紳士の涙
朝陽が医療棟のカーテンを通して柔らかな光を投げかける。モルアが鋭い息を吸って飛び起きる。
モルア(驚愕):「はっ!?」
彼女が周囲を見回し、場所を理解する。信じられないという顔で瞬きをし、涙が溢れる。
モルア(静かに):「……夢……だったんだ……よかった……」
近くでリシテアがタブレットをめくっていた。顔を上げ、安堵のため息をつく。
リシテア:「やっと起きたのね。あなたにしては無茶が過ぎたわよ。」
リシテアが言い終わる前に、モルアが飛びついて強く抱きつく。
モルア(声を震わせ):「みんな……失うかと思った……!」
リシテア(少し赤面):「ちょ、もー……大げさなんだから……」
ゴロンが手を揉みながらそばに立つ。ゆっくり近づき、モルアの手を優しく握る。
ゴロン:「モルアさん……ごめんなさい……ゴロン……守れなかった……」
モルアが振り向き、目がまだ潤んでいる。
モルア(優しく微笑む):「そんなこと言うな。あなたが心配してくれただけで……十分だ。」
ゴロンが恥ずかしそうに目を伏せる。
しばらくしてドアが開き、他のスレイヤーズが入ってくる。僕はベッドに座った師匠に近づく。
モルア(明るく):「アストン! 無事だったのね!」
アストン(笑顔):「それはこっちのセリフですよ、師匠。体調はどうですか?」
モルア(ニヤリ):「もうお元気さ!でも、キスしてくれれば……もっと良くなるかもね、えへ……なんちゃって〜。」
アストン(慌てて):「えっ!? だ、だめだよ師匠!それは……不適切です!」
部屋の女子たちが一斉にため息。
アイビー(頰を膨らませ):「ブー、盛り上がらないのね。」
レミア(からかう):「本当に、アストン? ロマンスポイント足りないわよ。」
モルアが僕と話すときの生き生きした表情を見て、ゴロンは苦笑する。静かに離れ、遠くのソファに座る。
しばらくして、僕も近づいて隣に座る。
アストン:「ゴロン、大丈夫?」
ゴロン(ため息):「うん……ゴロンは大丈夫……でも……ゴロンの心が……痛い……」
アストン(察して微笑む):「モルア師匠のこと、好きなんだね。」
ゴロンが息を飲む。
ゴロン(赤面):「え!? でも……ど、どうしてわかったの!?」
アストン:「僕ね、いろんなことに鈍感だけど……周りの人の気持ちは……なんとなく気づくんだ。」
ゴロン(感嘆):「アストン……すごい……ゴロンは……こういうの……全然経験ない……」
アストン(くすくす):「大丈夫だよ。あんな気持ちって……間違ってないから。」
僕は背もたれに寄りかかり、ゴロンに穏やかに微笑む。
アストン:「恋愛ってさ……無理に押し通さなくていい。自信を持って、でも押しすぎない。それが大事だよ。」
ゴロンが目を見開く。
ゴロン:「つまり……女の子は……頑張りすぎると……嫌がる……?」
アストン(頷く):「その通り。自然に気持ちを流すんだ。」
ゴロンの目が子犬のように輝く。
ゴロン:「アストン……今から……ゴロンの先生になって!!」
アストン(苦笑):「え、僕が? 資格ないと思うけど……」
その時、ドアが勢いよく開く。セトレが王子様オーラ全開で入ってくる。
セトレ:「おごきげんよう、我がレディたち〜! 偉大なるセトレ・グレッグソンが、ただいま戻りましたぞ〜!」
女子たちが一斉にうめく。
グラシア(無表情):「うわ、また来た……」
ヴァルヨネッセ:「誰かミュートして。」
セトレは盛大に拒否され、ため息をついて僕とゴロンの方へ。
突然、僕にアイデアが閃く。セトレの女の子に対する経験値を知ってるから。
アストン(ゴロンに囁き):「実は……セトレが僕よりずっと詳しいよ。あいつ、めっちゃモテるし。」
ゴロン:「ほんとに!?」
アストン(セトレに):「なあ、セトレ。ちょっと時間ある? ゴロンの……状況について、どう思う?」
ゴロンの状況を説明。セトレが立ち止まり、目を見開く。
セトレ(絶望):「何!? まさか! 我がレディたちの一人に!? 誰にも渡さん!」
アストン(急いで囁き):「しっ! 小声で。彼の初めての恋なんだよ。手伝ってくれよ?」
セトレがまた大げさにため息をつき、完璧な金髪をかき上げる。
セトレ:「フム……いいだろう!このセトレ様のような偉大な紳士には、魅力を広める義務があるんだからな!ははは!。」
ゴロン(輝く目):「本当なの!? ゴロンを……教えてくれるの!?」
セトレ(自信満々):「よく聞け!第一歩はマナーだ!第二は服装。そして第三は姿勢だ!自信! これを身につければ、女の子たちは衛星のように回り始めるぞ。」
ゴロンが熱心に頷き、弟子のように耳を傾ける。僕は静かに微笑む。
アストン(心の中で):「意外と……上手くいくかも……」
数分後、ゴロンが緊張しながら女子たちに近づく。最初に気づいたのはモルア。
モルア:「ゴロン? 何か用?」
ゴロンは無言で折り畳んだ手紙を差し出し、真っ赤になって逃げる。
アイビー:「えっ——今、モルアにラブレター渡した!?」
