俺は今日も君を想う
4作目です。
今回は書くのが苦手な部類になってしまいました。
稚拙な部分があると思いますが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
古くからこの日本では人間と妖との繋がりが根強くあった。
時には対立し、時には協力し、妖が居る生活は普通だった。
しかし、今の日本では妖は姿をくらませた。
一部の妖だけが自分が妖だとバレないように、人間に紛れて生活するようになっていた。
今の人は、妖が近くに居る事すら分からないで生活している。
そんな中、何故か俺は人間と妖の違いが分かった。
分かったところで何かある訳でもない。
危害を加えられることもないし、他の人間と同じように接していた。
ある日の休憩時間、いつものように職場近くの公園へと気分転換に来た。
天気のいい日は公園の木陰にあるベンチで過ごすごしていた。
その日は、いつものベンチに先客が居た。
綺麗な長い黒髪で、少し華奢な女性が座っていた。
俺は一人分の席を空けてベンチに座った。
ぼーっと空を見上げていると不意に女性から話しかけられた。
「良い天気ですね」
ビックリして俺は女性の方を向いた。
彼女もこちらを見ていた。
その時、俺は気づいた。
彼女は人間ではないと。
妖艶な彼女の目を見つめるのが怖くなって、すぐに視線を外した。
「そうですね。良い天気ですね」
戸惑いながらも返事をした俺を察したのか、彼女はそれ以上話さなかった。
気まずい感じになるような場面だが、少しして俺は彼女に話しかけていた。
「俺、よくここに来てるんですが初めてお会いしましたね」
「そうなんですね。私、初めて来たんです。とても良いところですね」
お互いに空を見上げながら会話する。
それは、穏やかで静かな空間だった。
「俺、妖が分かるんです。貴女も妖ですよね」
俺の唐突な問いかけに彼女は驚いていた。
「ごめんなさい。怖がらせてしまってましたか?」
「そんなことはないですよ。慣れてますから」
「そうでしたか」
俺は今まで見てきた妖とは違う彼女に、興味本位で聞いていた。
「貴女は何の妖なんですか?」
「……鬼です」
彼女は気まずそうに教えてくれた。
なるほど。今まで見てきた妖とは何か違う気はしていたが、たぶん鬼は俺も初めて会ったんだろう。
「鬼は初めて見たかもしれません。こんなにも綺麗な妖は見たことがな……あ、ごめんなさい。忘れてください」
俺は何を言っているんだ。思わず心の声が漏れてしまった。
それほど彼女は美人で可憐だった。
チラッと横目で彼女を見ると、照れているようだった。
「本当にごめんなさい。……俺、そろそろ休憩終わるんで行きますね」
「……あ、はい。」
気まずさもあって、俺はその場をそそくさと離れて会社に戻った。
次の日も公園へ行くと彼女が居た。
やっぱりちゃんと見ると、他の妖とは違う。
でも他の人は気にする様な事はなく過ごしているから、気づいてないのだろう。
興味が湧いて、俺は彼女のもとへと向かった。
「また会いましたね。」
俺が話しかけると、彼女は俺の方を見て少し驚いていた。
俺は昨日と同じように一人分の席を空けて彼女の隣に座った。
「ここが気に入りましたか?」
「はい。とても綺麗な場所で、とても落ち着きます」
「俺も、ここお気に入りなんですよね」
そう言いながら、俺は両手を上にあげて伸びをした。
「私、うつしよがこんなにも綺麗な所だなんて思っていませんでした」
「ん?ずっとこちらに居たわけでは無いのですね」
「そうなんです。やっとうつしよに来れたんです。ずっと憧れていました」
「そうだったんですね。お気に召したなら良かったです」
「他にも見てみたいもの、食べてみたいものとかあるのですが、どこから行けばいいのか、どこに行けばいいのかまだ分からなくて……」
「こちらに、お知り合いは居ないんですか?」
「あいにく……。」
「そうですか」
俺はしばらく考えて提案してみた。
「もし、良かったら俺が案内しましょうか?」
彼女はビックリして俺の方を見た。
この前は怖くて見れなかった彼女の目が、キラキラと輝いていた。
「良いのですか?ご迷惑では……?」
「大丈夫ですよ。明日、仕事休みなので少し一緒に出掛けましょうか」
