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天孫降臨

「……長政、あなたがなぜ?」


「この国の為なのです陛下」


「国のため?」


「この国は代々争いを好まない女王が治めてきた国です。

しかしそれでは、この先国は滅ぶ。

ヤマトの他の国々は、神の力を利用し着々と国力を増しつつある。

それは他国への侵略のため、何もしないこの国は諸国の格好の獲物なのです陛下」


顔に笑みを浮かべ嬉々として、誰かの受け売りのような話をする長政。

その言葉からは信念のようなものが伝わっては来なかった。


「長政、もしもこの国が戦争の為の力を手に入れられずに滅ぶというのならば、私はそれを受け入れます」


「愚かな……まあ見ているといいでしょう、我が国には現人神がいる。

あの力を有効利用すれば世界を支配することも可能なのです」


「あなたも覚えておきなさい、悪が栄えた試しは無いのです」


瑠璃の視線の先には朔夜の姿が、朔夜の目にはわずかばかりのあきらめの気持ちも無かった。

人質を取られ身動きが取れない朔夜。

そんな朔夜に破軍は。


「さあどうする?奴らが死んでも構わんのか?」


少しの沈黙のあと、朔夜が口を開く。


「少し考えてたんだけどさ、あんたの契約者はそこの友梨さんじゃないわよね?契約神は契約者に害することは決して出来ないからね。だから友梨さんを斬れたってことはちがうってこと。

じゃあ次はあそこの長政って奴とか、正宗、忠勝、幸村とか?

それも違う、正宗、忠勝、幸村からはあんたの死の力が感じられない。

じゃあ長政?それも違う、あの人の神力ではあんたを扱うことは到底出来ない」


「……何が言いたい?」


「後可能性がありそうなのは後ろの三人。

琥珀に謙信……そして元就あんたのね」


「……何をおっしゃるんです……?

冗談は……」


慌てて笑みを浮かべて、受け流そうとした元就。しかし。


「琥珀と謙信には私が契約させた守護神がいるの、となれば残るのはあんたしかいないじゃない?」


朔夜は元就の目を見て笑みを浮かべた。

それと同時に元就の冷や汗が止まる。

琥珀に謙信、そして天守閣にいる瑠璃達にも動揺が走る。

元就はヤマトの軍の最高位の左将軍。その彼がまさかという衝撃だった。


「……証拠はあるのですか?」


「証拠も何も、私の前で神に関することで隠し事が出来ると思ってるわけ?

証拠なら、私が証拠よ!!」


「くっくっく……」


元就から気味の悪い笑い声が聞こえてくる。


「いつから気付いていたのですか?」


うつむいたまま朔夜に問いかける。


「最初からよ、初めてあんたが私の家に来たときから怪しんでいたわよ」


「なるほど……何故?」


「あんたのその刀よ、そんな不気味な気を放つ刀を持つ人間を、そうやすやす信じるわけ無いでしょ?」


元就は顔の前に降りていた神を掻き揚げ、朔夜を見る。


「流石ですね現人神様……あなたの前では隠し事など出来ないようだ」


「元就!?」

元就はすぐそばにいた琥珀の腕を掴み、強引に引き寄せる。背中の大刀を抜き琥珀の喉元に突き付けた。


「くっ!」


慌てて刀身の無い刀を構える謙信だが。


「動くな!!少しでも動けば姫の命はないぞ!?」


「ようやく正体を表したみたいね?」


「少々計画はずれましたがね、あなたが手に入れば後はどうにでもなる」


先ほどまでの爽やかな笑みとは違い、その顔は歪んだ笑顔を浮かべている。


「へぇ……もてるものね私も」


皮肉の笑顔を浮かばせては見るが、今の状況を打開するすべが見あたらなかった。


「あなたの力は強力な軍事力になる。全ての神の力を好きに使えるのですからね、世界を支配することすら簡単だ」


「簡単に言うわね」


「簡単でしょう?所詮人間は神には適わない。その神達の神が貴女なのだから」


「なら言っておくけど、私は誰にも従わないわ、例え目の前で琥珀の首を掻き斬ろうともね」

「面白い、ではやってみせましょうか?」


大きく冷たい刃を琥珀の喉元に押し付ける。

ぷつっと紅い血液が流れた。


その状況は当然天守閣にいるもの達も見ている。心配そうに見つめる瑠璃、顔中に笑みを浮かべる長政。その長政を睨みつける幸村と正宗。

そして忠勝は自分が本当に正しいのだろうか?というような表情で下の光景を見つめていたのだ。正宗はそんな忠勝の表情を見逃さなかった。


「忠勝……お前は本当にこれでいいのか?

