千尋の従兄
千尋は珍しく店番をしていた。神藤家では神社だけでなく副業として呉服屋もしている。いつもなら両親や長兄が店番をしているのだが、今は諸事情により家から離れないため、一番暇で下っ端の千尋が店番をしているということだ。まあ、今の時間帯なら滅多に人も来ないし、いいのだが。そう思っていると、ドアが開き誰か客が来てしまったようだ。客は千尋もよく知る人物だった。
「威問君。」
客は千尋の従兄の斎神威問である。西の方の名家中の名家、西六日家の一つである斎神家の跡継ぎ息子だ。相変わらず男でも女でも見惚れるような美貌の人物である。
「ああ、千尋。久しぶりだな。相変わらず元気そうで何よりだ。どれ、飴ちゃんでもやろう。」
威問はそう言ってどこからか飴を一粒取り出して千尋に渡す。
「威問君、今日はどうしたの?何か取り置きとかしてた?」
千尋は威問にお茶を出しながら言う。
「いや、違う。実は今日は人に贈り物があってきたんだ。」
「それって私でもわかるかな。誰か店の人呼んでこようか?」
「今日は伯父上も伯母上も忙しいだろう?今日はお客様が多いみたいだから。」
威問は意味ありげに微笑む。千尋は苦笑いする。
「知ってるの?」
「母経由で知った。千歳さんもいい年だからな、結婚してもいいだろう。彼は跡継ぎなんだし。」
威問はけろりと答える。そうなのだ。長兄千歳に婚約話が浮上している。その対応で今両親や兄は忙しい。千尋が結婚する前に千歳をなんとか結婚させようとする親戚の作戦らしい。あの人たちも神藤一族の存続のためにご苦労なことである。
「そうだね。で、贈り物って誰に?」
「我が許嫁殿に何か良い和小物はないかと思って。今度、東京で会う予定があるものだからお土産を渡さないわけにもいかないだろう。」
威問が言うと千尋は納得した。威問は西六日家筆頭の家柄である神功家令嬢、神功清麗という少女と婚約しているのだ。清麗とは千尋も面識がある。とても大和撫子のような少女で清楚でお淑やかだ。政略婚約とはいえこの二人の仲の良さは有名である。
「あ、清麗さんにか。何にする?簪とか?髪飾りがいい?」
「うん、そうだな。普段使えそうな髪飾りを持ってきてくれるか?」
千尋は清麗を思い浮かべて似合いそうな髪飾りを何点か選んだ。
「これにする。あと香袋つけといてくれるか?」
威問は千尋が見立てた髪飾りのうち花が銀で模してあるピン留めを選んだ。この髪飾りなら華奢千尋は髪飾りと鮮やかな生地の香袋を綺麗にプレゼント用にラッピングする。
「はい。清麗さん、喜ぶといいね。」
「喜ぶだろうな。あれはこういうのが好きだから。清麗は長く海外生活していたからか和物が好きなんだ。時に、千尋。大和の跡継ぎと婚約したと聞いたが。」
「うん。したよ。あの異信会会長の勧めでどうしても断れなかったし。」
「そうか。婚姻は1番手っ取り早い戦略方法だ。はっきりとわかりやすい。だが、婚姻とはな、一番とりたくない戦略方法でもある。敵対しているような家柄だと特にな。時にはお互い望む婚約も良い。...異信会会長令嬢がお見合いするらしい。神功の跡継ぎとな。まあそれだけの話だ。伯父上と伯母上によろしくな。また今度。」
威問は微笑んで店を去って行った。千尋は威問の言った意味がよくわからなかった。特に異信会会長令嬢のお見合いのくだりは必要だったのだろうか。威問が意味のないことをべらべら喋るとは考えにくいが。
如何だったでしょうか?
今回から新章です。
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