深紅の光お別れ
解放されたばかりのヴァイオレット城の上に朝日が昇り、街全体に温かな光を投げかける。
僕たちは大門の前に立ち、人間界への帰還の準備をしていた。
王族の華やかな衣装を纏ったヴァルヨネッセが堂々と立ち、背後には民とレジスタンスの面々が整列している。
アストン(静かに):「……本当に、これでお別れか……」
ヴァルヨネッセ(頷く):「今はね。ここでやるべきことがまだたくさんあるから。でも、あなたたちは十分すぎるほどやってくれたわ。」
別れの言葉を交わし始めた時、ニルが駆け寄って僕に強く抱きつく。
ニル:「ありがとう、黒犬——じゃなくて、アストンお兄ちゃん! 私これからいい子にするよ!」
アストン:「約束だぞ。お父さんとお母さん面倒、ちゃんと見ててよ?」 *頭を撫でる
ニル(満面の笑み):「うん!」 *喜びで輝く
彼女は両親、カザクとアイシャの元へ走り戻る。二人は深く頭を下げる。
カザク:「スレイヤーズの皆さん、心からの感謝を……私たちは皆、あなたたちに借りがある。」 *深くお辞儀
アイシャ:「本当に……ありがとうございました……」 *一緒に頭を下げる
アストン:「カザク卿、アイシャさん……顔を上げてください。借りなんてありません。」
カザク:「黒犬卿……いえ、アストン卿……あなたの優しさは決して忘れません。」
アイシャ:「何か必要な時はいつでも言ってください……喜んでお手伝いします。」 *優しく微笑む
ニル:「うん! たまには遊びに来てね!」
アストン:「もちろん!」
エリセナは新しい獣人友達、クマ、パンダ、ポーラに抱きつき、涙をこぼしながらぎゅっと抱きしめる。
エリセナ(泣きながら):「みんな、すっごく寂しくなるよ……!」
クマ(優しく):「私たちも寂しくなるよ、エリちゃん……」
パンダ(涙目):「いつでも戻っておいで!」
ポーラ(穏やかに):「泣かないで、エリちゃん……楽しいお別れにしよう。」
エリセナ(笑顔):「うん……そうだね!」 *涙を拭う
獣人三兄弟がエリセナをもう一度強く抱きしめる。
エリセナ(笑顔):「へへ……みんな大好き!」
一方、グラシアは少し離れて立ち、昨夜から思いに沈んでいるようだった。あまり口を開かない。
グルフが近づく。
グルフ:「白龍さん……ありがとう。とくにサンドローザのこと。」
グラシア(困惑):「サンドローザ? あの廃村のこと?」
グルフ(ニヤリ):「そう! 俺の故郷だ! あの村長は俺の親父なんだぜ!」
グラシア(目を見開く):「え!? でも……あなたは獣人なのに。」
グルフ(大笑い):「ハハハ! 養子だよ! ガキの頃から育ててもらった!」
大きなごつごつした手を差し出す。
グルフ(微笑む):「白龍さん、俺たちの救世主になってくれてありがとう。」
グラシア(かすかに微笑む):「これからは自分の故郷を守りなさい。」
二人は固く握手する。
その頃、モルアは興奮した悪魔の子どもたちに囲まれていた。
小さな悪魔少女(輝く目):「かっこいい! 私も大きくなったらモルアさんみたいになる!」
モルア(優しく微笑む):「なら強く育ちなさい。そして誰かを守ってね、いい?」
小さな悪魔少年:「風虎さん! 持ち上げて!」
小さな悪魔少女:「ずるい! 私も持ち上げて!」
モルア(笑顔):「はいはい……順番ね?」
一人を持ち上げ、くるくる回す。笑い声が中庭に響く。
ヴァルヨネッセが女王の衣装で近づいてくる。歩みは堂々と、しかし心は重い。
レジスタンス全員が即座に跪く。
グラシア、エリセナ、モルアも自然と従う。僕は呆然と立ち尽くし、ヴァルヨネッセの輝く美しさに魅入られる。するとグラシアが杖で僕の頭をコツン。
ヴァルヨネッセ(くすくす):「ふふ……みんな、堅苦ししないで。あなたたちには必要ないわ。」
僕たちは立ち上がる。
ヴァルヨネッセ(静かに):「これでお別れね。」
アストン(頷く):「うん……元気でな、ヴァルヨネッセ。」
エリセナはもう涙を抑えきれず、飛びついてヴァルヨネッセを強く抱きしめる。
エリセナ(泣きじゃくり):「ヴァル……! すっごく寂しくなるよ!」
ヴァルヨネッセは唇を噛み、涙を堪える。
ヴァルヨネッセ(涙目):「うん、エリ……私も寂しい……」 *優しく微笑む
グラシアが近づき、エリセナを優しく引き離す。
グラシア:「エリセナ、辛くならないようにね。」
エリセナはグラシアを見上げ、彼女の目も潤んでいることに気づく。
エリセナ(鼻をすする):「グラシア……? あなたも泣いてる?」
グラシア(涙目):「泣いてないわ! 絶対に!」 *涙を拭う
ヴァルヨネッセがそれを見て、グラシアに近づく。
ヴァルヨネッセ(優しく微笑む):「グラシア……私たち、そんなに親しくなかったかもしれないけど……抱きしめてもいい?」
グラシア(驚き):「え!?」
