過去からの花
翌朝、いつもの道を歩いてデュラン高校へ向かう。最後の角を曲がった瞬間、妙な光景が目に入った。
アストン(目を細めて):「何だあれ……ボディガード?」
校門周辺に十数人の黒スーツの男たちがたむろしている。インカムで話す者、周囲を警戒する者。緊張感が漂う。
少し先でグラシアとエリセナが一緒に歩いているのが見えた。僕は足を速めて追いつく。
アストン:「おはよう。急に警備体制どうしたの? 学校に戦争でも始まった?」
エリセナ(ため息):「絶対セトがやったことよ。あいつしかこんな大袈裟なことしないもん。」
アストン:「今度はどんな計画なんだ?」
エリセナ(肩をすくめて):「さあね。もう理解するの諦めた。」
グラシア(興味津々):「エリセナ……セトレは幼馴染だったって言ってたよね。昔はどんな子だったの?」
エリセナの表情が懐かしそうに柔らかくなる。
エリセナ(優しく):「昔は……こんなじゃなかったよ。十年前……両家の親が開いたパーティーで会ったの。パパが『グレッグソン家との縁を深めたい』って紹介してくれたんだ。」
場面がエリセナの記憶に切り替わる。
豪華な庭園。幼いセトレは完璧な青いスーツ。
恥ずかしがり屋のエリセナはフリルの黄色いドレスで、父のコートを掴んでいる。
幼いセトレ(自信満々):「ごきげんよう、ジョージアス様。セトレ・グレッグソンと申します……グレッグソン・グループの次期後継者、父アーサー・グレッグソンの息子です。」
エリセナの両親、ジョージアス・シルヴェストンとアリシア・シルヴェストンがその堂々とした態度と話し方に驚く。
アリシア(微笑み):「まあ……なんて賢い子!」
ジョージアス(笑顔):「さすがグレッグソン・グループ!」
傍らでセトレの父アーサーが誇らしげに反応。
妻エリザベスは幼い娘を抱き、優しく微笑む。
アーサー(ニヤリ):「グレッグソン家の後継者としては当然です。」
エリザベス(くすくす):「ふふ……私たちの誇りだもの。」
セトレの視線がエリセナに注がれる。
幼いセトレ:「こんにちは。僕はセトレ。君の名前は?」
幼いエリセナ(緊張):「う……こんにちは……あたし、エリセナです……」
幼いセトレ(微笑む):「エリセナ……素敵な名前だね。」
幼いエリセナの頰が赤くなる。初めての男の子からの褒め言葉。
幼いセトレ:「ねえ、すごいもの見せてあげる! ついてきて!」
幼いエリセナ:「えっ!?」
彼は幼いエリセナの手を掴んで走り出す。
エリセナ(語り):「屋敷の裏の丘に連れて行かれて……そこで見た景色に息を飲んだの。」
黄金色の陽光の下、色とりどりの花畑が広がる。幼いエリセナの瞳が輝く。
幼いセトレ(ニヤリ):「綺麗でしょ?」
幼いエリセナ(頷く):「うん! すっごく綺麗!」
幼いセセレ:「エリ……これ、君に。」
淡いピンクの花を摘んで差し出す。幼いエリセナは恥ずかしそうに小さな手で受け取る。
心がドキドキした。初めての、男の子からのロマンチックな仕草。
エリセナ(囁き):「あ、ありがとう……セト。」 *赤面
顔を上げると、セトレの姿はない。
エリセナ(困惑):「セト? どこ?」
気づくと、彼はパーティーの別の女の子にも花を渡していた。
幼いセセレ(ニヤリ):「パトリシアにはこれ! トリッシュにはこれ!」
パトリシア&トリッシュ(キャー):「きゃ~! ありがとう、セトレ様~!」
幼いセトレ:「君たちのためなら喜んで。」
興奮する二人を見て、彼は内心でニヤリ。
幼いセトレ(心の中で):「女の子の心を掴むなんて簡単だ。なんでみんなそんなに苦労してるんだ? 情けない。」
突然、淡いピンクの花が顔に飛んでくる。
幼いセトレ(驚き):「うわっ!?」
幼いエリセナ:「セトの バカ! 他の子にもあげてたの!? 大嫌い!」
幼いセトレ(困惑):「え? 待って! なんで?!」
幼いエリセナは走り去る。セトレは膝をつき、花が手に触れる。
幼いセトレ(衝撃):「エリ……なんで? 完璧にやったのに……なんで僕が、この俺様が拒絶された……?」
場面が現在に戻る。
エリセナ(くすくす):「セトは固まってたよ。あれが初めてフラれた瞬間だったのかも。」
アストン(笑う):「そうか……あれであいつが壊れたんだ。」
