千尋と兄の帰り道
第6話です!
ーその昔、あるところに異能のある二つの家がありました。その二つの家は仲も悪くなく良くもありません。そこの二つの家の跡継ぎ息子と大切な大切な神子姫が恋に落ちてしまったがために1000年以上続く惨劇の幕は上がったのでした...
「くっくっくっ。ふっ。」
千尋の耳元で笑いをこらえる声が聞こえる。ただでさえ機嫌の悪かった千尋はその声に苛立ちを隠せなかった。
「笑いすぎです!架稚子姫。」
千尋がそう言うと、非常に見目麗しい、この世とも思えない姫君が千尋の肩あたりに現れる。姫君、架稚子は千尋の方に手と顔を起き、ふよふよと浮いている。この姫君は千尋に憑いている神藤家の由緒正しい姫神である。
「すまぬ。すまぬ。いやあ。面白いことになっておるなあと思ってな。」
「架稚子姫。面白くともなんともありません!最悪最低!!あの男、噂以上に最低ー!!」
千尋は怒りのあまり拳を握りしめる。そこに呆れた声が聞こえた。
「千尋。校内でそうがなり立てるのはいかがなものなんだ。」
千尋が振り向くと、兄の千幸がいた。
「お兄ちゃん!今日は大学?」
「ああ、今日はゼミがあってな。このままじゃ卒論が終わりそうにない。」
千幸がげっそりしながら言う。千幸は大学部に通っており、大学部は高等部の隣の敷地なので、たまに兄と帰りが一緒になるのだ。
「お兄ちゃんが終わんないのは今までサボってたからだよ。きちんとしたらいいのに。」
「お前まで兄上みたいなことを。全く。人生とかいかに手を抜いて生きるかが大切なんだ。あくせく生きるのは私の性に合わない。」
「お兄ちゃんってば。」
千幸は根っからの自由人だった。昔から何かしらというと俗世から距離を置きたがる人でついたあだ名が仙人。3番目の兄もある意味自由人なのだが。それはまた今度にしよう。
「お前も災難なことだな。千尋。あの大和の倅とお見合いだなんて。」
「いいや。私は安心したがな。」
架稚子が口を挟んだ。
「架稚子姫。」
「考えてもみよ。千尋はそりゃあ見目は良いが、何せ堅物すぎる。このような娘が自由恋愛などで自分で結婚相手を見つけることはおそらくできまい。だからだな、今回の件はチャンスと思えばよいのだ。これで少しは男慣れするといい。」
架稚子が言う言葉に千尋はムッとし、千幸は苦笑いした。そうすると、後ろから笑い声がする。
「流石架稚子姫!うん、俺もそこは懸念してたんですよね、千尋は真面目というか堅物というか。だから今回の件はきっといい機会ですよ!」
口を挟んだのは千里だ。千里もどうやら学校の帰りらしい。
「お兄までいたの。てか、高校生にもなって兄と帰るとか...」
「まあ、たまにはいいじゃないか。最近、世の中物騒だからなあ。」
千里はそう言って、千尋の頭を優しくぽんぽんと叩いた。
「俺は別に伝承とか関係なしに大和君を知って恋をするなら反対はしないよ。伝承なんてただの言い伝えにすぎないんだから。」
千里はそう言うと、暖かく微笑む。兄として男っ気のない妹が心配なのかもしれないが、大和深月と千尋が恋に落ちる可能性は今日でゼロになった。
第6話いかがでしたか?
ほとんど兄とだべってるだけですが(笑)
また感想お聞かせくださいね!