月光の下の決闘
研究室は柔らかな照明に照らされ、静かに魔力の残響が漂っている。
グラシアはクッション付きのベンチに座り、リシテアが空中に浮かぶ魔法の羽ペンを走らせながらメモを取っている。隅の魔力結晶が低く唸る。
リシテア(考え深く):「セルレアンの姫ともあろう者が完全に沈黙するなんて……どんな感情的トラウマが彼女をここまで抑え込むのかしら?」
グラシア(目を伏せて):「それは……恋だと思います。」
リシテアの手が止まる。羽ペンが空中で静止。
リシテア(信じられない様子):「恋!? まさか……アストンに?!」
グラシアは小さく頷く。
グラシア:「彼女は彼への想いがどれほど深くなったかを自覚して……耐えられなくなったんです。私には理解できないほど、心が捻じ曲がっていました。」
リシテア(つぶやき):「感情の破綻がソウル・スイッチを引き起こすほど強烈……興味深いわね。」
彼女は突然立ち上がり、浮かぶ羽ペンを払う。
リシテア:「服を脱いで。全身検査をするわ。」
グラシア(目を見開く):「え……?」
リシテア(ニヤリ):「安心して……私プロよ。信じて。」
ため息をつき、頰を少し赤らめながら、グラシアは従う。
魔法スキャンと体に浮かぶルーンが次々と光る検査の後、リシテアは首を振る。
リシテア:「身体的異常はなし……つまり完全に精神的な現象ね。」
グラシア:「……父に襲われた時……頭の中に声が響いたんです。『戦え、生き延びろ』って。その後、夢の中で彼女に会いました。セルレアンの姫に。」
リシテア(驚き):「会ったの?」
グラシア:「ええ……一瞬だったけど。母に似ていた……いえ、大人になった私の姿……でも冷たくて鋭い。彼女に叱られて……それから体を乗っ取られたんです。」
リシテア:「なるほど……抑圧された本能の具現化ね。でもこの場合、セルレアンの姫があなたを救うために出てきた……驚異的だわ。」
グラシアの手がわずかに震える。
グラシア:「そう……彼女はすごかった。私にないすべてを持っていた。賢くて、計算高くて、勇敢で……私はただ弱いだけ。」
リシテアはすぐに手を伸ばし、強く抱きしめる。
リシテア:「違うよ。あなたは別の強さを持ってる。あなたも彼女も……私にとって大切な子よ。」
グラシアの瞳が輝き、アメジスト色の目から涙がこぼれる。
グラシア(囁き):「本当……ですか?」 *すすり泣く
リシテア(優しく):「え……いつもよ。」
――
一方、郊外の住宅街。僕はギエラス家の門を開ける。
家に入った瞬間——
アストン:「ただいま。」
キッチンからステラの声。
ステラ:「おかえり、お兄ちゃん! 別に待ってたわけじゃないんだからね!」
叔父サイモン(笑い):「はは……おかえり、坊主。ステラは君がいない間にカレーライスをマスターしようと頑張ってたぞ。」
ステラ(赤面):「お、お父さん!」
アストン(笑顔):「え、カレーライス!? 僕の好物! ありがとう、ステラ……いや〜、恋しかったよ。」
近づいて優しく頭を撫でる。彼女は何も言わず、瞳がきらめく。
ステラ(つぶやき):「バカお兄のくせに……」 *赤くなる
叔父サイモンがソファに座り、懐かしげに話す。
叔父サイモン:「で、どうだった? キャンプは。」
アストン(ニヤリ):「爆発的だったよ。いろんな意味で。」
ステラがカレーをかき混ぜる中、僕はリビングで叔父と話す。
アストン:「叔父さん……このペンダント、知ってることはある?」
サイモンの視線が僕の首の小さなチャームに注がれる。彼は静かになる。
叔父サイモン(慎重に):「その欠片か……十六年前、お前の父さんが発掘現場で見つけたものだ。呪われているって言ってたが、私が持ってる限りは何も起きなかったぞ。」
アストン:「父さん……僕の両親のこと、もっと教えてくれますか?」
ステラがキッチンからこっそり聞き耳を立てる。
叔父サイモンが懐かしげに目を細める。
叔父サイモン:「君の父さん、クリフ・ヘイルファイアは変わり者だった。冒険に生きる遺物発掘者。君の母さん、メリーサ・ゴールドフォートは研究者……頭が良くて頑固で、いつも古文書に没頭してた。」
僕は真剣に聞く。ステラもキッチンから完全に聞き入る。
叔父サイモン(微笑む):「二人は発掘現場で出会った。クリフが危険だって警告したのに、メリーサは譲らなかった。そしたら崩落に巻き込まれて……食料も水もない。数日間。」
