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現人神 朔夜

辺り一面に舞い散る桜の花びら、花びらは桃色の雪のごとく積もりだし、辺りの景色の色を桃色に変えていった。

優雅に朔夜が舞うことによって、その美しさに見るものは目を奪われている。

桃色に染まる大地の下から、青々とした草や花、木々達が顔を覗かせる。それは、元就の北斗星神の力によって死滅していた植物達。

しかしよく見ると植物だけではなく、息絶え横たわっていたはずの人や動物達も起き上がってくる。


「ば、馬鹿な!?」


驚きを隠せない元就。

それもそのはず、それらは全て自らが操る北斗星神の力で死に至らしめている。

確実な死を与えているそれらが甦ることなど無いからだ。

しかし目の前では生を取り戻し甦るもの達。

そして辺り一面に漲る生気。

元就が手に持つ七星刀で木々や動物を切り裂くが、その命は奪うことが出来ない。


「馬鹿な、北斗星神は死を司る神だぞ!?その北斗星神が命を奪えないなど……!?」

「当たり前よ、コノハナサクヤヒメは生命を司る神。死にゆくものの魂を現世に呼び戻すことすら可能なの、神位が遙かに違う以上あんたの力はもう通用しない」


「そんな馬鹿なことがぁ!!」


七星刀で朔夜に切りかかるが。


「無駄よ」


朔夜の手が七星刀に優しく触れる。


「何が生命の神だ!?生命など死の神の餌にすぎん!!その力丸ごと吸い取って……」


元就が七星刀の持つ手に力を込めた瞬間、七星刀は音をたてることもなく細かな砂のように砕け宙に消えた。


「確かにコノハナサクヤヒメの力は、命を与える力。しかし、命あるものに命の力を与え続ければ、やがて許容量を超えそれは崩壊する。

認めなさい、あんたの負けよ!!」


元就の体は七星刀……北斗星神を失うと次第に元の姿へと戻ってゆく。

しかし。


「うがぁぁあ!?体が灼ける!?」


元に戻ると同時に元就は激しく苦しみ始めた、頬はこけ、手足は老婆のようにやせ細る。

数秒後朔夜の目の前には、変わり果てた元就が息も絶え絶えでそこに横たわっていた。


「朔夜さん……これは?」


戦いが終わったことを感じて謙信が近寄る。


「邪神と契約したものの末路よ」


「……助かるの元就将軍は?」


朔夜はゆっくり首を左右に振り、その後で元就の姿を見る。


「はあ……はあ……たす……たすけて……」


もはや焦点も合ってないであろう目で朔夜を見る。


「あなたの……いの……ちの……かみ……なら……」


「残念だけどあんたの魂は、邪神に握られている。コノハナサクヤヒメでもどうにもならないわ」


「そんな……私は……どうな……る?」


「さあ……少なくとも地獄よりは素敵な場所じゃない?

ほら……そろそろ迎えが来たみたいよ?」


「ヒィ!?」


元就の瞳孔が一気に開く。それはこの世の者とは思えないような形相で明らかに何かに怯えていた。


「朔夜さんこれは!?」


「邪神と契約するときは魂と契約を結ぶの、自分の魂を売る代わりに力をよこせってね。

そしてその契約が破れるか、今回のように契約者が敗れるかした場合、その魂は魔界へと引きずり込まれ、二度とこの世界で転生する事はできずに魔界の住人によって魂を弄ばれることになる」


「怖いんだね……」


「謙信も琥珀も良く見ておいてね……邪神と契約した者の末路を」



「イヤだ……イヤダァ!!」


元就は断末魔の叫びにも似た悲鳴を上げ、先に砕けた七星刀と同じように、元就の体も砂のように崩れ宙へと消えた。






元就が消えて武蔵を取り巻いていた死の力が消え去った。また、コノハナサクヤヒメの力によってある程度の死した生命、は息を吹き返すことに成功したが、以前より北斗星神によって命を奪われた物までは戻すことができなかった。

