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死を司る神

「……なんだこれは!?」


一足先に都へ戻ってきた正宗と忠勝。

二人は異様な光景の都の姿に驚いていた。

大通りに植えられている草木は枯れ果て、道に横たわる小動物の死体。

中には人の死体すら転がっているのだった。

二人は城を確認する、城の周りに青白い光を放つものが6体。

その光からは優しさなどを感じることができず、負のエネルギーをひしひしと感じている。

顔を見合わせた二人。ただならぬ事態に城へと急いだ。


6体の光はそれぞれ動物の形をしている。

狼、熊、鷹、鹿、大蛇、そして虎。

それぞれがバラバラに意志を持ち行動している。ただ6体に共通していることがある、それは6体全てが触れたものの生命を吸い取っていること。触れたもの、触れられたものはことごとく命を失っていた。

故に兵士達も手を出すことができず、城に籠もることしかできなかった。女王瑠璃は城下の民を城の中へと誘導し、正体不明の敵に対して備えていた。


「誰かあの青白い光について情報を持たないのですか?」


「陛下……あれば恐らく邪神の類……

都を襲う理由はわかりませんが……」


「城下に出た琥珀達は無事でしょうか……?」


「現人神様がおられます、無事を祈りましょう」





青白い獣達はバラバラなようではいたが、何かに指示されているかのような統率されている動きを時折見せる。

獣達の中心に一人の女の影が見えた。

影の名は友梨。

琥珀達を崖下に突き落とした後、白龍城を攻め落とすために都へと戻ってきていた。


「流石は死を司る神ね、白龍城の堅固な対神物結界も破るのは時間の問題だわ」


友梨は歪んだ笑みを顔全体で浮かべ、獣達の活躍を見ている。


一方城の中では友梨の目的に気づくものも現れ始める。

真っ先に気付いたのは幸村だった。

意志がないように見えた獣達の攻撃、しかし彼等は執拗にバラバラに同じ箇所を攻撃し続けていた。

それは、城の塀に5つ設置されている龍の紋章。これは城を守護するべく神の力を込めた結界の為の紋章。

一つ二つ破壊されてもその効果は変わらないが、獣達は5つ全てに攻撃を当てている。

幸村のその動きの正確さに目を付けていたのだ。


「陛下、このままでは結界が破られます!

獣達には恐らく術者がいるはずです、それを探し倒すべきです!」


「しかし、それではそのものに危険が及びます。見なさい、獣達が触れたものは皆死に絶えているのですよ?」


「それは承知しております、しかし」


術者を倒すべきと主張する幸村、しかしこの意見に大きく反論するものも。


「宰相殿、それではリスクが高すぎる。ここは奴らの力が弱まるのを待つべきでは?

