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神藤家の退屈しない日常  作者: 三都花実
会長と神藤家の因縁編
31/33

本当の婚約者

「これで本当の婚約者だね。神藤。」


 深月は微笑んだ。そして千尋に顔を近づけてキスをしようとしたが、千尋に顔を避けられる。


「本当の婚約者なのはいいんだけれど。一つ、約束して欲しいの。大和くんってほら交友関係広いでしょう?」


 千尋は微笑んで聞く。深月は少し考え込む。


「俺、そんなに友達多いかな?」


 深月は小首を傾げて言う。まるでしらばっくれているように大げさなポーズのように千尋は感じた。


「私が言いたいのは関係を持ってる女性が多いってことよ。」


 千尋はわざとにこりと笑顔を作る。深月は吹き出す。


「はははっ。それはそうだ。だって俺のモットーは来るもの拒まず、去る者追わずだからね。でも、これからは神藤がいるんだし、もう来る者は拒むよ。神藤だけだ。」

「浮気者の男は皆そう言うって叔母さまが言ってたわ。」


 きらきらオーラいっぱいで言う深月に千尋はため息まじりに言う。


「私が約束して欲しいのはそういうことなの。私だけにして。浮気はしないでほしい。」

「しないよ。最近は誰にも手を出してないしね。」


 深月はへらへら笑いながら言う。千尋は耳を疑った。それならこないだの詩織とのことはどうだというのだ。


「こないだ図書室で詩織さんと...」

「詩織?え。あそこに神藤いたんだ。あれはね、違うよ。浮気とかじゃないんだ。ちょっと隙を見せたら抱きつかれちゃってね。でももう二度とあんなことしないと思うよ。今度俺に言い寄ったら詩織の家を社会的に抹殺するって言ってあるし。」


 深月は平然となんでもないことのように言う。千尋は絶句する。簡単に脅せる人間なのだ、大和深月という人間は。深月はそんな千尋を見て苦笑する。


「あー。ごめん。びっくりしちゃった?でも、俺はこういう人間なんだ。言っただろう?他のことなんてどうでもいい。空っぽなんだよ、俺は。」


 深月は微笑んで言う。寂しい微笑みだと千尋は感じた。


「それが大和君なんだね。私は貴方のこと好きよ。空っぽでもいい。大和くんが空っぽじゃ嫌なら私が空っぽの中をたくさんのことでいっぱいにしてあげる。」


 千尋はにっこり微笑んだ。深月はぽかんと千尋を見る。それから千尋を抱き寄せた。急なことに千尋は驚いて見上げようとするが、深月は千尋の目を手で隠す。片方の手は千尋を抱きしめたままだが。


「見ないで。今とんでもない顔をしてるから。」


 深月は動揺した様子で言う。その深月の顔は珍しく真っ赤だった。それが見えていない千尋は何が何だかわからなかったのだが。









 千尋が帰宅すると、ちょうど自宅から誰か出てきた。兄の千歳が見送っているのは一人の男性だ。とても見目麗しい男性で、愛想が良さそうだ。年も千歳と同じくらいに見える。千尋の見覚えがない男性は千尋を見ると微笑んだ。


「妹さんですか?千歳さん。」

「はい。妹の千尋です。千尋、こちらは御簾裕理(みすゆうり)さんだ。挨拶しなさい。」


 御簾。確か有能な異能力者を多く輩出している名家だったはずだ。神藤家とはあまり交流がないが。


「初めまして。神藤千尋です。」


 千尋はよそ様向けスマイルで挨拶した。裕理はにっこり微笑む。


「これはご丁寧に。初めまして。千尋さん。御簾裕理です。...高校生ですか?」

「はい。今16歳です。」

「それじゃあ私の婚約者と同じくらいですね。」


 裕理は機嫌良さそうに言う。


「とりあえず、千歳さん。来週にまた。妹をよろしくお願いします。」


 裕理はそう言って去っていった。


「お兄様。御簾家の方がどうして我が家に?」

「あー。その。今度お見合いすることになったからだ。」

「え?お兄様が御簾家の方とですか?」

「ああ。裕理さんの妹さんと。まあ、どうなるかわからんが。」


 千歳はつまらなさそうに言う。千尋は不思議そうに兄を見る。普段はこんな態度を取らないのに。珍しい。

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