俺はお前が正義と忠義の塊のような奴だと思っていた……だが、今のこの状況のどこに正義と忠義が存在する!?」


「黙れ!!」


長政の非情な蹴りが正宗の腹部に入る、しかし正宗は。


「長政、あんたもかわいそうな奴だな!?元就の奴に利用されてるだけだとも知らずにな!!」


「正宗……貴様……」


長政は腰の刀を抜いた、刀を構え正宗に切っ先を向ける。


「お止めなさい長政!正宗の言う通りあなたは元就に利用されているに過ぎません」


「何を……陛下……」


「目を覚ましなさい!」


「黙れ!」


長政の手に持つ刃が方向を変え、瑠璃へと向けられた。

瑠璃はその刃をかわそうともせずに、微動だにしない。


「る……瑠璃!!」


幸村が思わず名前を叫ぶ。


「忠勝ぅ!」


正宗の叫びが響くと、忠勝は動いた。

長政の振り下ろす刀の刃を素手で握り締め止めたのだ。その手からは血が流れ落ちる。


「忠勝……何故!?」


「私にはやはり陛下は裏切れない!」


そのまま握り拳を作り上げ、長政の顔面にパンチを入れ長政を壁へと叩き付けた。長政はその衝撃で気を失いその場に倒れ込んでしまった。


「ありがとうございます忠勝」


忠勝はひざを突き頭を下げる。


「申し訳ございませんでした……この罪……我が死を持って償いいたします」


忠勝は腰の刀を抜き、自分の腹へ刀を突き刺そうとした……しかし。

ゴッ!!

激しく鈍い音が響く。

正宗が忠勝を殴り飛ばしていたのだ。


「バカやろうが……陛下申し訳ありませんが、これでこいつを勘弁していただけませんか?」


「もちろん元からそのつもりです」


「正宗殿……陛下……」


気がつくと忠勝の瞳から涙が流れていた。

長政に腹を刺されていた幸村が、その傷を押さえ瑠璃の隣へと進む。


「こちらはかたがつきましたが、元就は……」


瑠璃が下を見る。

そこには先ほどと状況は変わらないが、明らかに焦りの見える元就の姿が目に映っていた。


「上は終わったみたいね、後残るはあんただけみたいよ?」


「……もとよりあんな輩信用などしていませんよ」


強がりを見せてはいるが、その目には明らかに動揺が見える。


「さて……あんたはどうするのかしら?」


「……あなたや陛下の目の前でこの首を見せては掻ききれば、どんな後悔の顔をしてくれますかね?」


元就の刀を持つ手に力が入る。

しかしそれを見つめる朔夜の目に焦りはない。


「……やるならやりなさい元就……」


多少震える声で琥珀が元就へ話す。


「今までの一連の犯人があなたならわかるでしょう?私は命乞いなんてしないから!!」


琥珀の鋭い眼差し。

元就がその気迫に押され一瞬ひるんでしまった。


「な、ならば望み通りに……」


刀を持っている手に力を込めるが、一瞬ひるんだ隙を彼は見逃さなかった。

鋭い一閃が元就の腕を捉える。体と切り離された腕が、力無く地に落ちる。


「貴様!!新米の兵士ごときが私に何を!!」


腕を切り落としたのは謙信だった。

元就すら反応できぬほどの速さで腕を断ち、琥珀を救出したのだ。


「ナイス謙信!!」


「元就様、あなたの負けです」


気がつくと、鎧武者破軍もタケミカズチのキスミが制していた。

しかし、敗北が決まったようなものの元就だが、不適な笑みは消えないでいた。

切り落とされた腕から刀を回収すると、刀身の柄の部分に空いた穴を見せる。

その穴は北斗七星の形をしており、何かをはめるようになっていた。


「……負けんよ……国の為にここまでしたのだ……まけてたまるものか……」


朔夜とキスミは感じていた、破軍達と同じ死の力が増大していることに。


「……まずい……」


朔夜は天守閣を見上げる。


「瑠璃さんアオイを早く!!私に投げていいから!!」


「は、はい……正宗?」


「どうなっても知らんぞ?」


正宗は朔夜に言われた通り天守閣からアオイの体を投げ落とした。

「ミアカ、起きてもう回復してるはずよ!!」


「……ふぁい……」


朔夜が耳飾りにミアカを呼びかけると、ミアカは気の抜けたような返事を返す。


「アオイを一旦剣に戻すから、すぐに治して!!