あれだけの力そうは長続きしますまい、そうなれば我ら神繰者が総力を上げ奴らを始末しましょう」


「神繰者神官長政殿、それこそどこにそんな保証がある?」


「私は神の力を使う者ですよ?」


幸村と長政の睨み合いが続く。


「幸村様、東の結界が破られました!!」


「陛下一刻の猶予もありません!!結界が破られれば終わりです!!」


瑠璃は苦汁の決断を迫られていた。




「……騒がしいな……」


白龍城のどこかで監禁されているアオイ。

城の中のあわただしい様子や、外での尋常ならざる気配を感じて、無駄な力を使わぬよう眠っていたのだが目を覚ます。


「……まだ僕は城の中にいるようだな……」


鎖で縛られた手足を確認する。


「……朔夜様はまだ無事なようだ……ならば……」


アオイの体全体から蒼いオーラが立ち上がる。


「月の夜は僕の時間だ、多少力は戻ってる!!」


体を拘束していた鎖を一気に引きちぎった。

しかしもともと力を失っていた体、多少力が戻ったとは言っても、一気に力を使い果たしてしまう。


「早く朔夜様に伝えないと……敵はあいつだと……」


フラフラになりながらも扉へ向かう。

扉の取っ手に手をかけようとしたとき、扉が開く。

アオイは咄嗟に後方へと飛び退いた。

開いた扉、アオイが監禁されていた部屋に光が差し込む。

光の向こうには、何かが立っている。人のようだが。


「流石、上級神様は違うねぇ……契約者から長い時間離れていてもそれだけの力を出すんだからな」


「お前は……!?」


「忘れた訳じゃ無いだろ?お前の主に異空間へ送られたんだからな!!」


そこにいたのは、前に琥珀を誘拐し朔夜によって異空間へ封じられた男、ガトウ。


「馬鹿な?あの空間から戻ってこれるはずが……!?」


「あれはお前の力のようだな……辛かったぜ?何も無い空間をさまよってたんだからな……

ある時見つけたんだよ、異空間に同じようにさまよっていた神を」


「……神だと?」


「こいつさ、巨門て名前らしいがな、こいつは空間の結界すら死滅させられたんだよ。だから俺も戻ってこれた」


それは青白い光を放つ虎の姿をしている。


「現人神に言われた通り前の神は屑神だったが……こいつは違うぞ?」


巨門がその鋭い牙を剥き出しアオイへと飛びかかった。




朔夜達は不二を降り、麓に止めていた馬車へと乗り換え白龍城を目指していた。朔夜達は都で大変な事態が起きていることなど知る由もなく、急ぐわけでもなく馬車を走らせている。

ただ朔夜には一つ気掛かりなことがあり、キスミは見つかったのだが、アオイがまだ見つからずにいる。


「朔夜元気ないよ?」


「そう?あんたこそ平気なの?」


「友梨のこと?なにか理由があるのよ」


「琥珀は強いね」


二人が会話をしていると、馬車のスピードが早くなる。都に起きている異変に気付いたからだ。

急な加速で前のめりになる二人。


「謙信、どうしたの!?」


「都が燃えてる!?」


遠目に白龍城が見える位置、夜の闇に赤く燃える炎の光が視界に飛び込んできたのだ。


「姫様、しっかりつかまっていてください!!」


元就は更に馬車のスピードを加速した。






正宗と忠勝は城の付近まで忍び込むことは出来たのだが、それ以上城に近づくことができないでいた。

それは数分前に一匹の犬が青白い鷹につつかれた際、一瞬で絶命してしまったのを目の当たりにしてしまったからである。草木も動物も触れると死ぬ。そんな相手に守護神すら持たぬ二人には、荷の重い相手だった。


「……なんてこった……」


「正宗殿、私は聞いたことがあります」


「何だよいきなり……?」


「7体の分身を持つ死を司る神の神話を」


「死を司る?」


「その神は7体の分身を持ち全てを死に至らしめる力を持つ神、北斗七星神」


「なる程……詳しいじゃねぇか、詳しいついでに城の隠し通路は何処にあるか知ってるか?」

「……確か、南側の堀の中に」


「だったな……さみぃのに……」


ぶつくさと文句を言い続ける正宗を呆れ顔で引っ張っていく忠勝だった。




獣達を操り結界を破壊してゆく友梨。

他の結界を破るのも時間の問題である。

城の中で幸村達がもめている間に。

「陛下、西と南の結界も破られました!!」


場内が一気にどよめく。もはや一刻の猶予も無い状態となっていた。


「陛下、このままでは死ぬのを待つだけです、どうか!!」


「お待ちください陛下、ここは護りに徹するべきです!!」


攻めるべきと主張する幸村に対して、あくまでも籠城戦をと主張する長政。

そして遂に瑠璃が決断を下した。


「幸村、ただちに神官兵を集めて契約者を探し出しなさい!!

長政は幸村の援護を頼みます」


長政はこの決断に奥歯をギリギリ噛み締めた。

一方幸村、彼は俺を信じろと瑠璃に訴えていた。言葉に出さずとも、女王と家臣ではあっても夫婦の間柄。その思いは瑠璃に届いていたのだ。

すぐさま対神戦用の軍団神官兵を手配し、残された結界の一つ正門の結界へと向かった。

幸村の援護を任された長政。彼は一人城の地下階段をぶつくさと言いながら駆け下りていた。


「くそ幸村め、これでは計画が台無しになる!!

奴が戻る前に、現人神の守護神だけでもなんとかせねば……」




堀の地下通路を抜け、城の内部へと入ることのできた正宗と忠勝。

二人はすぐさま瑠璃の元へ急ごうと、階段へ向かう。その途中。

ドゴン!!