主犯の元就は死んだが、彼に賛同していた、友梨と長政は生きて瑠璃の裁きを待つことに。

もう一人の共犯だった忠勝は、瑠璃達の危機を救ったということで、降格処分だけですんでいた。そして……


「……そうですか……やはりお戻りに……」


「もう用事も済んだしね、ここは嫌いじゃないけどやっぱり居心地が悪いの」


「そうですね……望まなくとも神の力を利用しているのですからね」

朔夜は彼女がもといた、神社へと帰るために荷物を整理していた。

滞在期間は短かったようだが、それはそれで楽しめたようである。

瑠璃も残念そうな顔で、その様子を見ていた。


「……琥珀は?」


「あなたが帰ることを知ったので、部屋ですねているのでしょう」


「そっか、じゃあからかいに行ってやるかな」


「ええお願いします、あの子はあなたを姉のように慕っていますから……きっと喜びます」


朔夜は荷造りを途中でやめ、琥珀の部屋へと向かった。

後宮は以前とは違い、友梨があのような事件を起こしたことで、一時的にではあるが後宮に住むものを自宅へと帰している。

現在ここにいるものは、必要最低限の人間だけのようだ。

朔夜が少し歩いていると、後宮の中央に位置している花で囲まれた広場がある。その真ん中に。


「……天翔院……それとも翡翠って呼んであげようか?」


そこにいたのは、朔夜がここにいたときに出会った天翔院。二人は昔からの知り合いのようではあったが。


「クス……ここにいれば会えると思っていたわよ」


柔らかな笑顔を朔夜に向ける。


「やっぱり私のことばらしたの翡翠でしょ?」


「それは秘密にしておくわ。

朔夜ちゃんハーブティよ」


「ったく瑠璃さんの親のくせにまったく似てないんだから」


朔夜は文句をたらたら良いながら注がれたお茶を飲む。


「ありがとう朔夜ちゃん、あなたのおかげで瑠璃や琥珀ちゃんに幸村君……いい関係になったみたい」


「それが狙いか……」


「まあ刺激は強すぎたみたいだけどね」


「どうでもいいけど、次呼ぶときはちゃんと理由くらい教えておいてよね!!」


朔夜は飲み干したカップをテーブルに置き、その場を後にした。

天翔院はそのカップをお盆に乗せ、少し思いに耽っていた。


「明日香ちゃん……朔夜ちゃんはいい子に育ってるわよ」


小さくなる朔夜の背中を見つめてぽつりとつぶやいた。






朔夜が帰ることを知って落ち込んでいる琥珀。

せっかく出来た姉のような存在に朔夜がなっていた。


「琥珀、そんなに落ち込んでいては朔夜様も悲しみますよ?」


「わかってるわよそんなこと……でも……」


その様子を見かねてキラも慰めようとするが、琥珀の涙が止まることはなかった。

そんなとき。

コンコン、扉をたたく音そしてすぐさま。


「琥珀いる?泣いてて出てくる気がないなら、私はそのまま帰るけど?」


音の主は朔夜。

すると琥珀は急いで涙を拭った。


「な、泣いてなんかいないわよ!!

……入ってきたら?」

部屋の外の朔夜、扉の前でにっこりと笑い、戸を開けた。


「何だ泣き止んで無いじゃん……」


まだ涙を目にためていた琥珀を見てそう話す。

すると琥珀はいきなり朔夜に抱きついた。


「そんなんじゃいい女王様になれないわよ?」


「うるさい……馬鹿……」


「またいつでもあえるから……今度はあんたのお姉ちゃんでも何でもやってあげるわよ」


「……約束……だよ?」


「うん……だから泣きやみなさい……」






翌朝、朔夜は来たときのように海路を使うのではなく、いろんなものを見て帰りたいからと陸路で帰ることにした。

都の外れにある入り口まで、皆が見送りに来ている。


「本当に歩いて帰るの?」


「まあね、いい機会だしと思ってね」


「気を付けてかえってね、死んだら約束守れないのわかってるでしょ?」


「まったく生意気な妹だこと……」


「朔夜様にそっくりですわ」


「あのねぇミアカ……」


「ミアカちゃん達も元気でね!!」


「じゃあまたね」


朔夜は見送りに来ていた、正宗、忠勝、幸村、琥珀に手を振りヤマトの都武蔵を後にした。

朔夜を見送る目は涙で溢れ、朔夜の姿が見えなくなってもその手を降り続けた。

琥珀がようやく降っていた手を降ろす。


「けど良かったのでしょうか?本当に護衛がいなくても……」


「なにいってやがる幸村、護衛ならとっておきをプレゼントしてあるさ」


「ねっ」


正宗は琥珀と示し合わせたように笑顔で返事をする。


「……なるほど……」


幸村もそれに気付いたのか、軽く微笑んだ。


「さあお父様帰りましょう?」


「……そうだね琥珀」


琥珀と幸村は手をつないで、瑠璃の待つ白龍城へと帰って行った。

そして一人違う方向を見つめる正宗。


「頑張れよ」


そう言うと振り返り、琥珀の護衛に戻っていった。





街の外へ出、歩き出す朔夜。


「朔夜様、本当に大丈夫ですの?」


「そうだよ生まれて一度も旅なんかしたこともないのに」


「どこかで野垂れ死にするのがオチです」


朔夜を思ってなのか皮肉なのかわからない三人の言葉に、朔夜は笑顔で返す。


「大丈夫よ、あんた達が付いてくれてるでしょ?」


そう言われた三人は、照れたような顔で朔夜を見つめる。


「そうだよ……僕もついて行くしね」


「……えっ?」


後ろから声がする、聞き覚えのある声、朔夜は慌てて後ろを振り返った。


「……け、謙信!?」


「やあ」


謙信は笑顔で手を振っていた。


「何であんたがここに!?」


「天翔院様からの命令なんだ、君の護衛を頼むってね」


「……ったくあの人は……」


ため息混じりの息を吐く。


「赤くなってますわ」


「謙信がきて嬉しいんだね」


「可愛いですよ朔夜様」


紅くなった朔夜を三人がからかう。


「ミアカ、アオイ、キスミうるさい!!」


照れ隠しか、本気か、三人を怒鳴りつける。


「……天翔院様からの伝言、『風邪引いちゃ駄目よ』だって」


「あの人らしいわね……いい謙信?来ちゃったものはしょうがないわ、でも一つだけ条件があるわよ?」


「……条件?」


「私のこと朔夜って呼び捨てで呼んでよね、そしたら付いて来るの許してあげる」


謙信はにっこりと笑顔を浮かべ。


「……わかったよ、よろしくね朔夜」


「じゃあ行くわよ!!」







朔夜達は次の場所へと歩き始めた、この先幾多もの困難が立ちふさがるであろう、しかし朔夜は現人神。

様々な神々が彼女に手をさしのべるだろう、そして、

謙信、ミアカ、キスミ、アオイが共にいる。

この国はやおろずの神々のおわす国。


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