男女の機微もわからない無粋者な妹
久しぶりです。
おそくなってすみません。
珍しく神藤5兄妹は居間に揃っていた。末っ子の千鶴は黙々と宿題をし、長女の千尋はぱらぱらと雑誌をめくり、三男の千里は小説を読み、次男の千幸はぐうすか寝ており、長男の千歳はというとため息ばかりついている。千歳が何度目かのため息をついたところで、千里は小説に栞をはさみ、ぱたんと閉じる。
「いい加減うっとおしいんだが、兄さん。」
千里は苛立っているように言う。
「うっとおしいとはなんだ。うっとおしいとは。」
千歳は噛み付くように言い返す。千鶴は不穏な雰囲気の二人の兄を見てオロオロし始める。千尋はため息をつく。
「まあまあ。二人とも。千鶴がびっくりしちゃってるよ。お兄様もたかがお見合いくらいでそんな憂鬱にならなくても、ね?」
「そうだな。わかってはいるが、私に結婚なんてまだ早い。そう思わないか?」
「そうはいっても兄さんは跡継ぎ息子なんだから仕方ないだろう。会うだけあってみろよ。そんな難しく考えずにさ。」
「そうだよ。もしかしたら意外と意気投合するかもしれないし。」
千尋は明るく言う。千歳はまだ項垂れている。よっぽど今度するお見合いが嫌なようだ。千歳は25歳。神藤家のような異能者一家の跡継ぎ息子は結婚が早ければいいにこしたことはないのに、千歳は女っ気もない。それを心配した親戚がお見合いを取り付けたらしい。仕方ない話なのかもしれない。年の離れた千尋が婚約したのだ。いつまでも本家の跡継ぎが独り身というわけにもいかない。
「にしても最近はお見合いラッシュなのかなー。」
千尋が言うと、千里は小首をかしげる。
「なんで?」
「え、こないだ、威問君が言ってたんだけどさ、異信会会長令嬢が神功家の跡継ぎとお見合いするんだってさ。」
千尋がさらりと言うと、千歳は勢い良くばん!と机を叩く。千里はあーあ、みたいな顔をしている。千尋は何故兄達がそんな行動をとるのか理解できなかった。
「そうか。あれからもう7年だもんな。」
千歳はそう呟くと、ふらふらと茫然自失に部屋を出る。
「本当に千尋は間が悪いなあ。あと兄さんもだけどな。」
千里はそう言って笑う。それから読書に戻るのであった。千尋はわけがわからなかった。
「なんのこと?」
「千尋。お前は恋愛小説でも読んで男女の機微というものを学んでみてはどうだ?」
いつの間にか起きていた千幸が千尋にそんな言葉を投げかける。
「すみませんね。男女の機微もわからない無粋者の妹で。」
千尋がひねくれて言うと千里は吹き出す。
「ああ、もう。千尋は可愛いなあ。しょうがない。お兄ちゃんがヒントをあげようか?」
千里は笑いながら言う。千尋はそんな千里にむかっとした。馬鹿にされている気がしたのだ。
「いい!」
千尋はそう拒否をすると、部屋から出て行った。千尋を見送り、千里はニヤニヤしている。
「お前も趣味の悪い。...兄貴に余計なことをするんじゃないぞ。」
千幸は千里を嗜めるように言う。
「わかっているよ。俺は何もしないさ。面白くなりそうだ。」
千里は鼻歌でも歌いそうなぐらい上機嫌な様子だった。千鶴は一生懸命宿題をやっている。千幸はそんな弟達をみて面倒そうにため息をつく。




