閑話1
第14話です。
『本当に本家のお嬢様は素晴らしい。』
『あの力があれば、千尋さんが神子姫となってくれれば、神藤は安泰だ。』
『いいですか。貴女は神藤のために生まれてきたのです。』
『神藤に背いては駄目だ。神藤を裏切るな。』
『血が貴女を選んでくださったのですから、神藤に尽くしなさい。』
昔から神藤の一族にはそう言われてきた。両親や兄、叔父などはそんな声気にしなくてもいいと言っていたけれど、千尋にとってその声は無視できなかった。
「千尋。」
廊下を歩いていると、呼び止められた。そこにいるのは樹だ。
「いっちゃん。どうかした?」
「どうかしたって。本当に婚約する気か?あんなに狂いたくないって言ってたじゃないか。」
樹は千尋を咎めるように言う。千尋は儚げに微笑む。本当にこの幼なじみは真面目だ。曲がった事が嫌いな幼なじみ。
「そうだね。狂いたくないよ。」
「なら。大和との婚約は...」
「私は狂わない。大和君との婚約も避けられない。もう婚約するしかない。お父様や大和家当主よりも理事長の方が上手だった。仕方ない。」
幼い頃から家ぐるみで仲が良かった千尋。千尋は幼い頃から、近寄りがたい時があった。千尋にはまるで触れてはいけない聖女のようなところがあるのだ。
それから千尋はいつも通り明るく笑う。
「ねえ、いっちゃん。いつも心配してくれてありがとう。感謝してるんだよ。私。」
千尋はそう言ってその場を去る。
千尋はまた図書室にいた。誰もいない図書室。千尋は時々一人になりたくなる。
「神藤。」
そうやって千尋に声をかけたのは深月だ。婚約してから深月に会ったのは初めてかもしれない。深月は千尋に近寄る。
「また来たの。暇なの?」
深月はそんな千尋の言葉を無視して、千尋の前の席に座る。
「ひどいな。婚約者に向かって。」
「なにが婚約者よ。」
千尋は軽く大和を睨みつける。大和は甘く微笑む。多分この微笑みにほとんどの女の子は悩殺されるのだろう。しかし、千尋にとってはただの胡散臭い微笑みにしか思えない。そう大和深月は全体的に胡散臭いのだ!
「いや、婚約もしたんだし、少しはなびいてもいいだろ。ほんと、神藤は素直じゃない。...神藤。俺は今不機嫌なんだ。...君のせいでね。」
深月はそうやって言うと、千尋を覗き込む。確かに深月の瞳には不穏な光が宿っている。しかし、千尋には深月を不機嫌にさせた覚えはない。
「私何もしてない。」
「神藤はあの男が好きなのかな。」
「あの男?」
「波宮樹。廊下で二人っきりだったろ。」
千尋は樹の名前を聞いた途端笑った。よりにもよって樹とは。樹のことはただの幼なじみとしか思っていない。今も昔も。
「ふっ。大和君。それはないでしょ。いっちゃんはただの幼なじみ。」
「いっちゃん!?あいつの事そんな風に呼んでるのか。」
深月はそうやって軽く怒ったように言う。千尋はまだ笑っている。深月はそんな千尋を見て不穏な笑みを浮かべた。
「まったく罪な婚約者だな。」
そう言うと、深月は千尋の頬に触れる。千尋は笑うのをやめた。
また変な方向に行っている気がしている千尋だった。
「ね、神藤。俺のこと、みーちゃんって言ってみて。」
「は?ちょっと。大和君。頭大丈夫?」
「あいつがいっちゃんって呼ばれるなら俺がみーちゃんって呼ばれても不思議じゃない。」
「その理屈おかしいから!そもそも貴方がみーちゃんって柄?」
千尋が思わず叫んでしまったのは仕方ないと言えるだろう。
第14話いかがでしたか?
ほんと深月くんがね。
深月くんがいるだけでコメディ?っぽくなる
気がします。




