伝えた想い
千尋は困惑していた。最近どうやって深月に接すればいいかわからなくて避け続けたら、突然深月に壁まで追い込まれて腕で囲まれている。なんでこんなことになったのか。
「やあ、神藤。」
深月はにっこり微笑んで言う。千尋は表情を引きつらせて微笑む。
「大和くん?話なら逃げずに聞くから手を離してくれたら嬉しいなあ。」
「だーめ。悪いけどこんなに理由もなく避けられたんだ。その点においては君を信用することはなくなったんだ。」
深月の言葉に千尋は俯く。深月はため息をつく。そして、無理矢理千尋の顔を上げさせる。
「神藤。顔を見せてくれ。」
深月はそう言って囁く。千尋は顔を赤くする。ただでさえ好きだって自覚したばかりでどうしたらいいかわからないのにこんなことをされたらもう辛抱できない。
「だって恥ずかしいんだもの!」
千尋は顔を真っ赤にして言う。深月がきょとんとする。千尋は思わず口を押さえる。切羽詰まってとんでもないことを言ってしまった。深月はにっこりと微笑んで、千尋の耳元に顔を寄せる。
「どうして恥ずかしいの?」
深月は耳元で囁く。
「どうしてって。」
千尋は言葉を詰まらせる。正直に言えるわけない。だが、深月をふと見つめる。深月の表情を軽そうに見えて、真剣なものだ。苛立ちも少し見える。千尋は覚悟した。息を吸い込む。
「...好きなの。貴方が好きよ。大和くん。でも、私は人なんて好きになったことないからどうしたらいいか、わかんなかったし、それに貴方が詩織さんといい感じになったからもうわけがわからなくなったから。それで...」
千尋はふと深月を見つめる。深月は顔を歪めている。
「馬鹿だな。神藤は。本当に馬鹿だ。どうして堕ちてくるんだ。」
深月は苦しそうにそう言ってから、千尋を抱き寄せる。千尋は微笑む。
「やっぱり。大和君は優しいのね。優しくなかったらそんな風に苦しそうにならないよ。」
「神藤。やめてくれ。俺の中に入ってくるな。」
「別に貴方が嫌だって言うなら私とはもう関わらなくていい。」
「君は馬鹿だよ。...だから堕としたいんだ。俺だけの手で。愛しいんだ。愚かなまでも愛しいよ。」
深月は千尋を抱きしめる。千尋はそっと抱きしめ返した。
「多分、いや、俺は君が好きだよ。君だけが欲しいんだ。俺は誰のことだって好きにならないと思っていたのにね。」
「大和君。私だって貴方の事だけは好きにならないって思ってた。でも、違ったわ。好きよ、貴方が好き。」
「ああ。そばにいてくれる?神藤。君だけは狂わせないから。」
深月がそう言うと、千尋はぎゅっと腕に力をこめる。