グラシア(ニヤニヤ):「まさかエリセナがそんなに心を折る子だったなんて。」
エリセナ(慌てて):「子供だったんだから! それに、セトレの“女の子コレクション”の一人になりたくなかっただけ!」
グラシア:「じゃあ……初恋だったの?」
エリセナ(赤面):「た、たった一分だけよ!」
アストン(くすくす):「その一分があいつを永遠に変えたんだな。」
グラシア(からかうように):「アストン! いじめないの。」
エリセナ(頰を膨らませ):「ふん! 男の子ってほんと女の子の気持ちわからないよね……」
アストン(笑顔):「その通りかもな。」
僕たちは学校に向かって歩く。朝日が背後に長い影を伸ばす。
その影の奥で……セトレの黒スーツの護衛たちの視線が、かすかに僕たちを見張っていた。
教室の窓の上。セセレが立ち、握り拳で下を睨む。
セトレ(つぶやき):「くそっ……平民の分際で俺様のレディたちを……」
背後から声。
グスタフ:「気持ち悪い光景だな。あいつに囲まれてる女の子たちは、本来お前のものなのに。」
セトレが鋭く振り返る。
セトレ:「またお前か? 言ったはずだ……平民を潰すのに手を組む気はない! グレッグソン家の誇りがある!」
グスタフ(ニヤリ):「けっ……好きにしろ。でもこのままじゃ、この学校の王の座はあいつに奪われるぞ。女の子たちもみんなあいつのものになるかもな。」
セトレの顎が強張る。
セトレ(怒り):「平民なんかにこの俺様が負けるわけない! 俺様はセトレ・グレッグソンだ! この学校の王になる! 俺様にふさわしい栄光を全部手に入れる!!」
グスタフは肩をすくめて去る。
グスタフ:「好きにしろ。ただ、負けた時は犬みたいに吠えるなよ。」
セトレ(ニヤリ):「あの平民を潰したら……次はお前だ。」
グスタフは静かに笑いながら去っていく。
昼休み。ロッカーを開けると、封筒が落ちる。
アストン:「手紙?」
エリセナ(驚き):「まさか……ラブレター!?」
グラシア(微笑む):「おお~……秘密の崇拝者ね……誰かしら?」
アストン(拾い上げる):「残念ながらそれは違う見たい。」
封を開けて声に出して読む。
アストン:「卑しい平民へ。放課後、体育館裏に来い。決闘だ。お前を叩き潰す! - セトレ・グレッグソン」
エリセナ(呆れ):「あのセト……『卑しい平民』って書いてるの?!……うわ、ほんとに無礼なやつ!。」
グラシア:「無視しなさい。注目されたいだけよ。」
だが僕は怖がるどころか、目が輝く。
アストン(興奮):「決闘!? ふむ、やっと誰かが僕に挑んできた! そう!これこそが本物の高校生活だ!」 *拳を握る
エリセナ(呆れ):「ちょっと!あなた本気……?」
グラシア(くすくす):「ふふ……またあの狂った目が光ってる。」
エリセナ(ため息):「もう止められないね……仕方ない、一緒に応援するよ。」
グラシア:「じゃあ決闘、見物しよう。」
二人とも笑顔になる。僕はロッカーを閉め、窓の方を向いて期待に胸を膨らませる。
チャイムが鳴り、放課後。
体育館裏でセトレが取り巻きの女子たちに囲まれている。手作り応援旗やリボンが揺れる。
取り巻き女子たち:「セトレ様~! 勝ってください! あの平民に王の力を見せつけて~!」
職員室から教師たちが騒ぎに気づく。
教師1:「あそこ、何してるんだ?」
教師2:「止めに行った方が……」
そこへ校長が現れる。
校長:「あの子はセトレ・グレッグソン。グレッグソン・グループの後継者だよ。」
教師1:「グレッグソン・グループ?!」
教師2:「あの巨大企業?!」
校長:「そう……昨日、グレッグソン・グループの資金力でこの学校の経営権を買収したんだ。」
教師1&2:「本当ですか?!」
校長:「だから……干渉しない方がいい。クビになるぞ。」
やがて僕が約束の場所に到着。夕暮れに照らされ、対峙する。
セトレ(ニヤリ):「よく来たな、平民よ。根性だけは認めてやる。」
アストン(拳を握る):「挑戦は大歓迎だ。見せてくれよ、君の力。」
遠くからクラスメイトのクリスタル・ラベンダーが群衆に気づく。
クリスタル:「あれって……アストンじゃない?」
足を止め、遠くから見守る。
観衆の歓声が大きくなり、決闘の火蓋が切られる。
――
第43章 過去からの花 終




