図書室での再会
第8話です!
遅れまして申し訳ないです。
千尋のお見合いは一週間後に決まった。場所は料亭らしい。つまり千尋は振袖を着ることになりそうだ。
異信学院高等部第3図書室。ここにはほとんど誰もいない。そこに千尋はいた。さっきまで鞘花もいたが、用事で帰ってしまい、千尋は本を読んでいたのだが。
「ここにいたんだ。」
ドアの方で呟く声がする。千尋が見るとそこには深月がいた。千尋はため息をつく。こないだ放課後での一件以来深月のことはずっと避けていたっていうのにとうとう場所をみつけられたらしい。
「探してたの?」
深月に千尋が聞くと、深月は肯定の意味で微笑んだ。
「もちろん。あと一週間だ。お見合いまで。」
「私は絶対に貴方と婚約なんかしない。」
千尋がはっきりと言うと、深月は苦笑した。
「そこまで嫌なのか。」
深月が呆れたように言うと、千尋は面倒そうにため息をつく。
「大和の血筋と結ばれた神藤の娘は狂ってしまう。これは定められしことでしょう。」
千尋がそう言うと、深月はにやりと笑みを浮かべる。そして、千尋に近づいた。
「狂っちゃうほど人を愛せるなんて素晴らしいことだ。」
深月はそうやって千尋の耳元で囁く。千尋は顔が真っ赤だった。これは多分怒りとか羞恥からくるものだ。そうに決まってると千尋は言い聞かせる。
「...私は狂いたくなんかない。」
「そうかな。...先祖返りの神子姫。一族の人達は君をそう呼んでるんだろう?まるで、文献にある初代みたいだって。初代神子姫、架稚子。全てはそこから始まったんだから。」
深月は相変わらず耳元で囁く。ただ、これを囁いてから、千尋の顎を指で掬った。千尋は嫌でも深月の顔を見ることになる。どうして深月がこんなに自分に執着しているのかわからない。最初はそんな風でもなかったのに。
「...私は貴方に恋をすることはない。絶対にない。あるはずない。」
千尋はまるで自分に言い聞かせるように呟く。深月は満足そうに微笑む。
「なら結婚しても問題ない。伝承によれば恋さえ成立しなければ、君が狂うこともない。歴代の狂ってしまった神子姫は愛しすぎてしまっただけなんだから。」
深月は椅子に座っていた千尋を腕を引っ張って立たせた。
「...なんで、そこまで私に執着してるの。意味わからないわ。」
「やっと見つけたからだよ。僕の唯一で永遠を。」
深月は微笑んで言う。千尋は不可解そうに眉間にシワを寄せる。
「あまり我が神子姫をからかうのは感心せぬな。大和の血を受け継ぐ者よ。」
千尋の口からそう発せられた。深月は一瞬目を丸くしたが、すぐに微笑んだ。
「ああ。貴女が伝承の神藤家に囚われている神子姫ですか。」
深月がそう言うと、千尋は不愉快そうに顔を歪めた。厳密に言うと今千尋となって動いているのは架稚子だ。意識を入れ替えたのだ。姫神として千尋に憑いている架稚子には容易にできる術である。
「まったく。礼儀がなっておらんな。これだから。大和の者は。」
千尋である架稚子は手を腰にあて、呆れたように言う。
「すみません。礼儀がなってなくて。だから、彼女にも嫌われちゃうんですかね。」
「千尋は初心なのだから、そなたにみたいに遊び慣れた感じの男には、嫌悪感しか抱かないのではないか?」
架稚子は深月の言葉に間髪入れずに返した。深月は苦笑する。
「私はそなたと千尋が結び付くことには反対せん。それが千尋が望んだことならば。ただ、千尋を悲しませたりしたらこの私が許さぬことを忘れるな。」
架稚子はそう言うと、目を閉じた。そして、千尋の体が、崩れ落ちる。崩れ落ちてきた千尋を深月は抱きとめた。