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ヤマト

人類は蒸気船の開発により、その移動範囲、移動速度を驚異的に延ばすことに成功する。

朔夜が船に乗った港スルガから、通常の海路で武蔵までは5日程度の時間を要していたが、蒸気船はわずか三時間という。この船により、貿易が更に盛んになり国はより豊かになっている。

また、ヤマトに住む人々は海の向こうを知ることは無かった。

しかし、蒸気船の開発、実用に伴い、海の向こうにも世界が国が存在することが確認されたと言うが、それを朔夜が知るのはまだしばらく後のことである。




朔夜は生まれて初めての船旅ではあったが、特に船酔いすることもなく部屋に座っていた。

むしろ船酔いしているのは、何度も船に乗っているはずの謙信の方で、出航してまだ一時間程度ではあるが、もう三回ほどトイレに駆け込んでいる。蒸気船から見える景色の動くスピードは速く、陸上での馬車など比べものにもならない。

朔夜は狭い部屋の中で特にすることはなく、ただぼんやりと移動してゆく景色を楽しんでいた。


「良く平気だね朔夜さん……」


青い顔で明らかに平気ではない様子の謙信。


「あんたこそ大丈夫?病気?」


「あれは船酔いですわ」


「ははは、少しは楽になったよ……

ところでさ」


「何?」


「さっき言ってた神様って?」


謙信は先ほどの朔夜の台詞に引っかかっていた。神を信仰する宗教はある、この世界が神の恩恵で成り立っていることも知っている。

だが、誰もが神の存在を知っているわけではない。謙信も神とは抽象的な存在だと信じていた。

しかし、彼は目の前で神の存在を確認していた。現人神に仕える人間の子供の姿をした神。

それは本当に神なのか?謙信はそれが知りたかった。


「ミアカ達のこと?

何の神様とか真の名前は教えられないけどね、あんたは気付いたことはないかもしれないけど、神様はどんなものにでも存在しているよ?

例えば、あんたのその刀のなかにもね」


「これ安物だよ?」


「そんなことは関係ないわよ、大事にしてあげればきっとその刀の神様も答えてくれる」


謙信はしばらく自分の刀を眺めていた。

この中にも神様がいる、だとしたら少なくても、この刀に認められるくらいには頑張ろうと、心に誓うのだった。






蒸気船がしばらく走り続けると、朔夜の船室の窓からでも確認できる巨大な建造物が見えてくる。外見こそ和風の城の様ではあるが、その巨大さは比べ物にならないほど巨大である。

また、この海域には無数の蒸気船が行き来をしているのがわかる。

流石に国の都ということもあり、貿易も盛んに行われてくる。


「朔夜さん、あれがヤマトの国王が住んでらっしゃる、白龍城だよ」


白龍の名の通り、白く輝く美しさを持っている。王家の権威や威厳をそのまま現したかのような、城だった。

コンコンと部屋をノックの音が響く。ドアを開き、中に入ってきたのは女将軍。


「もうじき港に着きますので準備の方をお願いいたします」


女将軍は再びその場を後にした。

言われたとおりに荷物の準備を始める朔夜、しかし。

キィィィン……

激しい耳鳴りが彼女を襲う。


「朔夜様!?」


耳飾りが赤く光る。

朔夜の耳鳴りはしばしばあることらしいが、それが起こるときはたいてい、敵意を示した何かがいるときに起こる。

朔夜は蒸気船に乗る前に話をした土地神の言葉をふと思い出す。


『都には不穏な気配が』


その正体が何なのかは分からないが、妙な胸騒ぎを覚えていた。




準備が終わる頃船は港へと着岸する。

周りには軍艦しかなく、軍の港のようである。

女将軍に促されるままに、タラップを降り港へと進むと、そこには先日朔夜の元にやってきていた、左将軍と名乗った元就が朔夜達を出迎えていた。

先日とは違い、神妙な面持ちの元就、彼は急に片膝をつき、手のひらを目の前で組む。


「長旅、お疲れさまでございます……

……陛下」


陛下とは恐らくは、このヤマトの王のことだろう。

しかし、どこにそんな人物がいるのだろうか?

