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闇の中の光の女神

青白い熊を追いかけていた謙信達だったが、熊は途中で忽然と姿を消していた。

三人が戻ってくるとそこには、琥珀と朔夜、そして友梨の姿はない。そこにいるのは元就の姿だけだった。

謙信達は懸命に消えた三人を探す、しばらくして考えたくない結論に至ることになる。

崖からの転落。

この崖は高い。ここから転落すれば命など無いだろう。


「謙信行くぞ着いてこい!」


「はい!!」


正宗は謙信を連れ崖下へと探索に向かうつもりだったが、普段口を開かない忠勝がその沈黙を破る。


「もしも、姫様を崖から落としたものが現人神だとしたら?

あの熊も彼女の使役する神かもしれん」


謙信の顔が凍りつく。

忠勝の言葉も的を得手はいる。


「確かに、もしそうならお前達に行かせるのは危険かもしれんな」


「元就!姫様を見捨てるつもりか!?」


「そう熱くなるな、私が一人で行く」


「何?」


「お前達は先に城に帰るんだ、城が襲われんともかぎらん。

帰って神繰者の長政に伝えておけ」


正宗、謙信、忠勝の三人は城へと戻り、元就は一人琥珀救出へと向かった。






一方崖下へと転落した朔夜と琥珀。

二人は何とか生存していた。落下する際、朔夜がとっさに辺りの草木の神の力を借り、落下の衝撃を和らげていたのだ。

しかし、完全には衝撃を吸収させたわけではなく、朔夜はその衝撃で意識を失っていた。


「う……」


琥珀の目が覚める。意識を取り戻した琥珀はまず、側に朔夜がいることを確認する。


「朔夜!?朔夜!?」


懸命に呼びかけるが、朔夜からの返事はない。


「どうしょう……」


琥珀は今自分がいる場所を知ろうと周りを見るが。

辺りは闇に包まれ手の先を見るのがやっとな程度しか視界がない。

自分がどこにいるのかもわからず、朔夜も気を失っている。何をしていいのかすらわからず、琥珀の眼には涙すら浮かんでいた。


「元就ぃ!!忠勝ぅ!!」


護衛の名を叫ぶが、声も闇の中に飲み込まれやがて消える。


「朔夜ぁ起きてよ!!」


朔夜の体を揺すってみるが、起きる気配はなかった。


「お母様……お父様……」


琥珀の頬を伝う大粒の涙。暗闇という状況と孤独が彼女の精神を蝕み始めていた。

琥珀はもはや泣くしかなかった。


『泣かないで……私はここにいるよ……』


「誰!?……朔夜?」


違う、朔夜は寝たままである。しかもこの声は耳に聞こえてくるわけではなく、頭に直接響いているように聞こえてくる。


「誰?どこにいるの!?」


優しく暖かな声、まるで母の声を聞いているように心が落ち着いてゆくのがわかった。

今の状況で頼るものがいない琥珀は、ふらふらと声に導かれるように歩き出していた。







光の矢に肩を打ち抜かれ、貪狼の牙によって腹部を損傷し崖下へと転落したミアカ。彼女はボロボロになった体を引きずり、朔夜の元へと急いでいた。

契約者である朔夜と離れてしまったため、その力はどんどん失われて行っている。ミアカ自身立っていることもままならない状態だった。

微弱な朔夜の気配を頼りに、闇の中を進んでゆく。

ガシャン。ミアカの耳に甲冑の鉄の音が響く。

護衛に着いてきていた謙信達の誰かだろうと音のしたほうへと進む。それはすぐに見つけることが出来た、何も見えない夜の山でそれだけが青白い光を放っていたからだ。また、その光や感じる力は先ほどの貪狼に似ている。

ぼやけていた光がはっきりと見える位置にまで近づいてゆく。

それの正体がはっきりと見えると、その姿にミアカの背筋がぞっとする。その姿はまるで甲冑を着て練り歩く人間の武将そのもの、ただ人間と違いそれには生気が感じられない。顔にはマスクをかぶっているので素顔は見えないが、そこに生きた人間はいなかった。

歩く足元、腕が触れた木々が次々と枯れてゆく。


「……これは……?」


その異様な光景にミアカも息をのむ。

鎧武者は何かを探すようにさまよっているように見えた、ミアカはそれが朔夜を探しているのだと確信していた。


「朔夜様に危害は与えさせませんわ」


ミアカはボロボロになった体を押して、鎧武者の前に姿を現した。






琥珀は声の主を探していた。地面の石をひっくり返し、土を掘ってみたりもした、だが声の主の姿はなく、気がつくと朔夜ともはぐれてしまっていた。

いつの間にか声も聞こえてはおらず、幻聴だったのかと諦めさえ見せていた。

一人になった琥珀、彼女の頭によぎるのは……


「……お母様……お父様……」


両親の顔。

女王としての業務のため、母親として接することができなかった瑠璃。

父親でありながら、身分の違いから父親として接することができなかった幸村。

その二人の喜んでいる顔が琥珀の脳裏に浮かんでいた。

二人は身分の違いから業務の時に顔を合わせるしかない。その時の表情は女王と臣下でしかない。琥珀は思い出す。何時のことだったか?

