神藤千尋、面倒事に巻き込まれる
初めまして!
第一話です!
楽しんでいただけると幸いです。
神藤千尋の家は神社だ。しかもそこそこ有名な。神藤一族は代々神々の力を借りて、世の摩訶不思議な困りごとを解決してきた。千尋はその一族の本家の娘である。千尋には三人の兄と一人の弟がいる。兄弟との仲はいたって良好だ。むしろ良好すぎるぐらいだろう。両親だって健在である。家庭的には千尋は恵まれている。
「千尋がお見合い!?それはまた随分と面白いことに。」
そう言ったのは神藤家三男の神藤千里だ。
「千尋にお見合いなんて早いと思います。まだ仕込まねばならぬことがたくさんありますし。」
そうやって堅苦しいことを言っているのは長男の神藤千歳である。
「千尋の前に兄貴の嫁探しが先のがいいんじゃないかね。」
兄に嫁がいないのは嘆くように言うのは次男の神藤千幸だ。
「お姉ちゃんがどっか行っちゃったらやだよう。」
涙を浮かばせて言うのが四男の神藤千鶴である。
「ああ。俺だってそう思う。俺の可愛い可愛い千尋をなんであの大和一族の馬鹿息子にやらねばならないのか。嘆かわしい。」
神藤家当主で神藤兄弟の父の、神藤聡は眉間にシワを寄せながら言う。
「あら。そうなったのは誰のせいかしら。あ、な、た。」
そうやって笑顔で聡を追い詰めるのは聡の妻で神藤兄弟の母の神藤芙由子だ。さて、当の千尋はというともくもくと朝ごはんを食べ進めている。
「可哀想に。ショックで何も言えないんだろう、きっと。」
聡が哀れむように言うと、千尋は箸を置いた。箸を置いたのはご飯を食べ終わったからだ。
「ご馳走様でした。...朝の忙しい時間帯にこんな寸劇に付き合えるわけないでしょうが!私学校あるんですからね。ていうかお兄ちゃんもお兄も千鶴も学校でしょ。早く支度した方がいいわよ。あと、この婚約騒動の話は時間のある夜にしてください。」
千尋はそう言い残すと近くに置いてあった学生鞄を持った。そして、玄関に向かう。靴を履く。
「いってきます。」
とだけ言って家を出るのだった。
千尋が通っているのは神藤のような家の子が通う特別な学校、私立異信学院である。幼稚舎から大学部まであり千尋が現在在籍しているのは高等部だ。
「ちーひーろ!」
千尋が大きい学校の門をくぐると、後ろから抱きつかれた。
「うわっ。なんだ、鞘花か。びっくりした。朝から元気ね。おはよう。」
千尋は抱きついてきた少女に挨拶する。少女の名前は古藤鞘花。千尋の幼馴染であり親友だ。
「おはよう。浮かない顔してどうかしたの?」
「いや、それが...」
「神藤!」
千尋が鞘花に婚約の話を相談しようと思うと、遮られた。千尋と鞘花が声の主を確認すると千尋は眉間にシワを寄せた。
「大和君。私に何か用?」
千尋が聞くと大和は笑みを浮かべる。大和深月。大和一族本家の跡取り息子であり、件の千尋の婚約者候補である。
「ああ。少し話がある。古藤。神藤を借りてく。」
深月はそう言うと千尋を連れてその場を離れた。
深月は千尋と一緒に誰も通らないような裏道を通って学校に向かっている。この異信学院は校門から校舎までかなりの距離があるのだ。
「話って?」
千尋は話を切り出す。深月は笑みを浮かべる。
「神藤。わかってるんじゃないのか?」
「なんのことかしら。」
千尋はわざとはぐらかした。そうすることで深月の反応が見たかったのだ。深月は意地の悪い笑みを浮かべた。まるでいたずらっ子のように。
「ふーん。流石は神藤家のお嬢様。一筋縄ではいかないな。まあこうやって化かし合いするのも楽しそうではあるけど、時間もないことだし、単刀直入に聞くけど、神藤はさ、俺と婚約する気あるの?」
深月の問いを千尋は一瞬考えた。
「ない。なんでそんな事になってるのかわからないけど神藤と大和が結び付くなんて考えられないでしょう。」
千尋ははっきりと述べる。ここで曖昧な答えにすると千尋の推測する大和深月の性格上千尋にとって面倒な事になると思ったからだ。
「そうか。いやあ、残念だねえ。でもそれだと神藤は俺が大和だから断っているように聞こえる。」
「そう言っているのよ。私が神藤本家の娘である限り大和本家の跡取り息子と婚約なんて許されていいはずないもの。」
千尋が少し表情を暗くして言う。深月は困ったように微笑む。
「神藤はやっぱり真面目だな。そこが神藤千尋の良い所であるのかもしれないけどな。そんな真面目な神藤にいい事を教えてあげよう。これはね、異信会が仕組んだことらしい。じゃあね、神藤。二人でいる所を見られると面倒な事になりそうだし、先に行くから。」
深月の言った異信会という単語に千尋はぴくり、と反応し、驚いたように深月を見たが、深月は意味ありげに微笑み、その場を去っただけだった。
第一話いかがでしたか?
私はもう一つシリーズも連載しているので
交互に投稿していきますが
できるだけ早く次回を投稿したいです。