エリセナ(興奮):「ラブレター!? マジで!?」
レミア:「でも……あの子、字書けるのかしら……」
グラシア:「とりあえず開けてみたら?」
モルアが手紙を開き、殴り書きに目を細める。
モルア:「何……この言語?」
ヴァルヨネッセ(覗き込む):「見せて……ん……これは古代悪魔文字ね。書いてあるのは:
『愛しいなモルアさん……あなたは草原の百合のように僕の心を捕らえた……今夜、一緒にロマンチックなディナーをしよう……あなたの秘密の崇拝者より』」
モルアの頰が赤くなる。
モルア(つぶやき):「秘密の崇拝者……? まさか……アストン!? あの馬鹿弟子がやっと私の魅力に落ちたのね? へへ……」
エリセナ&ヴァルヨネッセ:「アストン!? まさか!!」
アイビー:「冗談でしょ……」
グラシア(額に手):「本当にわかってないわね……」
一方、ゴロンはセトレの元に戻り、期待の目。
ゴロン:「やったよ! セトレ先生が言った通りだ!」
セトレ(誇らしげに頷く):「当然だ!真の紳士は待たない。優雅に、タイミング良く行動するんだ。」
僕は心配そうにセトレに囁く。
アストン:「ちょっと……ペース早すぎない? 君のやり方がゴロンに合うとは……」
セトレ(ニヤリ):「心配無用だ、平民よ!これが紳士の道だ。」
僕はため息をつき、ドラマを見守る。
その夜、ゴロンはスーツ姿で現れ、髪をオールバックにし、花束を持ってレストラン入口で緊張しながら待つ。僕とセトレは近くに隠れて見守る。
女子たちがモルアを追って現れる。モルアは華やかなチャイナドレスに軽いメイク。
ゴロン(息を飲む):「うわ……モルアさん……綺麗すぎる……」
モルア:「ゴロン? わあ、今夜はすごくかっこいいわね。」
ゴロンが赤面し、無言で花束を差し出す。
モルア(驚き):「あ……私に? ありがとう。」
ゴロンが椅子を引き、優しく案内。
ゴロン:「どうぞ……お座りください……モルアさん。」
モルア(柔らかく):「うん……ありがとう。」
ウェイターが近づく。
ゴロン:「プレミアムコースを……」
モルア:「え! 普通のメニューでいいのに——」
ゴロン(首を振る):「いえ……モルアさんは……最高のものに値する。」
セトレのアドバイスを思い出す:彼女を安売りさせない。
ウェイターが頷き、去る。
ゴロン(そわそわ):「モルアさん、いいえ、レディモルア……手紙のこと……あれは、ゴロンです。」
モルアの顔が曇る。
モルア:「あなた……? 予想外だったわ……てっきり……」
ゴロン(真剣):「レディモルア……ゴロンは……」
ゴロンが手を伸ばすが、モルアが反射的に引く。
ゴロンの目が落ちる。
モルア(優しく):「ごめん……反射的に……」
空気が気まずくなる。料理が運ばれてくると、モルアが明るくなる。
モルア:「これ、すごい! どうやってこんな高いもの……?」
ゴロン:「紳士は……秘密を明かさない……今夜は楽しんでください。」
静かに食事。モルアは気まずさを埋めようと軽く話すが、ゴロンはやがて涙目で顔を上げる。
ゴロン(静かに):「モルアさん……ゴロンは……モルアさんのこと……好きです。」
モルアが止まり、優しく微笑む。
モルア:「ありがとう……本当に。でも……ごめんね。私の心はもう他の人に……」
ゴロンが悲しげに微笑み、立ち上がる。
ゴロン:「ゴロン……わかりました……ちょっと……席を外します……」
モルアが頷き、彼を見送る。
ゴロンは近くのクローゼットルームに入り、座り込んで静かに泣く。
僕とセトレが盗み聞きして忍び込む。
アストン(優しく):「ゴロン……大丈夫?」
返事はない。静かなすすり泣きだけ。
セトレ(腕を組む):「失恋……それが真の紳士の通過儀礼だ。信じろ、俺も経験した。」
アストン:「大丈夫だよ、ゴロン。泣きたいだけ泣け。ここは僕たちがなんとかするから。」
ゴロンが大声で泣く。
近くを巡回していた警備員が気づく。
警備員:「そこで何してるんだ!?」
アストン(慌てて):「あ! 友達にイタズラしてただけです! お化けの声! 怖い系ですよ!」
セトレ(わざと):「うおおお〜〜!」
警備員に僕とセトレは追い出される。
外で女子たちが駆け寄る。
アイビー(無表情):「ゴちゃん……告白したのね。」
レミア(ため息):「可哀想に……あの子、心が柔らかすぎるわ。」
ヴァルヨネッセ(僕にしがみつく):「アストン……私も振られたらどうしよう? 振らないよね?」
アストン(慌てて):「な、なんで今そんなこと聞くの!?」
セトレ(睨む):「ちくそっ! なんでお前ばっかり可愛い反応なんだ!?」
エリセナ(静かに):「セト……昔、振ってごめんね。」
セトレ(輝く):「本当か!? じゃあ……今なら受け入れてくれるのかい、エリ!?」
エリセナ:「いいえ、それは無理です。」
セトレ(崩れ落ちる):「二度目の拒絶……同じ女の子に……」
グラシア(静かに見つめ):「恋って……本当に複雑ね。」
――
第57章 紳士の涙 終




