大切な一言
お久しぶりです!
第26話です。
「ん?おーい。千尋ー!」
千尋は学校の敷地内で前方にいる叔父匡に声をかけられた。学校で匡に会うのは珍しいことだ。
「叔父様。久しぶりですね。学校で会うのは。」
「ああ。そうだな。というか会うのも久しぶりだもんなー?」
匡は千尋の頭を撫でる。流石に学校でこれは恥ずかしい。
「そういえば、千尋。婚約おめでとう。まあ、めでたくないのかもしれないが、うまく行くさきっと。」
匡はそう言って穏やかに微笑む。千尋は匡をじっと見る。匡は穏健である。そして、大らかでありながら策士な匡は神藤家本家の参謀と周りには見なされている。その匡がこんな風に言うと本当にそうなる気がする。
「そういえば、お兄様もお見合いするんですよ。」
千尋がそう言うと、匡は苦笑いする。
「ああ。聞いたよ。あいつも可哀想に。」
「叔父様みたいに独身でいたいなら別ですけど、お兄様は長男で跡継ぎなんですし、そろそろ結婚してもらわなきゃ困りますよ。」
「そりゃそうだが。やっぱり好きな人と結婚してほしいよな。」
「それは。お兄様は好きな方とかいらっしゃらないのかしら。」
「...さあね。あいつも真面目だからな。とりあえず千尋。また近い内に家に行くからよろしくな。」
匡は最後に千尋の頭を撫でて去って行く。
「そういえば、神藤。お兄さん、お見合いするんだって?」
深月はにこやかにそう切り出す。千尋は眉間にシワを寄せる。千尋と深月はいつも図書室である。千尋が本棚で本を探し、その隣に深月は立っている。
「大和君には関係ないわ。」
「関係あるさ。神藤のお兄さんてことは俺の将来のお義兄さんだろうが。」
「気が早いでしょうが。貴方との結婚を考えるのは伝承がうまく片付いてからよ。」
千尋が冷ややかにそう言うと、深月はニヤつく。
「てことは考えてくれるんだ?」
「五月蝿い。黙って。伝承はどうなってるのよ。」
千尋が聞くと、深月は真面目な顔になる。
「俺、考えたんだけど、まずは相思相愛になるところから始めないと伝承は始まらないと思うんだ。」
深月はそう言うと千尋の手を取って、顔を耳元に近づける。
「だから、俺と恋をしないか?」
深月は甘く囁く。千尋は顔を赤く染める。ただでさえ、深月のことが気になっているのに。こんな事をされたら一溜まりもない。
「やめて。冗談じゃない。そんなことして、もし狂っちゃったらどうするのよ。」
「止めてあげる。」
深月は優しく微笑んで言う。千尋は一瞬固まる。まるで時が止まるように。それほどまでに深月の一言は千尋には驚くものだったのだ。




