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Side S  作者: 白蜘蛛
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02 ユウキ

誰もが立ち尽くしていた。


“ふざけてるんだ、車のところに居るよ”

誰もがそう思った。

“そうだろうか”

誰もがそう感じた。


「探そうぜ」

俺が行こうとすると、ユウキが止めた。

「1人で行くな。手分けして探そう、コースケはハルナと行け」「タカシはトモミと、オレは由紀と行く」

「どうして私がタカシと一緒なのよ、どうしてユウキは由紀と行くのよ」

トモミが頬を膨らませる。

「コースケと由紀は部外者だ。班長の俺と副班のハルナが同行するのが当然じゃないか」


「あ、あの・・・何だか大変な事になってる感じがするんだけど」

由紀は不安そうだ。

ヒロが消えた事よりも、大げさとも言える探し方に不安を煽られたようだった。

大事おおごとって訳じゃないんだ。女子を1人にするのは良くないからだよ」「由紀はここに慣れてないから俺たちは山道を駐車場まで行ってみる。コースケ達はこの山道の西側、タカシ達は東側を探してくれ」

「分かった」タカシと俺が強く答えた。


「とりあえずサキさんに連絡だけ入れとこう。あまり時間かかると心配するだろうし・・・もしかしたらヒロが戻ってるかもしれない。ヒロはサキさんにベタ惚れだからな」

“戻っているかも”“ベタ惚れ”という言葉に雰囲気が幾分明るくなった。


「あ、もしもし?ユウキです。・・・いえ、ちょっと」「ヒロって、そちらに戻ってますか?・・・あ、そうですか。いえ、あの、ヒロがいなくなったんですよ・・・テントに戻ってるかなって思って。・・・えぇ、携帯に掛けたけど出ないんですよ。・・・はい、じゃ後で連絡します」

「迷うような森じゃないだろってさ。ヒロはこの場所に何度も来てるし、沢でカニでも捕ってるんじゃないかって」

「そんな、子供じゃあるまいし」ハルナは本気で怒っているようだ。


ユウキは拾った石で切り株を叩きながら言った。

「この切り株が待ち合わせ場所だからな。まぁ、迷うような場所じゃないけど」

ユウキは切り株に石を置いて言った。「じゃ行こう」


「ヒロ~、ふざけるのもいい加減にしろよ!出て来いって!」

「ヒロく~ん、出てきて~、どこにいるの~!」

思い思いに声を上げながらヒロを探した。


普通だったら・・・こんな風に探したりしない。

仕切屋のユウキが勝手にリーダー風を吹かせてると思っただろう。

しかし、誰もがユウキの言葉に従った。


“あの声は普通じゃなかった”


*-*-*-*-*-*


俺とハルナは森の西にある沢に出た。

「沢を探すのは難儀だな」

「何か変じゃない?」

「変って何が?」

「何だか地下室に居るみたいな・・・変な事いってごめん。でも何か変なの」

俺は辺りを大きく見渡した。そして上を向いて見渡した。木々の間から差す太陽の光がリアルではなかった。

1人だったら嫌な感じだったな。ユウキを少し見直した。

「森の中だからな。道路からも遠いし、日常の音ってのから遮断されているからだろう。それだけ俺たちは騒音の中で暮らしてるって事だよ」

「うん」

ハルナの返事は違うと言っていた。違うが真実が判らないという返事だ。

沢に下りると調査ポイントの下流に出た。

この沢は隠れるほどの大きな岩も無いし、この季節は川の水がだいぶ少なくなっていて、川幅は1.5m、水深は20cmもない。

「いないな。しかし、サキさんじゃないが、ヒロがカニを捕ってるってのはいかにもありそうな感じだな」

俺はそういいながら大き目の石をひっくり返した。

この辺りはカニが多く、いくらでも見つかる。

「あれ、いないな」

その後も何個か石を動かしてみるが、1匹も見つからなかった。

おかしい。今までこんな事は無かった。それに川虫すらいないじゃないか。

「カニ捕ってる場合じゃないよ」

「え、あぁ」俺は違和感を抱えたまま答えた。

「それじゃ、戻ろうか」

「うん。でも・・・」

「大丈夫だ。帰ったらヒロが待ってて『お疲れさん』とか言うよ」

「そうだね」

歩き始めてハルナはもう一度言った。

「そうだといいね・・・」


*-*-*-*-*-*


トモミは髪をひねるように触りながら口をとがらせた。

「ねぇ、ヒロは車に行ってると思うよ。こんなところまで来ないと思うんだけど」

トモミの言葉にタカシは頷きながら、心の中では全く別の事を考えていた。

気配がまるでない。何だ、この孤立感は。

人どころか鳥も虫も、生き物の気配がまるでしなかった。生き物がいないというより時間が止まったような感じだ。すぐそばにいるのに全く動かない生き物たち。気配すら感じさせない活動の停止。生命の停止。

「ねぇ!」

「うあっ!な、なに?」

「あ~、ビビッてるぅ~」

「ビビッてなんかいないって」

「ふぅ~ん、何度も声かけたのに・・・ま、いいや。もう戻ろうよ」

「あ、あぁ、そうだな。皆も戻っているだろう」

「ヒロは?」

「大丈夫だよ、いるさ。きっといるさ」


◇*◇*◇*◇*◇


「やっぱり居ないか・・・」ユウキは呟いた。

「やっぱりって?ユウキくんはヒロくんがここに居るって思ってたんじゃないの?」

ユウキは由紀を少々面倒に感じながらも、努めて落ち着いた調子で話した。

「いや、期待と違う結果だった時につい口から出ちゃうんだよ、“やっぱり”って」

「でも、ヒロくんは?」

「分からない。この周りを探してから戻ろう」

空き地の端に寄せてサキさんのランクルとヒロのステーションワゴンが停められている。

覗き込んだユウキが声を上げた。

「あのバカ!!」

見ると、ハンドル横のドリンクホルダーに携帯が置かれている。

「これじゃ出ないはずだ」

周囲を探してみたがヒロは居なかった。

ユウキは2台ともドアを全てチェックしたが、開いているところは無かった。

不安そうな由紀に声を掛ける。

「戻ろう」


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