初めての人間
思いつきで始めた小説です
人魚やら人間やら出てきますが基本、人魚姫をモチーフにしています
でも中身は完全オリジナルです
「ユークレス、わしの娘を嫁に貰ってはくれぬか?そなたほどの実力者ならば、わしも姫も納得しようぞ」
右大臣は少々困った顔でユークレスに言った
「もったいなきお言葉です。右大臣様。私のような若輩者、エメラルダ様のお相手にはまだまだ修行不足です」
ユークレスは、下半身のヒレを優雅に水にたなびかせながらぺこりと一礼すると、王宮を後にした。
「ユークレス様よ」
「素敵」
「今日もなんて美しいのかしら」
囁いているのは宮廷の女中達。深い深い海の底、ユークレスはスイスイと白い建物の間をすり抜けて泳いでいった
「ユークレス様。」
美しく透き通った声でユークレスを呼び止めたのは、その名に恥じぬ、輝く長い金髪をした、大きな瞳の右大臣の愛娘、エメラルダ。
「ユークレス様、明日の式典には出席なさるのでしょう?私と一緒に踊っては下さいませんか?」
エメラルダはヒレの上の長いドレスを両手で掴み、ペコリと一礼した。
「せっかくですがエメラルダ。私は明日の式典には行けそうもありません。城内での見張りの仕事がありますので」
エメラルダの瞳に大粒の涙が浮かぶ
「ひどいわ、ユークレス様。私よりお仕事の方が大事ですのね」
ユークレスは今にも泣き出しそうなエメラルダに困りながらも、優しく彼女に微笑みかけ、
その白い頬に手を添えた
「でも、その仕事が終わったら必ず馳せ参じますので、どうかご了承を」
今度はユークレスがペコリとお辞儀を返した。
「絶対ですわよ」
エメラルダはユークレスの人差し指と自分の人差し指を結び付けて「指きり」と言った。
次の日の式典。テーブルの上には豪華な料理がズラリと並んでいた。大臣達は酒を交わしあい、美しい人魚達が舞を踊っていた。
「まぁ、エメラルダ、今日もなんて美しいのかしら。ただし、私の次に・・・ですけれど」
扇子で顔を扇ぎながら、王の妻、クレアは言った。
「クレア様こそ、今宵も見目麗しい。殿方が放ってはおかないでしょうに。それに、今日はクレア様の誕生式典、主役はクレア様ですわ」
エメラルダはクレアに赤ワインを手渡した。
クレアはそれをグビグビと飲みほすと、真っ赤な口紅のついた唇を左手で拭いとり、小さな声で「思ってもない事を」と呟いた。
式典も中盤にさしかかろうとした頃、慌ててユークレスはドアをキイと開いてやって来た。
タキシードを着て、普段見せないような黒一色の姿の彼に、会場の女性達は釘づけになっていた
「ユークレス」
ユークレスの傍にクレアはずかずかとやって来ると、右手をユークレスの前に差し出した。
「踊ってくださる?」
「喜んで」
ユークレスはクレアの腰に腕を回し、曲に合わせてヒラリヒラリと踊った。周りの人魚達は踊るのを止め、その様を物欲しげに見ていた。
「ユークレス様、先ほどはとても綺麗でしたわね」
まだ皆が踊り、式を楽しんでいる中、ユークレスとエメラルダは、会場の外の暗い海の底で灯る外灯の下、2人で話していた。
エメラルダは2、3歩歩くと、くるりと振り返り、ユークレスの両手を掴んだ。
「それではユークレス様。今度一緒に地上を
見に行きませんか?私、1度人間を見たいと思っておりましたの」
エメラルダは今年まだ14歳。外の世界を知らないのも当然であった。ユークレスは悩んだ。人魚の世界では、あまり外の世界を見る事は良く思われていない。しかし、こう何度も女性の誘いを断る事は失礼に当たる。
「いいでしょう姫君。しかし、しばらくの間だけですよ。」
「本当ですの!」
エメラルダは両手を祈るように合わせ、心底嬉しそうな顔をした。ユークレスは、自分の事でこんなに喜んでくれるエメラルダを、少しばかり可愛いと思った。
ユークレスとエメラルダは2人揃って地上へと続く道をスイスイと泳いでいった。日の光りがだんだんと濃くなっていく。それに合わせて、周りの魚達もいつもと違って見えた。
ザバンと、まずはユークレスが地上の空気を吸う。
「姫君、よろしいですよ」
ザバンと今度はエメラルダが海の上に顔を出した。エメラルダは辺りをキョロキョロと見渡すと残念そうに俯いた。
「人間はいませんのね」
「そうそう人間という生き物は見れるものではありませんよ。」
ユークレスは「ははっ」と小さく笑った。その時、どこからか音が聞こえた。「ボーーッ」
振り返るとそこには、煙と火が入り交ざったものが吹き出ている船があった。
「あれは何!?」
エメラルダは海に隠れるようにユークレスに身を寄せた
「火事です!エメラルダ!さあ、もういいでしょう。深海に戻りましょう」
ユークレスはエメラルダの腕を掴むと、海の中へと彼女を誘導しようとした。
「まって。誰か飛び込んだわ!」
エメラルダの指差した方を見ると、人間の少女がザバザバと溺れていた。
「助けなきゃ!」
エメラルダはユークレスが掴んでいた腕を振り切り、溺れている少女の元へとヒレを泳がせた。
「エメラルダ!」
ユークレスも後を追う。
少女の元へと駆け寄ったエメラルダとユークレスは、「しっかりして!」と少女に呼びかけ続けた。だが、少女の意識はない
「どうしましょう!?」
慌てふためくエメラルダ。その大きな瞳は潤んでいる。
「とりあえず、陸地に連れて行きましょう」
ユークレスが少女を抱え、エメラルダはそれを心配そうに見守った
陸に着き、エメラルダは少女に人工呼吸を施した。「ぷはっ」少女は勢いよく水を吐き出し、「げほげほ」と息を吹きかけた。
ボヤーッと少女が微かな意識の中、最初に目にしたのは、人間ではなく、尾ヒレのついた長い金髪の髪をした人魚だった
「だ、誰!?」
少女は後ずさりをした。その目は好奇なものを見る目そのもの。
「あ、私はエメラル・・・」
「姫!」
エメラルダの言葉をユークレスがさえぎる。
少女はビクッと肩を震わせた
「それ以上言ってはいけません!さあ、この少女はもう大丈夫です。帰りましょう」
しぶしぶエメラルダは承諾し、海へ帰ろうとした。
「待って!」
少女が2人を呼び止め、ユークレスに近づくと、
「ありがとう」
とお礼を言った。
ユークレスは少女の頭を撫で、「どういたしまして」と言い、優しく笑った。少女の顔が赤くなった気がした。
式典というものに出た事がないので、書くの大変でした。
それを言ったら、人魚というものに出会った事もないので、もっと大変でしたけど(笑)