答えを待たず、ヴァルヨネッセが強く抱きしめる。グラシアは少し抵抗しつつ、抱き返す。
ヴァルヨネッセ(微笑む):「来てくれて、本当にありがとう、グラシア。」
グラシア(赤面):「う……別に……」
抱擁が終わり、温もりが残る。
モルアが前に進む。
モルア:「王族の作法は苦手だけど……これから自分の民は、自分の力に守ってくれ、王女。」 *肩を叩く
ヴァルヨネッセ(驚き):「悪魔の死刑執行者、風虎のモルアさんからそんな言葉……すごく嬉しいわ。」
モルア(ニヤリ):「私はもうあんなに冷酷なだけじゃないぞ!」
ヴァルヨネッセ(目を見開く):「本当!?」
二人は意味深な笑みを交わす。
ヴァルヨネッセ(からかう):「ふふ……覚えてる? 私を真っ二つにしようとしたこと。あとアストンもね。」
モルア(笑う):「はは……あれは手加減したのよ! あいつにはあとでちゃんと謝ったし!」
二人が笑い合う。
僕が遠くでくしゃみをする。
護送の荷車が到着。ついに別れの時。
ヴァルヨネッセが去ろうとする。僕は思わず手を伸ばすが、グラシアが静かに首を振る。
僕は頭を下げる。
だがその時——
ベリンダ(そっと横に):「王女様……本当にこのままでいいんですか? アストンとこんな形に別れるとわ。」
ヴァルヨネッセ(囁き):「よくない。でも……私の民を前で、弱みなんて見せられないわ。」
ベリンダ(優しく微笑む):「なら、見せないで伝えなさい。」
彼女がヴァルヨネッセを軽く押す。
ヴァルヨネッセが振り返る。
アストン(目を見開く):「ヴァル……?」
彼女は僕に飛びつき、強く抱きしめる。僕も抱き返し、彼女は僕の胸で泣く。
アストン(優しく):「ヴァルヨネッセ……今までありがとう……。僕たちの世界に来てくれて、僕の家族を自分の家族のように扱ってくれて……一番暗い日々に光をくれたこと。」
ヴァルヨネッセ(すすり泣く):「アストン……」 *優しく微笑む
突然——
*チュッ!
唇にキス。
時間が止まる。
群衆が息を飲み、女子たちが呆然とする。
ヴァルヨネッセ(女子たちに囁く):「彼の初キス、私がもらっちゃった! てへっ……」 *舌を出す
アストン(蒸気):「なっ……!?」 *気絶
僕はその場で倒れる。
エリセナ(嫉妬):「ヴァル!! ズ、ズルい……!!」
グラシア(真っ赤):「信じられない!!」
モルア(感心):「おお……」
荷車が城から離れていく。女子たちは車内に乗り、僕を置いて行く。
アストン(目覚めて):「待て……みんなどこ!? おい!」
僕は慌てて起き上がり、荷車が遠ざかるのを見る。
モルア(叫び):「遅れたら置いてくぞ!」
エリセナ(ぶつぶつ):「ヴァルと一緒に残ればいいのに! 喜ぶでしょ!」
グラシア(静かに):「なんでこんなに……胸が痛いんだろう……?」 *胸を押さえる
僕は迅足を連発し、荷車に飛び乗る。
振り返ると、ヴァルヨネッセのシルエットが遠ざかる。
アストン(つぶやき):「いつか絶対に戻ってくる。」
荷車の中で緊張が漂う。エリセナは不機嫌を隠しきれず、皮肉っぽく呟く。グラシアはぼんやりと虚空を見つめる。僕はため息。
モルア(囁き):「リーダー……これをなんとかするのはあんたの仕事だ……」
アストン(ためらい):「……わかった」
モルア(少し赤面):「あと、たまには私にもちゃんと構ってくれ。」
アストン(敬意を持って微笑む):「もちろん、師匠!」
モルア(ため息):「ダメだこれは……」
商人町ポリに着く頃、深紅の空が地平線を染めていた。
御者に礼を言い、僕は焚き火を囲んでみんなを集める。エリセナはまだむくれているが耳を傾け、グラシアもぼんやりしながら加わる。
アストン:「僕たちの使命は……ヴァルヨネッセを人間界に連れ帰ることだったが……」
モルア:「失敗だ。リシが絶対に怒るぞ。」
アストン(恐怖):「どれくらい怒る?」
モルア(淡々):「前回失敗した時は、500回の鞭打ちだった。」
アストン&エリセナ(同時に):「なにぃ!?」
同時に叫んだ僕とエリセナの目が合う。僕は優しく微笑む。
アストン(静かに):「最悪の事態に備えようね。」
エリセナは赤面し、なぜか僕の唇を見つめる。すぐに目を逸らす。
グラシア(僕たちを見て、つぶやく):「まただ……なんでこんなに……痛むの……?」 *胸を押さえる
彼女は僕の隣に座り、肩に頭を預ける。
僕は驚きつつ、そっと受け止める。
アストン(微笑む):「疲れているのか……お疲れ様、グラシア。」
頭を肩に預けたまま、グラシアの目が突然見開く。
グラシア(静かに、赤面)(この気持ち!? この鼓動の速さ!? 嘘でしょ……! 私、彼に恋してる!?)
天才の氷の魔術師は、初めて教科書にないことを理解した。
グラシア(心の中で):「……これが、恋なのね。」 *目を閉じる
――
第33章 深紅の光お別れ 終