彼女は嬉しそうにコクコクと頷いた。
「では、明日の11時にこの場所で良いですか?」
「はい!ありがとうございます!」
次の日、俺が公園に来ると彼女はすでに来ていた。
それを見て、急いで彼女に駆け寄った。
「お待たせしてしまってすみません。早めに来たつもりだったんですが……」
「いえ、大丈夫ですよ!楽しみすぎて早く来すぎてしまいました!」
そう言いながら彼女は恥ずかしそうに笑った。
「そうだったんですね。ありがとうございます。……では、行きましょうか」
俺がそう言うと彼女は立ち上がった。
行きましょうか。と言ったは良いが、どこに行けばいいのだろうか……。
女性の好みなんて俺には分からない。困った。
とりあえず、甘いもの……か?早めの昼食も良いかもしれない。
「お腹は空いていますか?」
隣を歩く彼女に問いかけてみる。
彼女は恥ずかしそうにコクンと頷いた。
「んー。洋食は好きですか?よく行くレストランがありまして、デザートも美味しい所なんですが」
「洋食!是非、食べてみたいです!」
彼女はキラキラとした瞳で答えた。
良かった。とりあえずの行先は決まった。
俺は行きつけのレストランに彼女を案内した。
まだ、お昼前だったこともあり、席には余裕があった。
「素敵な所ですね!」
彼女は周りを見渡しながらワクワクしているようだった。
「これがメニュー表ですよ。どんなのが好みですか?」
「……私、洋食と言うものを食べたことがなくて。お勧めとかありますか?」
俺が差し出したメニュー表をじっくり見ながら、彼女が聞いてきた。
「お勧めですか……。そうですねぇ、カルボナーラとかいかがですか?」
「カルボ……ナーラ?」
「チーズをたくさん使ったパスタですよ」
「チーズと言うものも食べたことがないので、是非食べてみたいです!」
「では、注文しますね」
俺は店員さんに自分の分と彼女の分を注文した。
彼女は料理が届くまで、ソワソワしながら他のメニューも一生懸命眺めていた。
料理が運ばれてくると俺は彼女にフォークを渡した。
彼女はじーっと眺めた後に聞いてきた。
「……。これはどうやって食べれば良いのですか?」
「そのフォークでクルクルっと麵を巻いて食べるんですよ」
そう言いながら、俺は自分の分のパスタで実践して見せた。
「凄い!器用ですね!」
「難しかったら箸使います?」
「いえ!やってみます!」
彼女はぎこちなく麺を巻いた後、口へと運んだ。
「美味しい!これ、とても美味しいです!」
「それは良かった」
夢中になって食べている彼女を見ていると、とても微笑ましくなった。
「食後のデザートにティラミスも食べますか?チーズ使ってあるケーキなんですけど……」
「それも是非食べてみたいです!」
彼女は満面の笑みで答えた。
俺は追加でティラミスとコーヒーを注文して、嬉しそうな彼女を眺めていた。
彼女はティラミスも美味しそうに食べていた。
コーヒーは少し苦手そうだったけれど、ミルクと砂糖を混ぜてあげたら驚きつつも美味しそうに飲んでいた。
食事を終えて店から出た俺たちは次に水族館へ行くことにした。
彼女は水槽の中で泳ぐ魚を興味深そうに見たり、ライトアップされたクラゲを見てうっとりとした表情をしたり、イルカにはとても驚いたりと、何もかもが彼女にとっては初めて尽くしで楽しそうだった。
こんなにも喜んでくれる彼女を見て俺も嬉しく思えた。
水族館から出ると外は日が落ちていた。
「時間、遅くなってしまってすみません。」
「いえ!とても楽しかったです!」
「……もし良かったら、また一緒に出掛けませんか?」
「良いんですか!?嬉しいです!」
満足げな彼女はとても可愛かった。
そんな彼女を、もっと、もっと、見たいと俺は思った。
その日から、俺が仕事の日は休憩時間にいつもの公園で彼女と話し、休日は一緒に出掛けるようになった。
そういう日々を過ごしながら季節は巡り、次第に俺たちは惹かれあっていた。
いつも楽しそうに笑う彼女が愛おしく、そんな彼女の隣にずっと居たいと思っていた。
ずっと、ずっと、この手を繋いでいたいと思っていた。
―――
ある日の朝、ふと窓の外を見ると彼女が何かに追われるように走っていた。
