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神藤家の退屈しない日常  作者: 三都花実
千尋と深月の新たな関係編
15/33

千尋と深月の約束

第15話です。

「酷いな。言ってくれてもいいのに。」


 深月は傷ついたように言う。千尋の必死の抵抗で深月もようやくみーちゃん呼びを諦めたみたいだ。


「君に話があったんだ。」

「話?」


 千尋は怪訝そうに聞き返す。どうせろくな話じゃない。なんだかそんな感じがした。


「そう。忘れるところだった。...君は伝承があるから俺と結婚したくないんだろ?」

「何回もそう言ってるでしょ。私は...私は神藤のために生きて神藤のために死ぬんだから。」


 千尋がそうやって答えた。深月はにやりと、微笑む。まるで予想通りの答えをもらって喜んだ少年のように。


「じゃあ簡単だ。君が、心置きなく結婚できるように、君が狂わなくてもいいように、伝承を解決してあげる。」


 千尋がその深月の言葉に反論しようとすると、深月は千尋の唇に指を当てて黙らせる。


「もし俺が高校を卒業するまでにこの伝承が解決できなければ、俺から君との婚約を解消してあげる。誰がなんと言おうがするよ。大和家後継として君と約束する。」


 深月はそう言って、千尋の唇から指を離す。千尋は黙っていた。だが、その目は戸惑いに、満ちている。その目に深月は満足しているように微笑む。


「その代わり、約束してくれるかな?それまでは人前では婚約者らしくしてくれるって。」


 深月は千尋に尋ねる。もし伝承が解決されたら、神藤と大和の妙な因縁もなくなる。それに、過去の神子姫のようなつらい経験をする娘もいなくなる。これは神藤のためになるだろう。だから、神藤の神子姫としてここは約束しなくてはいけない。


「...わかったわ。約束する。」


 千尋の言葉に深月は満面の笑みを浮かべる。





 千尋は家の縁側でぼーっとしていた。そこに千幸がやってくる。


「どうした?お前が珍しいな。」


「お兄ちゃん。時にはお兄ちゃんみたいに流されるってことも大事なんだね。」


 千尋はそう言う。千幸は目を丸くして驚く。この真面目な妹らしからぬ言葉だ。やはり意に沿わぬ婚約で悩んでいるのだろうか。


「千尋。お前、何か悩みがあるのか?お兄ちゃんが聞いてあげようか?」


「違うよ。ただ、私ってやっぱり頭でっかちなのかなと思ってさ。」


 千尋は理事長に言われたことを考えていたのだ。それで少しぼーっとしていた。


「大丈夫。お前よりも兄上の方が頭でっかちだからな。」


 千幸は慰めになるのかならないのかよくわからない言葉を言う。千尋は千幸を見つめる。面倒がりやの兄にしては珍しく妹を慰める気になったらしい。




 深月は自室で読書をしていた。勉強の時は眼鏡をかける。眼鏡があると集中できるのだ。

 がちゃり。部屋に誰か入ってきた。誰かは予想できる。ノックもせずに入ってくる人は家族では一人くらいしか思い当たらない。


「何か用ですか?お母さん。」


 母月美は嬉しそうに微笑む。深月は振り向いて、母を見るとため息をつく。


「ええ。深月。随分と最近楽しそうね?」


「まあ。面白いですよ。」


 深月は一瞬間を置いて答える。神藤千尋。彼女は確かに面白い。ただの真面目な少女でないところが特に。


「ねえ、深月。一回、千尋さんに会いたいわ。連れてきてちょうだい。」

「いやです。」


 深月は即答した。月美はわざとらしく傷ついた表情を浮かべる。


「お母さん。貴女には前科があるのが、お忘れですか?」

「あら。彼女はふさわしくなかったから、仕方ないわ。それにまだあの子には他にもいい子がいるわ。でも貴方は違う。貴方がそんなに執着できる相手がそうそう現れるとは思えないから、この婚約を壊したりはしないわよ?」


 月美は非常に妖艶な笑みを浮かべて言う。深月はため息をつくしかなかった。母にも困ったものだ。できるだけ千尋には会わせたくないな。それに、母も勘違いをしているようだ。











第15話いかがでしたか?

今回は深月くんのお母さんが

出てきました。


またよろしければご感想などお聞かせください。

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