朔夜がキョロキョロと周りを探している。

しばらくすると、周りの人々全てが臣下の礼をとっていることに気づいた。

今立ち上がっているのは、朔夜ともう一人……

その人物は探すまでもなく、朔夜の隣にいる。


「ご苦労様元就、皆も頭を上げなさい」


それは、朔夜を迎えに来てここまで彼女を連れてきた、女将軍だった。


「……あなた、王様だったの?」


「そう言えばまだ名前も名乗ってはいませんでしたね、私はヤマト国第24代国王、螢王、瑠璃と申します」


左将軍と名乗った元就よりも気品が溢れているとは思っていた、しかし国王とは思いもしていなかった。


「黙ってるなんて人が悪いよ?」


「ただ忘れていただけですよ」


瑠璃の告白からすぐに馬車に乗り換え白龍城へと向かうことになった。

向かう途中、城下町の大通りを通行してゆく。

朔夜がいた周辺の街とは比べものにならないほどに、巨大な町並みが並ぶ。

大通りを歩く人の数も桁違いに多く、活気も凄い。キィィィン……

また耳鳴りが朔夜を襲う。船で感じたものよりも強い耳鳴りを。

再び街に目をやると、どこか恐怖に支配されているようにも見えた。

視線を別の場所に移す、そこには多くはないが、人が集まっている、集まっている人の視線の先には横たわる子供の姿があった。馬車からの遠目でもわかる、子供の顔に精気はなく既に事切れていることが。

「……またですか」という瑠璃の言葉。何かがこの都で起きていることは想像がついた。


「キスミ、アオイ」


朔夜は瑠璃に気付かれないように、二人に話しかける。キスミ達もそれに答える。


「どうしました?」


「少しこの街の情報集めてくれないかな?」


「今の子供のことだよね?」


「ええ、港での土地神の言葉も気になるし」


「わかりました、ミアカだけでも大丈夫とは思いますが、その間お気をつけて」


「朔夜様は私が護りますので、二人こそ気を付けてくださいな」


「任せたよミアカ」


蒼い光と黄色の光は瑠璃に気付かれないように、そっと馬車の隙間をくぐり抜け、町の中へと消えていった。

二つの光は、路地へと入り人気の無い場所で動きを止める。

アオイ達はその場所で人の姿へと姿を変える。

二人は更に二手に分かれ、町の中へと消えていく。

キスミはそのまま大通りへ、アオイは裏通りへと向かう。

子供の姿で走る二人を追う陰がある。一つはキスミを追い大通りへ。

もう一つはアオイを追いかけていた。二人には気付かれないようにギリギリの距離を取りつつ尾行してゆく、アオイが十字路を曲がる、陰も続けて曲がる。……しかし。


「やあ、早速来るとは思わなかったよ」


アオイは陰の尾行に気づいていた、だから十字路を曲がり待ち伏せていたわけだ。


「ちょっと君には話を聞きたいんだよ、覚悟してもらうよ」


グニィィ……

陰の形が変わる、球状の形をしていたが何かの姿に変形してゆく。


「……こいつは!?」






その頃、朔夜は白龍城の正門に到着していた。

門と言っても想像が出来ないほど巨大な門、昔朔夜が本で見た巨人よりも大きな門がそこにそびえ立っている。

瑠璃が門の前に立ち、目の前にある家紋だろうか?紋章に手をかざす。すると、巨大な門はその大きさには似合わず、音も立てずに開門されていった。中にはいると、左右に整列され統一された甲冑を着込んだ兵士達。各々刀を握った手を胸の前に掲げている。

その兵士達を抜けると、目の前には拝礼をする集団が、彼らは兵士とは違い甲冑を着ていない。

変わりに身につけている服は、武士が着る袴を着用している。

彼らはこの国の文官のようだ。

文官のうち一人が立ち上がる。彼は他の文官よりも、威厳があるようにも見える。


「お帰りなさいませ陛下」


「かしこまらくても、私は2日程城を開けただけですよ?」


「いえ、それは国にとっては一大事です」


真面目な人だなと朔夜は思った。


「朔夜様、こちらがわが国の宰相で夫の幸村です」


「お見知りおきを」

意外に若い夫婦だと朔夜は思うが、王族などそんなものなのかと納得していた。


「朔夜様、私は着替えて参りますので、部屋でお待ちください幸村に案内させますので」


瑠璃はその後数人の侍女と共に奥へと消えた。


「朔夜様こちらへ」


幸村に促され朔夜も移動を始めた。

城の内部は想像以上に広く、誰か案内がいなければすぐに迷子になってしまうだろう。

通路の両脇には高そうな壺や絵画などが飾られている。誰かの趣味なんだろうかと考えながら進んでいた。

また、大理石の通路や板張りの通路をいくつも通り、ある部屋へと案内された。

そこは和風の茶室のようで畳が敷き詰められている。部屋の中央には囲炉裏が設置してあり、お茶を煎れるための道具もそばに置いている。窓の外をのぞくと、豪華な日本庭園が広がっていた。


「それでは、陛下がこられるまでゆっくりと」


一人部屋に残された朔夜、どこで見られているかわからないからとミアカと話をする事もできないでいる。

朔夜が今行る場所は城の後宮と呼ばれる場所で、幸村のような例外を除いて男が立ち入ることができない、謙信も中にはいることができず、ミアカこそ側に行るのだが今は朔夜一人になっていた。