何かがたたきつけられる音が響き渡る。


「なんの音だ!?」


正宗は音の方へとすぐに向かった。


その音が発生した場所では、青白い虎巨門がアオイを襲っていた。

力を失っているアオイでは為すすべが無く、壁に叩きつけられてしまっている。


「流石は上級神だな!通常ならば触れられただけで死滅するこいつの能力、耐えているとはいえいつまで持つかな!?」


このままではガトウの言う通り、そのうち死ぬことになる。

かといって今の力では巨門は倒せない……

今の力では……


「何を考えているかは知らんが、そのまま消えてしまえ!!」


やむを得ない、アオイはある行動を起こそうとした。しかし。


「何をしているガトウ!!その神を殺すな!!」


「長政!?」


そこに現れたのは長政。幸村の援護をするはずの彼がここに現れた。


「なぁに殺しはしないさ」


「こいつほどの上級神は滅多にいない、必ず私達の力にせねば……」

長政はアオイの髪をつかみ、頭を無理矢理あげる。


「だが、そのためには多少傷つけても構うまい」


アオイは長政の手を払いのけるが。


「ガトウ、コイツは神だ多少手足がなくなろうと死にはしない!!

服従しないのならば体に教えてやれ!!」


「何だよ、結局そうするのかよ」


満面の笑みを浮かべ、巨門を操る。

アオイもこれまでかと両目を閉じた。

しかし、いつまでたっても巨門の攻撃がアオイには届いてこない。おかしいとそっと目を開けてみる。


「神には違いないんだろうが、見た目は子供なんだ……ちったぁ手加減してやれよな?」


「貴様!!」


アオイの目の前には、巨門の鋭い爪を刀で受け止めた男がいた。


「何であんたがこんな地下牢に用があるんだ?

城の外は異常事態なんだぜ?」


「正宗……邪魔をするか!?」


「そうだな、嫌いなんだよあんた」


ガトウは一度巨門を手元へ戻す。


「長政さん、どうするんだ?」


「心配はいらんさ」


長政は何かを見つけ笑みを浮かべる。それがわからない正宗は、刀を長政に向けた。

その直後、首もとに冷たい感触が。

目を動かしそれを見る、首もとには刀の切っ先が当てられていた。


「……なるほどな……やけに大人しいと思っていたぜ……」


後ろを振り返るまでもなく、その人物が誰か正宗は確信していた。


「なあ忠勝?」


「動くな、私はあなたを斬りたくはない」


ボロボロのアオイはこのままでは自分どころか、この人まで危ないことを感じる。

絶体絶命の中アオイは一つの行動を取った。


「忠勝!正宗を殺せ、知られた以上計画の邪魔だ!!」


「だってよ?震えてないでさっさとやったらどうだ?」


殺したくないという忠勝の発言は真実なのか、その瞳には迷いが生じている。

刀の切っ先は震え、顔も青い。


「……滅びぬ国を作るためだ……許せ!!」


首もとの刃を一旦離し振り上げる。

正宗はその一瞬を待っていた。刃が離れた瞬間忠勝に体当たりを喰らわせる。


「ぐっ!!」


「甘いぜ、一度突きつけた刃は離さないことだな!!」


忠勝に追撃を与えようとしたとき。


「グオォォウ!!」


突然巨門が激しいうなり声を上げた。

それは何かに警戒するようなうなりにも聞こえる。

巨門の視線の先には、ボロボロのアオイの姿が。神繰者であるガトウ、長政、そして正宗にもその姿が異常なものだとすぐに警戒する。

アオイからは信じられないほどの力が集まり始めていた。





一方都を目指し馬車を走らせている琥珀達。

都の異常事態の正体は解らないが、一刻も早くたどり着くため馬を走らせている。

ある時朔夜が異変に気付いた。


「アオイ!?」


都から感じる信じられないほどに増幅されたアオイの神力。

それが何を意味するか朔夜にはすぐに理解できた。


「謙信!!早く都へ!!」


気持ちが焦る。


まさかアオイ……強制的に『イミナ』を……?


心の中でその意味を呟く。


アオイ、早まらないで私がすぐに行くから!!

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