千尋と理事長
第13話です!
「ええっ!!大和家がこの婚約を受けると言っている!?」
千歳が驚いて声をあげると、聡は頷く。家族はまたぎゃあぎゃあそれぞれ喚き出す。千尋はため息をつく。
「こうなったら仕方ないじゃないですか、お父様。お受けするしか...」
千尋が言うと、聡は首を横に振る。
「いや、確かにこの婚約は断れないが、結婚はしない。結婚をする前にはなんとか破棄できるようにする。何が何でも破棄してやる。だからなんとか婚約だけしてくれないか、千尋。」
聡がそう言うと、家族全員が不思議そうな顔をする。何故か聡が頑なになっている気がしたのだ。
「お父様の決めた事です。...まあ、婚約するだけなら。」
千尋がそう言うと、聡はありがとうと呟く。
後日。千尋は学校に行くと、担任から理事長室に呼ばれた。理事長室には、もちろん理事長の信哉がいて、にこにこしている。
「理事長、お呼びですか?」
「ああ、君とは一度話したいと思っていたんだよ、神藤千尋ちゃん。」
信哉は意味ありげに微笑む。千尋は微笑み返す。
「そうですか。光栄です。」
千尋はもちろん社交辞令で相槌を打つ。信哉は嬉しそうに微笑む。
「君にはお母さんの面影もあるね。」
「え、私と理事長のお母様が似てるとは思えませんが。」
千尋は軽くひいたように言う。信哉は慌てた。
「いや、違う違う。君のお母さんだ。芙由子さんの面影があるということだ。」
「理事長は母をよく知っているんですか?」
「ああ。芙由子さんのことはよく知ってる。」
信哉はすごく穏やかに微笑んで言う。千尋は微かに眉間にシワを寄せる。
「とりあえず、婚約おめでとう。...本当にめでたいことだ。これで心のつかえが取れた気がするよ。」
「そうですか。本当に私と大和君が結婚しちゃっていいんですか?」
千尋は信哉を試すように聞く。すこし失礼かもしれないが、仕方ない。信哉はふ、と頬を緩める。
「伝承か。それもまた、血筋ゆえかな。」
千尋は信哉の呟きを理解できなかった。
「神藤千尋ちゃん。神藤家の血筋に愛される君には大和との辛いことだろうね。どうして君はそんなにも神藤家に尽くすんだい?」
今度は信哉が千尋を試すように聞いてくる。どうして?そんなこと聞かなくてもこの業界に身を置く人ならわかるだろう。自分の生まれた家は絶対だ。尽くして当然。
「そんなの、当然のことです。私は神藤家当主の娘として神子姫の資格を得ました。だから家に尽くすのは...」
「当然?神藤家に生まれた事も、神藤の神子姫の資格を得たのも、君にはどうしようもないことじゃないか?...君は誰よりも神藤家令嬢としての考え方ばかりだ。大和深月君と結婚したくないのだって、そういう考え方に囚われているからだ。君はもっと視野を広めた方がいい。」
信哉が微笑みながら言う、千尋はむっとして、信哉を思いっきり睨む。それから、失礼します!といって部屋を出た。
「あーあ、ついいじめ過ぎたかな。しかし、本当にああいう所は彼女そっくりだ。」
信哉は一人残された部屋でぼやいた。
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