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神藤家の退屈しない日常  作者: 三都花実
千尋のお見合い編
14/33

閑話1

第14話です。


『本当に本家のお嬢様は素晴らしい。』


『あの力があれば、千尋さんが神子姫となってくれれば、神藤は安泰だ。』


『いいですか。貴女は神藤のために生まれてきたのです。』


『神藤に背いては駄目だ。神藤を裏切るな。』


『血が貴女を選んでくださったのですから、神藤に尽くしなさい。』


 昔から神藤の一族にはそう言われてきた。両親や兄、叔父などはそんな声気にしなくてもいいと言っていたけれど、千尋にとってその声は無視できなかった。


「千尋。」


 廊下を歩いていると、呼び止められた。そこにいるのは樹だ。


「いっちゃん。どうかした?」


「どうかしたって。本当に婚約する気か?あんなに狂いたくないって言ってたじゃないか。」


 樹は千尋を咎めるように言う。千尋は儚げに微笑む。本当にこの幼なじみは真面目だ。曲がった事が嫌いな幼なじみ。


「そうだね。狂いたくないよ。」


「なら。大和との婚約は...」


「私は狂わない。大和君との婚約も避けられない。もう婚約するしかない。お父様や大和家当主よりも理事長の方が上手だった。仕方ない。」


 幼い頃から家ぐるみで仲が良かった千尋。千尋は幼い頃から、近寄りがたい時があった。千尋にはまるで触れてはいけない聖女のようなところがあるのだ。


 それから千尋はいつも通り明るく笑う。


「ねえ、いっちゃん。いつも心配してくれてありがとう。感謝してるんだよ。私。」


 千尋はそう言ってその場を去る。




 千尋はまた図書室にいた。誰もいない図書室。千尋は時々一人になりたくなる。


「神藤。」


 そうやって千尋に声をかけたのは深月だ。婚約してから深月に会ったのは初めてかもしれない。深月は千尋に近寄る。


「また来たの。暇なの?」


 深月はそんな千尋の言葉を無視して、千尋の前の席に座る。


「ひどいな。婚約者に向かって。」


「なにが婚約者よ。」


 千尋は軽く大和を睨みつける。大和は甘く微笑む。多分この微笑みにほとんどの女の子は悩殺されるのだろう。しかし、千尋にとってはただの胡散臭い微笑みにしか思えない。そう大和深月は全体的に胡散臭いのだ!


「いや、婚約もしたんだし、少しはなびいてもいいだろ。ほんと、神藤は素直じゃない。...神藤。俺は今不機嫌なんだ。...君のせいでね。」


 深月はそうやって言うと、千尋を覗き込む。確かに深月の瞳には不穏な光が宿っている。しかし、千尋には深月を不機嫌にさせた覚えはない。


「私何もしてない。」


「神藤はあの男が好きなのかな。」


「あの男?」


「波宮樹。廊下で二人っきりだったろ。」


 千尋は樹の名前を聞いた途端笑った。よりにもよって樹とは。樹のことはただの幼なじみとしか思っていない。今も昔も。


「ふっ。大和君。それはないでしょ。いっちゃんはただの幼なじみ。」


「いっちゃん!?あいつの事そんな風に呼んでるのか。」


 深月はそうやって軽く怒ったように言う。千尋はまだ笑っている。深月はそんな千尋を見て不穏な笑みを浮かべた。


「まったく罪な婚約者だな。」


 そう言うと、深月は千尋の頬に触れる。千尋は笑うのをやめた。

 また変な方向に行っている気がしている千尋だった。


「ね、神藤。俺のこと、みーちゃんって言ってみて。」


「は?ちょっと。大和君。頭大丈夫?」


「あいつがいっちゃんって呼ばれるなら俺がみーちゃんって呼ばれても不思議じゃない。」


「その理屈おかしいから!そもそも貴方がみーちゃんって柄?」


 千尋が思わず叫んでしまったのは仕方ないと言えるだろう。




第14話いかがでしたか?

ほんと深月くんがね。

深月くんがいるだけでコメディ?っぽくなる

気がします。

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