは力強く頷いた。


「はい、アカネ様。必ずお守りします」

「ありがとう……よろしくね」


はっきりと口にしたその言葉に、私は頼もしさを感じた。

たとえそれが、"何から守る"のかを、わかっていない上での返答だと、わかっていても。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