その後すぐにイミナをやるわよ!!」


「は、はい!!」


「キスミ!!すぐに結界を張って、アオイが治り次第アオイにも結界を張らせるから!!」


「わかりました」


朔夜が三人に指示を出した後元就を睨む。


「何をするつもりかは知りませんが……

見せてあげましょう……北斗星神の真の力を!!」


元就が目を見開いた。青白い光がどこからともなく現れ、元就と鎧武者を囲む。その数は6つの光。

謙信がキスミが倒したはずの獣達をふと見てみると、その姿はそこには無かった。


「北斗星神は7体で一体の神!本体であるこの七星刀を破壊しない限り滅ぶことはない!!」


一方、落ちてくるアオイを懐の短刀に戻した朔夜。

キスミの時と同様に印を組む。


「ミアカやるわよ!!」


「はい、アオイの傷もすぐに!!」


「現人神朔夜の名において命ずる、我の前にその力を示せ!!」


耳飾りが赤く、短刀が青く光る。


「コノハナサクヤヒメ!!ツクヨミノミコト!!」


イミナを呼ばれるとアオイは黒い球に包まれ、ミアカは桜の花びらが作る玉に包まれた。

やがてその中から、キスミと同様に成長したかのような姿で現れた二人。白銀の神を腰まで伸ばし、漆黒の鎧を纏ったツクヨミ。

桃色の神を腰まで伸ばし、色鮮やかな衣をまとい羽衣を漂わせるコノハナサクヤヒメ。


「ハハハ!流石は上級神!!良いでしょう、北斗星神の究極たるゆえんをお見せいたしましょう!!」


元就もまた眩い光に包まれる。

眩い光の中くっきりと写り込む彼の陰。

その姿は次第に人のものではなく異形の姿へと変貌してゆく。

光が消え姿を目の当たりにすると、そこに元就の面影は微塵も感じられなかった。


「随分とイメチェンしたもんね?」


「見かけだけではありませんよ?

一体ずつでもあれだけの力を誇っていたものが、一体にまとまったのです。単純に七倍以上の力があるのですよ?」


「へぇそれはすごい」


「この都を一瞬で死に至らしめるだけの力があります、やってみせましょうか?」


「……やってみなさいよ!!」


朔夜の眼光にやや気圧される元就。しかし。


「では後悔なさらぬよう!!」


触れるものすべてを死に至らしめる、北斗星神の力。

元就はそれを全力で解放してしまった。


「瑠璃!!」


「幸村……みんな避難を!!」


「避難ってどこに!?」


その力の恐ろしさは先程の交戦で身を持って知っていた。

その力に脅威を感じ、皆慌てて逃げまどうのだったが。

力を解放したはずの元就が驚いていた。

周りを見ても、人はおろか草木すら死滅していないのである。


「……これは!?」


「君の力はもうこの空間では通用しない」


「我々が結界を張りました」


元就が上空を見上げると、そこにはアオイとキスミの姿が。


「あんた、北斗星神をどの程度の神と思っていたわけ?

タケミカズチやツクヨミと同程度と思ってた?」


「そんな馬鹿な……力を解放したんだぞ!?」


「北斗星神はせいぜい、中の上の神。

最上位の神であるこの子達に力が通用するわけ無いじゃない?

ツクヨミのアオイが張った結界の中であんたの力は封じたし、タケミカズチのキスミの力で例え力が使えても、何も壊すことはできない」


「……そんな……?」


「でもあんたに一つだけチャンスをあげるわ、一度だけ結界を解いてあげる、そのときまでに降伏すればもう何もしないわ」


そういうと朔夜は二人に結界を解かせた。

しかし、元就はその一瞬で攻撃に移る。


「このまま終わってたまるものか!!」


ものすごい早さで朔夜に切りかかる。


「朔夜様!!」


「心配はいらない、サクヤヒメがいる」


「元就、特別にあんたには見せてあげる」


朔夜は右腕で元就の刀を止めようと上げる。


「その腕ごと斬り捨ててやる!!」


しかし、その刃は朔夜に届くことなく、眩い光と共に元就は弾かれてしまった。


「普段、上級神はその力の制約と共に現世にいることができる。

現世にいるときの上級神の力はおよそ百分の一。イミナを使うことで十分力を発揮することができる。

しかし、最上位の神は違う。

更に真の力を発揮するためにあることを現人神としなければならないの」


ミアカが朔夜の頭上へと舞い上がる。


「天孫降臨、現人神が神をその体に宿すことで最上位の神は真の力を発現できる。

それを見せてあげる!!」


朔夜はイミナの時とは別の印を作り出す。


「ミアカ準備はいい!?」


「はい朔夜様」


「我コノハナサクヤヒメに命ずる、その力現人神に宿し、その奇跡の力我が前に示せ!!」


朔夜とミアカが桃色の眩い光に包まれる。


「天孫降臨!!」


桃色の光が弾け飛び、二人は桜の花びらに包まれ、花びらは吹雪のように辺りに舞い散る。


「朔夜さんの髪が?姿も?」

花びらの中から現れたのは、朔夜の三つ編みがほどけ腰まで伸びた桃色の髪の朔夜。

着ている服も、ミアカがコノハナサクヤヒメになったときの衣装に似ている。


「あれは……似てる私を助けてくれたときの朔夜に」


「さあ、見せてあげるわ神の真の力ってやつを」

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