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Side S  作者: 白蜘蛛
12/20

12 佐々木

駐車場のヒロのステーションワゴンの隣に停められた軽トラ。

サキはメールを作成して保存し、いつでも遅れるようにした。

その後、一旦車を下げて、切り返してバックで停車させる。

シートを倒すと後部座席のザックに携帯食料を詰め込んで背負い、トレッキングスティックを握った。

ドアのレバーに指を掛けたまま目を閉じて耳を澄ます。

鳥と虫・・・よし感じる。

他には何も感じない・・・大丈夫だ。

素早く車外に出てロックすると山道へ向かう。

緊張と興奮が高まってくる。


山道の奥は薄暗く、どこまでも続く樹海の入口にも見えた。

山道に入って8分ほどで切り株に到着する。

時刻は8:30を過ぎていた。急いでユウキの携帯へ連絡する。

ユウキはすぐに出た。

「サキさん?サキさんなんですか!?」

いきなり問い詰めるような口調が聞こえた。

「遅れてごめんなさいね。こちらも不測の事態が起きて」

「何ですか!?不測の事態って!俺達、この携帯しか無いのに・・・」「待ってたんですよ!連絡をずっと!!」

「ユウキ君!事情は事情、今はそんな事言ってる時間は無いわ」

「そんな事言ったって、こっちはもうボロボロですよ!!」

サキは喉元まで出かかった“どうしたの”という言葉を飲み込んだ。

「4人揃ってる?体調不良は?」

「由紀が少し参ってます・・・でも大丈夫です」

「時間が惜しいから簡単に説明するわ。こちらからのアプローチは大人数による捜索。そして君達の自力脱出は沢越えと考えているの」

「沢越え?」

「そう、これまで君達は山道と沢で南北への脱出を試みて到達できなかった。しかし、西方向の沢までの行き来は通常の移動が出来た。つまりその延長線上に脱出経路を求めてはどうかと考えているの」

ユウキの声は震えていた。

「それって、何かの確証があるんですか?」

「無いわ」

「無い・・・って、昨日あれだけ動き回ってどうにもならなかったんですよ!」「沢越えだと道もないし、沢の向こうはきつい斜面の登りと下りが続きます。そんなところを10km以上歩かなきゃならない。女子もいるし無謀ですよ」

「東方面は?」

「東は・・・、下りだけか・・・4~5kmで県道に出れる計算だ」

ここでユウキのバッテリーが切れた。

すかさずハルナの携帯に掛けるが、電源が切れているようだ。

そこへ由紀の携帯から着信。

「すみません、もうバッテリーが合わせて20位しか無いんです」

「わかったわ」

ユウキは途切れた話を繋いだ。

「でも、これって俺達が脱出をする場合ですよね?その前に捜索はどうやって?」

「こちらからのアプローチは非常に困難な状況にあるわ」

「な、何ですか・・・ずっと待ってたんですよ。待っててくれって言われたから!山内さんがそう言ってたじゃないですか!」


「実はその山内さんが亡くなったの」

サキは携帯越しに感じたユウキの動揺とは別の気配を左手の方から感じた。

何かが居る。

「ごめん、ちょっと待ってね」

サキは携帯を切ると、先ほど打ち込んだメールを送信した。

由紀の携帯にリダイヤルするとユウキが出た。

「由紀ちゃんは大丈夫?」

またもや左手の気配が動く。サキは敏感に察知した。

危険はあるが、それ以上に時間がない。

「ちょっと由紀ちゃんに代わってくれる?」

「え?はい・・・分かりました」

「もしもし、由紀ちゃん?」


その時、左手の茂みから佐々木が姿を現した。

「サキさん・・・すみません。すみません、俺・・・」

「一体何が・・・」

突如、佐々木は突進してきた。

サキは左手のスティックを逆手に振ったが、それを避けた佐々木が体ごとサキにぶつかっていった。サキは倒れ、携帯が落ちる。佐々木は慌てて携帯を拾って耳に当てた。

「由紀さん!俺です、佐々木です」

「佐々木さん!?」

「お母さんが・・・」

突然足を払われた佐々木は転びながらも携帯は離さない。

サキは佐々木の腹部を蹴るが膝でガードされ、逆に足を掴まれる。

携帯は投げ出され、佐々木とサキは揉み合った。

さすがに腕力では佐々木が勝り、サキを押さえつける。

しかし佐々木の顔に砂が撒かれ、逃れたサキはスティックで佐々木の胸を突く。

「ぐぅっ、がはっ!」

もう一度佐々木の腹部を蹴ってから携帯を探す。

「あまりふざけないでよね」

サキの携帯は電源が切れていた。操作しても電源が入らない。

「あなたの携帯を出しなさい!」

「持ってない」

「何ですって?」

「携帯は山内さんの車に忘れてきた」

「くっ!本当にあなたって人は・・・!」

「すみません」

「一緒に来なさい!」

サキは山道を南へ引き返した。胸を押さえた佐々木が続く。


「お母さんって何なの?」

「由紀さんの母親です。元々山内家のお方なんですが・・・。孝次さんの兄だった昇一さんと恋仲になって、20年以上前に駆け落ちしたんです。当時の昇一さんには奥様がいて、駆け落ちの後はかなりもめたようです。昇一さんは山内家に戻らないし、山内家は金で示談して離婚の手続きを取りました」

何か事情があるようだが、優先順位をかなり間違えているようだ。

恐らく佐々木は今回の遭難について山内さんからほとんど説明されていないのだろう。

「あの・・・山内さんの事ですが・・・」

佐々木は苦しそうな声を出した。

「それについては聞ききません。聞いたら私の予定に狂いが出るから」

「え?」

「あなたは山内さんが死ぬ前に一緒にいたわね?間違いなく重要参考人ってわけ。でもあなたが身柄を確保されては困るの」

「なぜですか?」

「この森を探す人手が無くなるでしょう?こっちとしては、すぐに探してもらいたいの」

「よく分りません。じゃ、車で逃げるんですか?」

「いいえ、軽トラも私のランクルもあのまま放置するわ。そうすれば警察は貴方の身柄を確保するためにこの一帯を捜索してくれるだろうから」

「じゃ、どうしてこちらに向かってるんです?」

「貴方が私の携帯を壊したからじゃないの」

トモミにメールを送信してから10分が経過している。急がねばならない。


トモミの携帯に着信されたメール。

山根君ヒロの車以外に軽トラックが駐車してある。佐々木さんの可能性が非常に高い。これを警察に伝える事』

そして、最後に軽トラックのナンバーが記されていた。


トモミは水島顧問に内容を伝えると、顧問はすぐに警官にメールの内容を伝えた。

警察は勝手な事をと苦い顔をしつつ、新しい情報に色めき立った。

「その新宮という学生に連絡を取ってくれないか」

「はぁ、それが連絡がつきませんでして・・・」

水島は役に立たないユルイ教員を演じた。

「あの場所でウチの生徒が昨日から音信不通になってるんですよ」

「何を言ってるんだ。今件とは関係がないじゃないか」

「しかし、殺人事件の重要参考人が潜んでいる可能性が高い場所に女性3名を含む6人の学生が状況も知らずに居るわけですな。私はその事実を伝え、危険性を警告したと認識しております」

「・・・おい!応援を呼べ!ただしあくまで重要参考人の捜索だ」



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