アストン(驚き):「閉じ込められた!? どうやって生き延びたの?」
叔父サイモン:「メリーサが言うには、クリフが一番暗くて絶望的な状況でも笑わせてくれたんだって。それでわかったって。」
ステラ(心の中で):「なんか……ロマンチックですね……」
僕はペンダントを見下ろす。
アストン:「それで……本当に……どうやって亡くなったの?」
サイモンが一瞬止まる。顎髭を撫でながら考える。
叔父サイモン(静かに):「今夜、道場に来い。全部話す。」
僕はゆっくり頷く。彼の意図を理解する。
アストン:「わかった。」
突然——
ステラ(パニック):「あっ、あっ、あっ!!」
キッチンから煙が立ち上る。駆けつけると、ステラが真っ黒になったカレーの鍋を絶望的に見つめている。
アストン(明るく):「大丈夫だよ、ステラ。僕、食べるから。」
ステラ(涙目):「バカ! 嘘つかないでよ!」
彼女は部屋に駆け込み、ドアをバタン。
叔父サイモン(ため息):「放っておけ。あの子、君のために一生懸命だったんだぞ。」
僕はしばらく煙が晴れるのを見ていた。そしてステラのカレーを一口。
アストン(微笑む):「見た目はともかく……これ、美味しいな……」
皿に山盛りのご飯に黒焦げカレーをかけ、夕食として楽しむ。
アストン(心の中で):「ダーク・リールムで美味しいものたくさん食べたけど……やっぱり家族の手料理が一番だな!」
夜が訪れる。
家の裏にある道場は静か。東洋風の庭と池が月光に照らされている。
叔父サイモンは中央で正座し、目を閉じて瞑想している。
僕は稽古着に着替え、竹刀を持って入る。
叔父サイモン(ニヤリ):「へっ。何も言わなくても準備万端か。さすが私の甥だ。」
サイモンが立ち上がり、もう一本の竹刀を手に構える。
叔父サイモン:「最後の剣の稽古から随分経つな坊主……腕が鈍ってないといいんだが。」
旅での成長に自信を持ち、僕はしっかり構えて微笑む。
アストン:「じゃあ、一緒に確かめようか、叔父さん。」
叔父サイモン(興味深げ):「自信満々だな。私に内緒で鍛えてたのか?」
アストン:「うん……なんとなくね。」
叔父:「なら手加減はしないぞ。本気で来い。」
アストン(少し緊張):「そ、そう来ると思ってたよ、叔父さん。」
互いに礼をし、静かに向き合う。竹刀を構え、緊張が空気を満たす。
池の竹の音がカチンと鳴る。
叔父サイモン:「いくぞ!」
*シュオオオッ!!
サイモンが目にも止まらぬ速さで突進。上段から振り下ろす。
アストン(驚き):「うわっ!?」
僕がかろうじて受け止め、突きで反撃。
アストン:「ソニック・スタブ!」
サイモンは身を捻ってかわし、後退。僕は鋭く下段斬りを繰り出す。
サイモン:「甘い!」
効率的に受け流す。そして僕の胴に隙を見つけ、横薙ぎ。
アストン:「迅足!」
一瞬で後退し、回避。
サイモン:「へっ。いい動きだ坊主。」
サイモンは怯まず、跳躍しながら斜め斬り。僕は腰を捻ってかろうじて避ける。
サイモンは僕の動きを読んでいたようにニヤリ。そして秘技を繰り出す。
叔父サイモン:「これを凌げるか、坊主?」
しっかり踏み込み、剣を鞭のようにしならせる。
叔父サイモン:「ギエラス流・五頭龍斬!」
五つの斬撃がほぼ同時に異なる角度から襲う。剣術の達人ぶりを示す。
アストン:「アブソルート・パリー!」
絶対受け流しを発動し、かろうじて全てを弾く。
サイモン(驚き):「何!?」
アストン:「今だ! フラシュ・スラシュ!」
僕は閃光斬を放ち、叔父の胴を狙う。
サイモン:「甘いぞ!」
跳び上がり、剣を杖のように地面に突き刺して跳ね上がり、体を回転させて背後を狙う。
アストン(驚き):「まずい!」
サイモン:「ギエラス流・狼牙突き!」
鋭く正確な突きが背中を狙う。僕はダーク・リールムでの暗殺者との戦いを思い出す。
僕は身を低くしてかわし、踵を返して反撃。
サイモン(息を飲む):「ありえん!」
アストン(叫び):「飛龍斬!!」
剣が叔父の首筋スレスレで止まる。斬撃の風が髪を揺らす。
互いに下がり、礼をする。
叔父サイモン(誇らしげに微笑む):「よくやったな、坊主……俺を上回ったぞ。」
アストン(息を切らして):「そんな、運が良かっただけ……かも。」
叔父サイモン:「違うぞ。タイミング、判断、成長……すべてだ。」
ドアの陰からステラが静かに見守り……微笑む。
――
第39章 月光の下の決闘 終