一人で待つのは暇なようで、どう時間をつぶしていいのかわからずに、畳に寝そべっていると。

スゥーっと襖が静かに開いた。

朔夜はそれに気付くと慌てて起き上がる。


「クス、どうぞおきになさらずに」


そこには甲冑から着替えた瑠璃の姿があった。


「……綺麗……」


思わず朔夜の口から言葉が漏れる。

瑠璃は先ほどの甲冑とは違い、色とりどりの十二単を身にまとっている。顔には薄く化粧がしてあり、頭には美しい髪飾りを付けている。

しかし、一つ不思議なことに気付く。


「……髪が長い?」


甲冑を身に付けていたときは瑠璃の髪は肩に掛かる程度しか延びてはいなかった、しかし目の前にいる彼女の髪は腰のあたりまで真っ直ぐに延びていたのだ。


「ああこれは、私の守護神様が美の女神でして、この程度なら自在みたいですね」


「守護神?」


朔夜はミアカ達から聞いたことがあった、瑠璃のように神の存在を知る人間の中には、神と契約し守護神として神を身につけることができるという。

それをするためには、厳しい条件があるらしいのだが、現人神である朔夜は無条件に契約を結ぶことができる。もちろんその力にも制約が掛かるため、今回のように髪をのばす程度の力しかないのだ。


「じゃあ、私をここに呼んだ理由を……の前に、私はあんたとここまでくるまでに、蒸気船やここに着いてから色々見させてもらったわ、所々に神の力が使われている……神縛者に神を捕らえさせ、神繰者に操らせているわね?」


瑠璃は静かに目を閉じる。


「……はい」


「多少は仕方がないとは思う……けど、もしもあんた達の頼みがそういうことなら、どんな手を使ってでも拒否をする」


今までに無いほど怒りを露わにする朔夜。

彼女にとって神は身近な存在、その神を道具のように扱われるのが許せないのだろう。


「心配しなくともそんな頼みをする事はありません、私がお願いしたいのは別にあります」


「別?」


「まずは先日、娘を助けていただきありがとうございます」


「だから、それは人違いよ」


「クス……まあ良いでしょう……

そこであなたに頼みたいこととは娘のことです」

「……?勉強教えろとか?」


「また、娘に何かあるといけません、ですから娘の守護神様を探してはもらえないでしょうか?」


守護神を身に付けると、ある程度の悪しき意志から身を守ることができるようになる。

また、瑠璃の美の女神のように、少しではあるが、神の力も使えるようになる。しかし、それは同時に神の自由を奪う行為にもなる。


「……見つけた神が了承したらね、無理矢理はしないわよ?」


「それで結構です」


「……後さ、私を自由にして」


「あなたの望むままに」


しばらくして朔夜の監視が解かれ、それを確認すると業務があるからと瑠璃は部屋を出ようとし。


「ああそうだ、朔夜様あなたが望なら着物と装飾品を差し上げますので身につけてください。

女の子ですので、可愛くしたいでしょう?遠慮なさらずにもうしてください、それと謙信ですがあなたが気に入っているようなので、護衛に付けておくよう言ってあるのでよろしくお願いいたします」


「どうも」


瑠璃は部屋を後にした。再び一人になる朔夜、姫が部屋を訪れると言うことなので、それまで待たなければならなかった。しばらく、横に寝そべっていると。


「朔夜様失礼いたします」


姫が来たのだろうかと、体を起こす。

静かに襖が開くと、そこには瑠璃の姿が。

いや違う、瑠璃よりも幾分年を取っているように見える。


「……やっぱりあなたの差し金か……天翔院様」


天翔院と呼ばれた女性は優しく笑う。


「こうでもしないと、動いてくれなかったでしょう?」


「前の時といい、強引なのよ」


「琥珀ちゃんが貴女のことを凄く気に入ってね、どうしてもと言うことでね」


「なんで私が現人神だと教えたの?」


「……?そのことは誰にも教えてないわよ?」

「何言ってんの?私のこと知ってるのはあなただけじゃない?」


「誓って言うわ、私は約束は破らない。貴女のことを黙っておくことが、貴女のお母様との約束よ」


天翔院が嘘をついているわけではなさそうだ、朔夜は首をひねる。


「……もしも貴女のことが知られたとなると大問題になるわね……

私の方でも調べておくから、あなたは琥珀ちゃんをお願いね」


天翔院は部屋を後にした。顔こそ瑠璃に似てはいるが性格は違うようだ、瑠璃と違いおおらかな性格をしている。

朔夜は以前彼女に助けられたことがあり、実は武蔵に来るのも初めてではない。

以前、姫を助けた際も天翔院の要請を受けてのことだった。

朔夜が現人神と知っているのはヤマト広といえ彼女だけが知る事実だった。彼女が漏らしたのではなければ、誰か朔夜の存在を知るものがいる。

そのことが後に大問題となるのだった。

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