千尋の恋の自覚
お久しぶりです!
千尋はとんでもないものを見てしまった。千尋がふと図書室に本を返しに行くと、とんでもないものを見てしまった。図書室の本棚の影で、抱き合っている男女。そして、それは深月と泣いている詩織であった。千尋はすぐにその場から去った。誰も来ないであろう学園の森まで走って行った。
千尋はなんでこんなこんな悲しい気持ちになるのかわからなかった。だって千尋は深月とは絶対に恋仲になりたくなかったはずなのに。あの男が来るもの拒まずの最低男だってわかってたはずなのに。いつからこんなに心を揺さぶられるほど泣きたくなるほど彼の存在は大きくなっていたのだろうか。
「やっとわかった。...私は彼が好き。」
千尋は涙をぽたぽた零しながら呟く。その口は歪んだ微笑みを浮かべていた。
「やっと自覚したか...我が神子姫。」
架稚子はぼそりと呟く。千尋があの大和の跡継ぎに惹かれていたのはわかっていた。だからこそ何もしないことが千尋のためだと思っていた。千尋自身の選択で千尋の行く末を選んで欲しかったのだ。彼女はいつだって自分の意思を軽んじる子だった。自分で自分の望みに対して貪欲でなければきっと一族を護れる神子姫にはなれないだろう。願わくば彼女の恋がよきように向かってほしい。
深月は本をぺらぺらめくっている。
「...き。深月!」
深月が声に気づいて顔を上げるとそこには親友の信広がいた。
「なんだ。信広か。何か用?」
「うわ。機嫌悪っ。何かあったのかよ?」
信広は深月の前の席に座る。深月は吐き出すようにため息をつく。珍しく深月は苛立っているようだ。
「最近、神藤に避けられてるんだ。」
深月はぽつりと言う。深月は二日くらい前から見事なまでに千尋に避けられていた。それが深月を苛立たせていたのだ。信広は意外そうに微笑む。この親友がそんな風に誰かを気にかけるなんて滅多にないことだからだ。
「あー、お前のことだから何か神藤の気に障ることでもしたんじゃないか?」
「心当たりがありすぎて断定できないな。」
深月の言葉に、信広は呆れたように深月を見つめる。
「なあ、深月。ずっと気になってたんだけどさ、お前本気で神藤のこと好きなわけ?一生を彼女と過ごせるほど?」
信広にとって神藤千尋は可哀想な女の子である。せめて幸せな結婚ぐらいはしてほしいと思う程度には。
「初めはそうでもなかった。いつもと同じだよ。どうでもいい存在。だけど、いつの間にか彼女が入り込んで来て。彼女の弱い部分も見て、強い部分も見て、もっと彼女を滅茶苦茶にしてやりたいと思ったんだ。滅茶苦茶甘やかして、ずっと俺に囚われてほしい。...こういうのが愛しいなのかな。」
深月の言葉に偽りはないようだった。信広は微笑む。そして内心はつっこんでいた。親友の千尋に対する思いは思っていたよりも重かったようだ。ご愁傷様と千尋に思いを馳せる。
「多分神藤は真面目だからこのままにはならないだろ。まあ、気長に待ってやれよ。」
信広は当たり障りのない言葉で、深月を慰めたのだった。だって下手なことを言うと深月は暴走しそうだったから。