俺は家を飛び出し、彼女が向かった方へと追いかけた。
しばらく行った先の空き地で、彼女が誰かと言い争っていた。
初めて見る彼女の姿だった。
「何してるんだ!」
俺は急いで声をかけた。
俺の声に彼女と、彼女と言い争っていた二人がこっちを向いた。
「君だね。うちの娘をたぶらかしてるのは。」
「え……?」
「お父さんやめて!」
どうやら彼女と言い争っていたのは、彼女の両親らしい。
「お前は戻ろうとしないし、挙句には掟まで破ろうというのか」
「……どういうことですか?」
「我々鬼は、人間と関わらない様にうつしよにて生活をしない。人間と恋仲になるなんて禁じられていることだ」
「禁じられている……?」
父親の言葉に、彼女は悲しそうにうつむいた。
そんな……。でも、確かに今まで彼女のような妖は見たことがなかった。
「私、帰りたくない……」
「いい加減にしなさい。お前も分かっているだろう。いつまで駄々をこねるつもりなんだ」
「そうよ。貴女だって分かっているでしょ?私たちと人間とでは何もかもが違う。時間の流れも違うのだから。妖が、ましてや鬼の貴女が人間と暮らすのなんて認められないわ」
「でも……」
彼女は必死に両親に訴えかけるが、両親は頑なだった。
俺はどうしていいのか分からなくなって、ただただ立っていることしかできなかった。
彼女と会えなくなるかもしれない。
彼女と過ごせなくなるかもしれない。
彼女を失うかもしれない。
そんなの嫌だ。
俺はこれからも彼女と一緒に居たい。
「彼女を連れて行かないでください!」
俺は必死に訴えた。
「君は何もわかっていないね。この子は当主である私の娘だ。鬼の血を残さないといけない。それに、うつしよの環境は鬼にとっては毒だ。娘が死んでも良いと君は言うのかい?」
「毒……?」
「お父さん……!」
彼女は気まずそうにこちらを見る。
今まで過ごしてきた時間、彼女は自分に毒になり得る環境の中に居たってことか……?
彼女はそれをずっと隠して俺と居てくれてた……のか?
父親が言うには、鬼は古くから人間と対立してきた。その積み重ねで、こちらの世界は鬼にとっては毒になり、かくりよでの生活を余儀なくされたのだという。
それによって、こちらで生活していた彼女も弱ってきているらしい。
彼女と離れたくない。でも事情を知ってしまうと、彼女をこちらに引き留めたくもない。
彼女に辛い思いはして欲しくない。
「……かくりよへ帰るべきだ。」
俺は絞り出すように言った。本当は帰ってほしくはない。それでも、彼女が弱って死んでしまうのはもっと嫌だった。
「そんなこと言わないで……」
彼女の目から涙がこぼれ落ちる。
「私は貴方と一緒に居たい!それでこの命が尽きようとも悔いはないわ!」
「俺が嫌なんだ!……君が死んでしまうなんて耐えられない」
いつの間にか俺も泣いていた。
「彼もこう言っているんだ。さぁ帰ろう」
しばらくの沈黙の後、彼女が俺の胸に飛び込んできた。
俺はそっと彼女を抱きしめた。
「貴方の事、この世界の事、ずっとずっと忘れない」
「うん。俺も君の事ずっとずっと忘れないよ。今までそばに居てくれてありがとう」
「私こそ、たくさんの物を教えてくれてありがとう……」
俺は彼女を離したくない気持ちを押し殺して、彼女の両親に彼女を託した。
「今まで何も知らないで、心配かけて申し訳ございませんでした。彼女の事よろしくお願いします。」
「事情を分かってくれて助かるよ。君が人間じゃなかったらまた違ったんだろうね」
「娘の事を想ってくれてありがとう」
俺は涙を堪えながらお辞儀をした。
その瞬間、突風が吹き彼女たちは俺の前から居なくなっていた。
「これで良かったんだよな……?」
俺は堪えきれなくなった涙を拭いながら、家へと帰った。
俺は一生、彼女の事を忘れない。
彼女と過ごした日々を忘れない。
俺は今日も、あの公園で、彼女と話したベンチで、ずっとずっと彼女の事を想い続けている。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
彼たちの選択は正しかったのか、投稿する今でも分かりません。
難しいですね。
これからも、ゆっくりと活動していきたいと思いますので、よろしくお願い致します。