あれは何歳かの誕生日……、二人が揃って祝ってくれたことがあった。

その時の笑顔をもう一度見たい……そう心から願った……


『あんたが作ってあげれば良いじゃない』


「……朔夜?」


琥珀の心に響く朔夜の声、すると琥珀の頬を一筋の涙がつたう。涙は一滴の雫となって足下へと落ちてゆき、はじける。

次の瞬間、眩い光が琥珀を包み込んだ。

琥珀があまりのまばゆさに目を閉じる、そっと目を開けると。


「……明るい!?」


琥珀は自分が洞窟の中にいることに初めて気づいた。朔夜もすぐそばにいる。

何が起きたのか理解できていない琥珀。

けれど再びあの声が聞こえてくる。


『私はここにいます、もう……あなたには見えるはずですよ?』


一度は幻聴かと諦めていた声。その声の主を探す。


「……あ……」


今度は探すまでもなく、その姿をとらえることができた。

目の前に、光り輝くドレスをまとった美しい女神の姿がそこにあった。


「……闇の中の光の女神……か……、痛た……」


「朔夜、目が覚めたの?」


「あちこち痛いけどね」


『はじめまして朔夜様』


「こちらこそ女神様……琥珀この女神様と契約する?

闇を照らす光……あんたにぴったりじゃない?」


「うん、私もお願いするわ……女神様、私の守護神になって!?」


優しげな女神の顔から笑みがあふれる。


「決まりね」


朔夜は琥珀の額と女神の額に手をかざす。

女神が目を閉じると、琥珀もつられて目を閉じる。

次に、朔夜が呪文のような言葉を呟く。

「我現人神において命ずる、汝琥珀と共に歩まんことを……」


朔夜の手が光る、ゆっくりとその手を離すと琥珀と女神の額には同じ印が輝きそして消えた。


「……終わり?」


「まだ後一つ大切なことがあるわよ?」


「まだあるの?」


「当然」


朔夜が女神を見ると、女神もにっこりと笑い頷いた。


「あんたがこの女神様に名前を付けるのよ」


「……名前?」


「そう、それがあんたの守護神である証になる、大切なことよ」


名前。琥珀は今まで生きてきた中で恐らく、何かに名前を付けたことなど無い。


「朔夜ぁ、なんて名前が良いかなぁ?」


「あんたが思うように付けたらいいわよ。

一生懸命考えて付けた名前なら、彼女も文句は言わないわよ」

「……わかった」


琥珀はしばらく考えていた。一つの名前が浮かび上がってはやめ、浮かび上がってはやめを繰り返す。可愛い名前やカッコイい名前。いろんな名前をしばらく考えていた、どれくらいの時間考えていたのだろうか?琥珀はついに名前を決めた。


「一度名前を決めたら変更は効かないから、そのつもりでね」


「わかってるわ」

琥珀は緊張する声で女神に名前を付ける。


「あなたの名前は……」


女神も優しい眼差しでそれを待つ。


「あなたの名前は、煌めく女神……だから、『キラ』よ!

……駄目かな?」


恐る恐る朔夜の顔を伺う。


「彼女に聞いてみたら?」


「どうかな?」


女神……いやキラの顔はより一層輝きを増し、微笑んだ。


『素敵な名前ですね琥珀』


「本当!?」


琥珀の顔から笑みがこぼれた、念願の守護神を手に入れたからだ。


「これで契約終了よ」


「うん、ありがとう朔夜」


朔夜はにっこりと笑った後、上を見上げた。

キラの光によって朔夜は自分が穴に落ちていることに気がついていた。

そこから脱出するためには、壁を登り落ちてきた穴から出るのが一番の近道である。


「ねぇキラ、ここは他に出口無いの?」


「あることはありますが、かなりの時間が掛かります」


「じゃあ、この壁を登る方が早そうね」


壁の岩や土に手をかざしてみる。


「やっぱりここの神は微弱ね……力を借りるのは無理か……」


「元就達を待った方が良いんじゃない?キラの光もあるからきっと気づくわよ?」


「多分ね、でもミアカには時間が無いからいってあげないと」


朔夜は感覚で気付いていた、ミアカがあの後深手を負っていたことを。


「……さ……朔夜……様」


その時、腕の飾りからキスミの声が聞こえてきた。


「キスミ!?平気?」


「そんなことよりも……今は外に出てはいけません……」


「……どうして?」


「もうじきここへ死がやってきます」


答えたのはキラだった。


「朔夜様がここへいらっしゃったすぐ後に、得体の知れない気配が突如現れました。

その気配からは死の香りが漂っております」


「……なによそれ?」


「何かはわかりません、ただ朔夜様を探しております」


朔夜はキスミとキラの様子からそれがただ事ではないことは感じていたが。


「だったら余計にミアカを放ってはおけないわ!」


「朔夜様……」


この時誰も気付くことはなかった、草木をことごとく死滅させたそれは、穴からこもれでる光すらも、死に至らしめていたことを。

穴の外に漏れている光は、あるものによって死んでいた。そこにいたものは、ミアカが立ち向かった鎧武者。

そして、鎧武者の手の中には今にも朽ち果てそうなミアカの姿があった。

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